limited express NANKI-1号の独り言

折々の話題や国内外の出来事・自身の過去について、語り綴ります。
たまに、写真も掲載中。本日、天気晴朗ナレドモ波高シ

life 人生雑記帳 - 47

2019年09月22日 15時26分31秒 | 日記
「臭いな!これもYが策を仕掛けた結果か?」「ああ、陰険禿2匹には、“相応の報い”を受けてもらうさ!そのためにも、痛くもない腹も探らなきゃならない。これでも、一応は“弁護側”だからな。原田、包み隠さずに答えてくれよ!」僕等は鼻声で喋り出した。鼻にはティシュが詰め込まれている。陰険禿2匹が持ち込んだ臭気は、大分薄らいではいたが、消毒用エタノールと混じり合い校内に居座り続けていた。「単刀直入に聞く。ドジを踏んだのは“皇太子”だな?」僕が斬り込むと「そうだ、何処で間違えたのか不思議だが、“実弾”が陰険禿2匹の手に落ちてしまった!カネと女と酒の匂いには殊の外、敏感な奴らだ。揺すられるまで左程の時間はかからなかったよ」と原田は素直に応じて来た。「それで、緊急対応としてとりあえず“辞表”を出した。そして“Bスイッチ”の起動に賭けたか?」竹ちゃんも斬り込む。「そうだ、他に道は無かった!俺としては最善手を選んだつもりだ。2人が“弁護側”とは以外だったがね」原田は薄笑いを浮かべた。「渡した“実弾”は幾らだ?」「60だ」「手元に半分あるとして、120〜150はあったって事か。竹ちゃん、これは“オフレコ”にしてくれ!残りの所在は?」「自宅だよ。慌てて持ち帰った。60は、黒い手提げ金庫に入れて“皇太子”に渡したが、池野に押収されたよ。相変わらず鋭いな!この事は表沙汰になるのか?」「出来るもんか!墓場まで持って行くんだ。“実弾”が表沙汰になるのはヤバイ!あくまでも、隠し通せ!それこそ総辞職の上、“暫定政権”に移行されちまう!この件は、ウヤムヤの内に闇に葬るしか無いんだ!まずは、陰険禿2匹に出来る限り散財させる方向で策を考える。高い授業料にはなるが、そうすれば実害は最小限に抑えられる。お前さんと“皇太子”が口を割らなければ、雲散霧消で片付けられるだろう。“皇太子”には、厳重に釘を刺して置いてくれよ!」「うむ、やはりそれしか無いか。いいだろう!この難局を乗り切るためなら仕方ない。“皇太子”には暫くは“派手な真似はするな!”と諭して置くよ」「そうと決まれば、“検察側”の長官達と摺り合わせて、“辞表”は無効。会長が辞する事では無いと言う方向持って行けばいい。非公開生徒総会で可決成立させれば、嫌疑は解けるし“謹慎”もオシマイに持って行けるだろう。学校側にしても、監査委員会の勧告は無視出来ない仕組みだから、この線で押し切るぞ!一応、腹だけは括って置いてくれよな。土俵際で“うっちゃる”んだ。我々2期生の真価が問われる場でもある。陰険禿共の勝手な思惑通りにはさせん!不満もあるだろうが、多少なりとも目は瞑ってくれよ!」僕がそう言うと「Y,何故俺を倒さなかった?何時でもやれたろうに、“クーデター”を仕掛けなかった理由は何だ?」と原田が言う。「“大きな過ぎる看板”を背負う自信が無くてね。それに、第一窮屈じゃないか!僕は、自由に動きたいだけさ!」と受け流す。「実力は申し分無いし、智謀も知略にも長けている。欲が無いのが惜しまれるな」と原田は言う。「だから、こうして“弁護側”に立てる。“陰の実行部隊”の方が性に合ってるって事さ!原田、“演目”は決まった。名演技を期待してるよ!」僕と竹ちゃんは椅子から立ち上がる。「もうドジは踏まないさ!我々は間違ってない事をしかと証明してやる!」原田は決然と言った。「それでいい。任せたぞ!」原田の肩を叩くと僕等は保健室を後にした。

少し、時間を巻き戻そう。坂野が“警告”をして回った直後に、校内は悪臭に包まれた。魚の腐敗した様な異様な臭気は、全校生徒だけでなく教職員にも、猛烈な不快感を抱かせた。「社会人たる自覚があるのか?!しばらく教鞭など取らずともいい!社宅で謹慎しておれ!」と校長先生は怒り心頭で陰険禿2匹に申し渡して、早々に学校から追い出した。佐久先生達が一斉に消毒用エタノールを撒き散らしたものの、臭過ぎる悪臭は中々消えなかった。僕等は、鼻にティシュを詰めて配られたマスクをして、授業を受けたが各教科の先生達も嫌気が刺したのか?殆どが“雑談会”に終始して午前中が終わったのだった。そんな中、佐久先生から「Y,何を仕出かした?悪臭の原因は、お前達の仕業だろう?」と誰何して来た。僕等は、陰険禿2匹の社宅のライフラインを停めた事を告げると「相変わらず、容赦無しだな!だが、何時まで続けるつもりだ?誤魔化すにも限界はあるぞ?」と問われた。「ええ、余り長引かせると事が露見しますから、まず、水は通しても構いません。校用技師の先生の立場もありますし、後3〜4日は“日干し状態”にして貰えれば充分です」と言った。「その間に次の策を実行に移すつもりだな!まあ、何を仕掛けるか?は聞かないでやるが、今朝の異臭騒ぎのお陰で陰険禿2匹の評価は急落した!原田に対しても責任を問う声もトーンダウンしつつある。一気に風向きが変化しているから、俺はこの隙を利用して沈静化を進めるぞ!ライフライン停止の件も手を回して置こう。“親父”もお前達の手腕に期待してる!教職員は、こっちで何とかするから、お前達は生徒総会で上手く逆転へ持って行け!“親父”は監査委員会の勧告は聞き入れる方向に傾いてる。Y,お互いに全力を尽くすぞ!陰険禿2匹の陰謀を打ち砕け!」と言ってバシバシと肩を叩いた。「言われるまでもありません!2期生の底力を見せ付けてやりますよ!」と僕は返した。

僕等と原田が話し合っている頃、社宅に追い返された陰険禿2匹の元には、校用技師の先生が訪れていた。技師は図面を頼りに、電気、ガス、水道を調べ始めた。「何とかなりそうですか?」池野が藁をも縋る様に聞いていた。「何とも言えません。まずは、原因を突き止めなくてはなりません。無理なら業者を呼ぶしかありませんね」と言って水道のメーター付近を探った。「大量の水を一気に流したりしてませんよね?ここは、高台なので水圧が高いのです。破裂防止に自動遮断弁が付いてますから、そこをリセットして見ましょう!」技師は遮断弁を解除した振りをして元栓を開けた。佐久先生からは、既に抜け目なく“指示”が飛んでいた。「カランを開いてもらえます?」技師の指示で、池野はキッチンの水栓を開いた。「おお!水が出る!」市野沢も洗面台のカランを開けた。「水が戻った!」2匹は感動して言った。続けて、技師は電気とガスのブレーカーと元栓を調べる振りをした。坂野達が遮断したブレーカーと元栓が確実に停まっているのを確認すると、図面に見入ってから池野と市野沢の部屋の中の電源ブレーカーの蓋を開けた。佐久先生からの指示では“回路を遮断しろ!”との厳命が下っていた。技師は、調べる振りを続けながらコードを1本外してしまった。これでメインブレーカーを入れても電気は復旧しない。ガスメーターには、プラスチックハンマーの連打をお見舞いしてあったから、遮断弁によって供給は停められている。「照明を付けて見て下さい。それと、ガスレンジは使えますか?」技師は、何食わぬ顔で言う。2匹はスイッチを入れたり、ガスレンジを操作したが反応は無かった。「ダメだ!」「両方ともダメだ!」2匹はガックリと肩を落とした。「うーん、これでもダメとなると、業者に見てもらわなくては無理ですね。下手にいじるとショートやガス漏れの危険性がありますから」と言って技師は早々に修繕を打ち切った。「原因は何です?」「それが分かれば復旧してるはずですよ。分からないから復旧しないのです。電気屋とガス会社へ連絡してみますが、今日中に来れるかどうか?」池野と市野沢はへたり込んだ。「今夜も車中泊か・・・」「トイレは使えるが、煮炊きと洗濯と風呂はお預けとはな・・・」2匹は天を仰いだ。「ともかく、最速で手配をかけますが、今日中の復旧は諦めて下さい。では、私は他の作業もありますので、学校へ戻りますね」と言って校用技師は引き上げて行った。「水だけかよ!」市野沢が壁を叩いて悔しがる。「トイレが復旧したのは大きい。昨日よりはマシだろう?」池野が言うが「これでは蒸し風呂状態でまた臭くなるだけだ!池野!飲みに出るぞ!どうせ、やれる事は無いんだ!」と市野沢は早くも“戸塚宏”に豹変していた。「仕方ない。付き合うか」池野は黒い手提げ金庫から“実弾”を15発ほど取り出すと財布に収めた。陰険禿2匹は、市野沢の臭い車に乗り込んで街へ繰り出して行った。

放課後、保健室に陰の部隊が集結すると「陰険禿2匹は、当面“謹慎”を申し渡された。原田も“事情聴取”に素直に応じた。条件は整いつつある。次の策は、如何にして“実弾”を使わせて、雲散霧消に持ち込むか?だが、その前に報告を受けよう。石川、本橋、4期生は“感染”させられたか?」僕は2人に問うた。「はい、実情をようやく理解し始めました!」「“向陽祭”で参謀長の下で働いた者達が、意外にも積極的に動いてくれまして、“来年は自らが3期生の先輩に協力して働かなくてはならない”と言う趣旨の意識付けをしています。これで4期生は一先ずは安心かと思います!」「うむ、気を抜くな!非公開生徒総会まで継続して動きを続けろ!山本と脇坂からは、何と言って来ている?」「陰険禿2匹は、社宅に居ません。飲みに出掛けた様です。市野沢の“臭い車”が消えているそうです。深夜にならないと帰宅しそうにないとの事です!」「よし、よし、そうでなくては困るんだ。道子、“署名活動”は順調かな?」「ええ、女子から進んでいるわ。明日には2期生全員に回るはずよ。Yと竹ちゃんも署名してよ!」「勿論だ!さて、そうなると次の策を実行しなくてはならないな。原田が“皇太子”に渡した“実弾”60発を早急に使い切らせなくてはならない。陰険禿2匹の行くスナックやキャバレーだけでは限界がある。危ない策ではあるが、市野沢の車に細工を施さなくてはならんだろう!小松、親父さんのところのディーラーで、市野沢の車のメンテナンスをやっているのは間違いないな?」「ああ、それは確かだ。Y、何を仕掛けるつもりだ?」「まずは、タイヤの空気を抜く!スペアも含めてな。奴らは“車に鍵を付けたままにするクセがある”と山本と脇坂から報告が入っている。そこでだ、明日の朝早くに細工を施してしまうんだ!見張り部隊は、吉川と小松と今野に飯田。実行部隊は、僕と坂野と宮崎で担う。工作部本隊は、明日の朝午前6時半に神社の大鳥居の下に集合だ!」と僕が宣言するが「Y、お前さんはマズイぞ!指揮官であり、特別監察官である事を忘れてもらっちゃ困る!どっちにしても、“犯罪”をやらかすんだ。上が手を染めるべきでは無い!」と宮崎が反対した。「そうだな!“特攻”を仕掛けるなら尚更、指揮官としての責務を果たせ!汚れるのは俺達だけでいい!Y、部下を信じろ!俺達は、お前さんの命なら捕まってもいいと思ってる!後は任せるから、陰険禿2匹を必ず地獄へ送れ!手を汚すのは許さんぞ!」と坂野も止めに入った。坂野を筆頭にした6人は、皆同じ思いを眼で訴えて来た。「分かったよ!宮崎、坂野、済まないがよろしく頼む!」僕は止む無く折れた。「心配するな!俺達が早々簡単に捕まる様なドジは踏まないさ!必ず成功させる!」今野が笑いながら言った。こうして、“特攻”を仕掛けるべく僕等は動き出した。しかし、この策は実行されなかった!と言うか“必要が無くなった”と言った方が正しいかも知れない。その夜の警察の取り締まりで、市野沢が“酒気帯び運転で検挙”されてしまったのだ!翌日の朝から学校は大嵐のど真ん中へと放り込まれたのだった。

翌日、1時間目、2時間目共に“自習”となり、教職員全員が“非常事態”の対応に追われて職員室に缶詰めになった。時折、丸山先生から“極秘メモ”で情報が知らされたが、事は思った以上に深刻だった。「参謀長、進展は聞いて居るか?」長官が不安そうに聞いて来るが「途切れ途切れの情報を繋ぎ合わせる限り、校長以下全職員が対応に苦慮しているのは推察できますが、如何せん我々は“蚊帳の外”ですからね。余りにも事が大き過ぎて、学校としては県教委の判断を待っている模様です。この手で鉄槌が下せないのが歯がゆいですよ!」と臍を噛むのが関の山であった。「しかし、マズイな!下手をすれば校長の進退問題に発展しかねん!何か手は無いだろうか?」長官の言葉も歯切れが悪い。「長官、参謀長、ちょっといいか?」伊東が肩を叩いた。教室の入口に原田が居た。3人で廊下に出て原田を含めて情報を交換する。「どうなるんだ?」原田の顔色も悪い。「1つだけ言えるのは、お前さんの“辞表”や“謹慎”云々は、最早どうでもいいって事だよ。陰険禿2匹が警察沙汰を起こしたんだ。ポスターの“ミスプリント問題”どころじゃ無い。社会的な責任問題の方が優先事項だ。落としどころをどうするか?県教委の判断次第だな」僕の答えもあいまいに成らざるを得ない。正直な話、誰もが情報不足で困っていた。「完全に“シャットアウト”されてるからな。我々生徒が真相を知るのは“処分”が決まってからだろう。今回ばかりは、探りを入れる隙すら無いんだろう?」伊東も言葉に力は無い。「長官、参謀長、金曜日の生徒総会はどうする?」原田が聞いて来る。「開く意味があるか?陰険禿2匹も“タダでは済まない”状況だぜ。開催する“大義”が無くては、ただの“報告会”にしかならない。今回の一件は、臨時の“生徒会報”を出して終息させるのがベストじゃないか?」僕がそう言うと長官も黙して頷いた。「曖昧に処理するのがベストか。確かに下手な説明をするよりは、雲散霧消にするのが最良だな。参謀長、“例の話”は、お前さんと竹内しか知らないんだろう?」原田が確認を入れて来る。「言っただろう?墓場まで“持って行く”と。今更蒸し返すな!」僕は語気を強めて原田の口を塞いだ。その時、司書の小平先生が走って来て、僕に紙片を手渡すと「内緒よ!」と言うと大急ぎで走り去った。「何か動きがあったな!参謀長、内容は?」と長官が急かす。僕は紙片を開くと素早く文字を追った。「郷原一族に“一任”する様ですね!」僕は紙片を長官に渡した。伊東も原田も長官の背後に回って文字を追った。「この際、手段を選んでは居られぬと言う事か。校長の首を繋ぐとすれば、これしかあるまい!」「だが、諸刃の剣にならないか?郷原の力が強まるぞ!」原田が言うが「他に手はあるまい。藁をも縋るつもりで“一任”を取り付けたに違いない。事が事だけに県教委の“最大派閥”の影響力に賭けたのだろう。今の最善手はこれしか無い!」長官も唇を噛んでいる。「タダの飛車じゃない。いずれは翻って龍になる事は時間の問題だからな。最強のカードを切らなきゃ事は治められない!って事だろう。今の郷原の処遇は、一時的なモノに過ぎない。2~3年後には県教委に椅子が出来る。我々の世代に対する影響は限定的だし、4期生以降は、僕等の感知するところでは無い。やはり、選択肢はこれしか無かったと見るべきだろうよ」僕も長官の意見に同調した。「参謀長、中島先生か佐久先生に、この辺の経緯は聞けそうか?」伊東が突っ込んで来る。「事が決まれば、聞くことは出来るだろうよ。ただ、表立っての公表は止められるだろうが・・・」「いずれにしても、探りは入れて見てくれ。断片的でも情報を引き出せるのはあの2人だけだ。向こうも、Yになら話す確率は高いしな。これからどう動いていくか?決めるならそれを待つしか無い!」原田も慎重論を取った。「いずれにせよ、難しい任務になる。参謀長、済まぬが引き受けてくれ!」長官が僕を指名して依頼して来る。「旅順要塞に肉弾戦を挑む様なものですよ。203高地からの砲撃は無理でしょう。正面から突破できる保証はありませんが、智謀の限りを尽くして見ましょう」僕は仕方なく引き受けを表明した。今回は、容易には行かないのは承知の上でやるしか無さそうだった。

翌朝、僕はいつもより早めに登校して、生物準備室の前に座り込み、中島先生が出勤して来るのを待ち構えていた。大汗を流し、息は荒い。“要塞への正面突破攻撃”をかけて、情報を手に入れなくてはならなかったが、勝算は薄いと見ていた。警察沙汰になった教員の処分について、いくら信頼があるとは言え、先生が何処まで明かしてくれるか?全く見通しは立っていなかったからだ。「今までとは違う。“トップシークレット”と言われれば、引くしかないな・・・。粘れる範囲でやるしかあるまい」荒い息の中そう呟いていると、階段を昇る足音が聞こえて来た。「Y、こんなに早くにどうした?汗だくじゃないか!まあ、中に入れ」中島先生は、準備室を開けると僕を応接セットに座らせ、冷蔵庫からアイスティーを取り出し、グラスに淹れて「ゆっくり飲んで汗を拭け」と言った。カラカラになった体に水分は直ぐに浸み込んで行く。荒い息を整え、汗を拭うと少し落ち着いた。「また、“貧乏クジ”を引かされた様だな。お前が焦って来たと言う事は、昨日の職員会議の一件だろう?犯人は、山岡と原田だな!ちょっと待ってくれ」と言うと先生は内線をかけた。「Yが来ている。直ぐにこっちへ!」と言うと内線を切ってアイスティーを注いでくれる。「佐久先生が来る。お前に聞きたい件があるのだ。まず、そっちの話からだ」先生は、僕の真正面に座るとそう告げた。程なくして、佐久先生がやって来た。「Y、ご苦労だな。早速だが確認をさせてくれ!」と言うと佐久先生は手帳を開いた。「原田が“皇太子”に渡した“実弾”の数量は聞き出してあるか?」「はい、“皇太子”には、60が渡っていました。総数は、約半分と見積もると、原田の手元には120〜150はあった事になります。“実弾”60は、黒い手提げ金庫に入れられて、“皇太子”に譲渡されましたが、池野が押収しています。4桁の番号で開錠するタイプで、暗証番号は“4701”です」「ふむ、それで今も手提げ金庫は、池野が持っているのか?」「ええ、我々の手には及ばない場所にある様でしたので、奪還は出来ていませんし、残高が何発残っているかも未確認です」「恐らく、社宅の池野の部屋の中だろう。ガサ入れをかければ、まだ間に合うな!ところで、お前たちは奪われた“実弾”を何故取り返さなかったんだ?」「奪還してどうします?使途不明金としての処理は不可能ですし、原田に返還してもまた“皇太子”に譲渡されて、後々厄介な話になります。原田には、“高い授業料”だと思って諦めろと言ってありますから、池野と市野沢に散財させて、雲散霧消に持って行く方向で調整を取って奪還そのものは見送る事にしたのです!」「抜け目の無い奴だ!だが、最善手を選んだな。俺としても“親父”にしても、それが最も気になっていた事なんだよ!よし、俺は早速ガサ入れに行って金庫を差し押さえて来る!後の話は、中島先生に聞け!」と言うと佐久先生は急いで準備室から出て行った。「Y、お前たちが最も関心を寄せているのは、昨日職員会議の経緯と結果だな!“実弾”については、今、お前が何の躊躇も無く話してくれた。だから、ワシも出来る限り答えようじゃないか!結論としては、郷原一族に“一任”したのは知っているな?」「はい、メモでその情報は知っています。しかし、何故“一任”に至ったのですか?」僕は真正面からの突撃を開始した。「それはな、池野と市野沢の“処分”と密接に関係していたからだよ。あの2匹には、校長が“謹慎”を申し渡してあったのは知っているだろう?それにも関わらず、奴らは酒を飲んで車を運転した。その結果として、警察に検挙された訳だが、“謹慎中の不祥事の責任を負うのは自分しかいない”と言って校長が責任を取って“辞任”する意向を示したのが、混乱の始まりだったのだ。ワシらは“船出したばかりの学校を放置しないでくれ”と言って必死に“慰留”させようと躍起になった。だが、一部には“妥当だ”と言う勢力も居た。押し合いの結果として、膠着状態に陥るのは想像がつくだろう?強行採決を取れば、校長の“辞表”はボツには出来たのだが、それでは教職員の中に亀裂を生んでしまう。それを回避する方向での“説得工作”も断続的に行われた。だが、“責任者としてのケジメ”として“辞任を容認する勢力”を落とす事は難航を極めた。6対4、ベテランと若手の小競り合いの末に、“県教委に判断を仰ぐのはどうだ?”と言う妥協案がようやく通って事を治めることになったのだよ!」「なるほど、それで郷原一族に?」「そうだ!出来れば使いたくは無かったが、他に手が無かった!郷原先生も説得工作に加わってくれてな。それで、ようやく互いに矛を治めることが出来たのだ。お前たちの懸念は、郷原一族の影響力が強まる事だろうが、お前達に対しては影響は限定的にしかならない。その辺の懸念は必要は無いだろう。後は、順当に引き継げばいいのだ」「では、原田の“謹慎”は?」「必要ないだろう?生徒会は通常に復して構わない。ポスターの“ミスプリント問題”でギャーギャーと言う者は、もう居ないし池野も市野沢も“蚊帳の外”だ。後は、臨時の生徒会報でも出して、終息を図ればいい。お前達には“これからの道”を目指して進んでもらわねばならん!姑息な陰謀は打ち砕かれた。後の始末は、お前達で早々に道筋を付けてしまえ!」「校長先生と池野と市野沢の処分は?」「穏便に済ませたよ。校長は“お咎めなし”、池野は“降格に2年の減俸と阿南高校への転属”、市野沢は、当然“懲戒免職”だ。一部のローカル紙に3行記事が出た以上、市野沢を庇う言われはない!」「池野の処分が甘いのでは?」「甘くはないぞ!行ったら最後、最短でも10年は戻れない!南の果てに飛ばされるんだ。ここより生活は格段に不自由になるし、遊んでいる暇も無くなる。事実上の“流罪”と大差ないんだ。充分に厳しいぞ!」中島先生はそう言った。「“実弾”の処理はどうされます?」「それは、校長が考えるはずだ。お前達2期生が卒業する際、記念品を贈るがその予算に組み入れてしまえば、雲散霧消に持って行けるだろう。案ずるな!表立っての使用は控える腹積もりだ!だからY、早急に後始末に取り掛かれ!生徒総会を開かずに、監査委員会の拡大委員会を招集して、事を治めるんだ!これは、お前たちにしか出来ない事だ。学校側の混乱は終息させたのだ。生徒会も速やかに従来の体制に戻せ!“クーデター”は失敗に終わったのだ。無用な混乱は避けなくてはならない。お前達の手腕に期待する!」と先生は言うとグラスに紅茶を注いだ。「水分を摂って体調を崩さぬようにしろ。お前が欠席しようものなら、校長が煩くて敵わん!今、アップルパイを出してやるから、エネルギーも足して行け。どうせ、無茶をやって来たのだろう?腹が減っては戦は出来ん。ゆっくりしてから教室へ戻れ」と言うと先生は、皿にアップルパイを盛って差し出した。僕はそれらを胃に流し込んでから教室へ向かった。

その後、長官と僕と長崎、伊東、竹内の5人と原田が会合を繰り返して、陰険禿2匹が仕掛けた“クーデター”の後始末に奔走し始めた。「“尻切れトンボ”に終わったのは仕方ないが、なるべく自然に終わらせるしかあるまい」長官の言葉が僕等の基本方針になった。監査委員会を閉じて“休眠状態”へ戻し、一連の騒動の発端になった“ミスプリント問題”と“クーデター計画”については、原田が臨時の生徒会報でコメントを出して鎮静化を図った。僕も石川、本橋、山本、脇坂の4名を動かして、4期生の鎮静化に努めた。だが、一部で不満の声が飛んで来たのはやむを得なかった。益田と小池の両名だ。「Y、原田を“延命”させる理由は何だ?」「そうよ!“実弾”使用を糾弾して潰さなきゃダメよ!」と2人は僕に噛みついて来たのだ。「お説ごもっとも。なれど、それをやるなら秋の“大統領選挙”の時まで待ってくれないか?今、原田を“市井の人”にしちまったらマズイのさ!“生徒会長”の肩書は背負わせて置かないと、今から切り崩し作戦を展開させちまう。現状でリード出来ているのは、ヤツが会長に座っててくれるからなんだ。会長に“選挙活動”は許されていない。原田を封じ込めるには、現状を維持するのが絶対条件なのさ!」と僕は理解を求めた。「暫定体制を作って、Y、お前さんが指揮を執れないのかよ?」「あたしもその方がいいと思うわよ!首を挿げ替えるなんて簡単でしょ?」と尚も2人は粘るが「原田に大差を付けて勝つには、僕がフリーでなきゃ無理だよ!“太祖の世に復する”計画は、原田政権の誕生と同時に立ち上げたプロジェクトなんだ。この中には現体制の記録の破棄や体制そのものの破壊工作も含まれている。“原田の世”は記録に残してはならないんだ。現に今も破壊に向けての計画は進行してる。それを投げ出してまで、原田を追うのは不可能なんだ。僕がもう1人居れば話は別だが・・・」「うむ、確かにお前さんの代わりは居ないな。予期せぬ“クーデター計画”の尻拭いもある。だが、秋には“全面対決”をやるんだろう?」「ああ、手加減はしない!総攻撃で原田を打倒するつもりだ!」僕は益田と小池の眼を交互に見た。「いいだろう。どっちにしても、俺達はYに協力すると決めた!母校を守るにはそれしか無いからだ!」「そうね。精神的な支えであるここを守るためなら、Yを選んだ方が間違いなさそうだし!」2人は早々に“選挙協力”を表明した。「済まんが宜しく頼むよ!」僕は2人と握手を交わして協力を誓った。「それにしても、お前さんは休んでる暇が無いな。重大事件には、必ず関わってる!夏期休暇はゆっくりとしろよ!秋の艦隊決戦の指揮は、お前さんしか執れないんだからな!」「そうよ!本番で指揮官不在は許さないからね!」2人は悪戯っぽく言う。「ああ、それは約束する。それじゃあ、この書面にサインをくれないか?一応、これで“クーデター計画”には終止符が打てる!」2人は素早くサインをした。「秋に備えて俺達も動き出すが、強力な艦隊を率いて駆け付ける!Y、楽しみに待っててくれ!」益田と小池は意味ありげな笑いを浮かべて教室へ戻って行った。「“本日、天気晴朗ナレドモ、波高シ”バルチック艦隊を討ち果たした作戦は、秋山真之中佐が立案した。僕に彼ほどの才覚があれば、原田を完膚なきまでに叩けるんだが・・・」間もなく1学期が終わる。夏休みは有って無い様なモノになるだろう。「新政権の幹部達を鍛える。まずは、そこからだな!」空には入道雲が沸いていた。