デイリー句会入賞発表

選者 高橋正子
水煙発行所

2005年6月最優秀

2005-06-21 15:16:52 | 2005年
●今週の秀句/6月1日~10日
○高橋正子選

【金賞】
★この道を折れては滝に直進す/ 野田ゆたか
もとの句は「右折」とあるが、象徴的に、「折れて」と添削した。今歩いているこの道を折れ、まっすぐ行くと滝に当たる。滝までは迷わずに行ける。滝の涼しさ、滝の勇壮さ、などへの期待感がさわやかだ。(正子評)

【銀賞/2句】
★椎若葉雨に重なる雨の音/大給圭泉
「椎(しい)」は、その音の柔らかさ、大人しさにも魅力を感じる樹である。その椎が若葉して雨を受けている。その雨に濡れた若葉にまた雨が降る。雨に雨が重なり降って雨の音となる。「雨に重なる」「雨の音」の「雨」の繰り返しにリズムが生まれ、雨の音が実際に聞こえるようだ。(正子評)

★水音をはなして澄めり岩清水/志賀たいじ
「水音をはなして」に、はっと気づかされるものがある。それまで音を立てて流れていた清水は、音を立てなくなると、静かな水となり、澄みきっている。(正子評)

【銅賞/3句】
★山のダム茂りと水は恣意のまま/小口泰與
山のダムの周りは茂るだけ茂り、水も存分に溜まっている。ダムに意思があるかのように、それを「恣意」といった。十分な雨を得て、奔放に茂れるのは、自然が自然であることをゆるされる山であるから。(正子評)

★菖蒲田の連なる先の白い雲/渋谷洋介
満目の菖蒲の花弁の翻る菖蒲田の向こうに白い雲が浮いて、湿りがちな日々の空にもすがすがしさがある。(正子評)

★選り終えて夜の灯りに青山椒/黒谷光子
山椒の実は、秋には色づくが、青い実の時も魚料理や山椒煮などに楽しむ。青い山椒の実はつぶらな緑がかわいらしいが、びりりと辛い。選り集めた青山椒の実は、灯の下に出されると、青が透き通るようにきれいだ。身辺の生活を詠んで手堅い句。(正子評)

●今週の秀句/6月11日~19日
○高橋正子選評

【金賞】
★あめんぼのかろき命を円心に/尾 弦
水に軽く浮いているあめんぼう。軽い命は、命が軽いということではなく、命ある身の軽さのこと。その命を円心において水輪がひろがっているのが、あめんぼうの世界である。

【銀賞/2句】
★梅雨空を映して湾のざわめける/池田多津子
入梅したばかりの梅雨空の不安定な様子が湾のざわめきとしてとらえられたリアルで厚みのある句。

★山郷の身の透くほどに青葉風/大給圭泉
山郷にきて、溢れるみどりに目を瞠りながら立つと、存分に吹いてくる青葉の風に、身が透けてしまいそうなほどだ。青葉の風の透明感に、この世も緑に染まりそうだ。

【銅賞/3句】
★絵うちわに祭りの風の秘めらるる/藤田裕子
絵うちわは祭りのうちわ。祭り用の絵が描かれたうちわを見ていると、うちわのなかに涼しい風が秘められているような思いになった。祭りを思い描いてたのしむのもまた、別の祭りのたのしみ。

★門出でてパラソルの影濃くなりし/岩本康子
玄関から門までのアプローチには、庭の木々もあってか、パラソルの影がそれほどはっきり映っていない。だが、いざ門を出ると外は日盛り。日盛りの中のパラソルの影は濃くなっている。 パラソルの影に夏の日差しの具合をとらえて、本質的な句。

★青紫蘇の自生の勢い確かなる/やまなか みゆき
青紫蘇が自然に任せて生い茂っている。青々とした青紫蘇の香気が伝わって来る感じだ。「確かなる」は、自生のものの確かな生命力が読み取れる。

●今週の秀句/6月20日~30日
○高橋正子選評

【金賞】
★滝落ちて真白や天の陽を返し/大山 凉
滝がどうっと落ちると、真っ白に輝く。ちょうど太陽が前に来て滝に反射し、滝は、強靭な白い色を見せている。

【銀賞/2句】
★のうぜん花風も斜めの坂の街/黒谷光子
「風も斜め」には、まさにその通りだと、気づかされる。のうぜんの花が明るく咲いている坂の街。坂を辿りのぼると、坂上から風が吹いてくる。それを「風も斜め」と言った。坂を上る汗も心地よく乾いてくれそうな風の吹く坂の街である。

★己が影すらりと庭に朝涼し/野田ゆたか
朝の影は、長い。すらりと伸びた自分の影に、朝の涼しさをいっそう感じることになる。さらりとして涼しげな句である。

【銅賞/3句】
★窓開くままに白夜の涼しかり/小西 宏
窓を開けたままに過ごす白夜。「涼しかり」は、白夜の全てを想像させてくれるような言葉だ。

★外の声近く聞きおり青簾/甲斐ひさこ
簾を掛けたばかり。窓を閉めていたころと違い、簾を掛け、窓をあけていると、外の声が意外のもはっきり、近くに聞こえる。こんなところにも季節が変わることによって感じられる事がある。青簾が新鮮。

★汽車を待つ日傘ひとつの田舎駅/石井孝子
木陰のない田舎の道を歩いてきだのだろう。ちょっとした用事の外出だろう、汽車を待つのだけれど、手に持っているものは日傘一つ。日傘を詠んで、詠み方が新しい。

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