デイリー句会入賞発表

選者 高橋正子
水煙発行所

入賞発表/5月1日(木)~5月10日(土)

2008-05-10 23:56:14 | Weblog
■5月1日(木)~5月10日(土)
□高橋正子選

【最優秀】
★身ほとりも八十八夜の青一色/おおにし ひろし
八十八夜は、ご存知のように、立春から数えて八十八日目。唱歌「茶摘」にも歌われて新茶の季節、若葉の季節である。身辺が青一色に染まる。感覚が捉えた世界がすがすがしい。(高橋正子)

【特選/5句】
★げんげ田の踏みあと二手に分かれおり/祝恵子(信之添削)
こういった場面こそが、俳句に詠まれて然るべき。誰も踏み込んでいない花が咲き満ちるふわふわの「げんげ田」に、踏みあとが、はっきりと二手に分かれてある。二人の子どもだろうが、それぞれに好きな方に歩いて行って花を摘んだのだろう。踏むには惜しいほどの「げんげ田」である。「蓮華」は、蓮の花のことで、夏の季語だが、「蓮華草」は、紫雲英(げんげ)のことで、春の季語。俳句では、多くが「蓮華草」とは言わずに「紫雲英(げんげ)」という。(高橋正子)

★代田はや何かいきものいる気配/宮本和美
田に水が張られ、そろそろ田植えの時期ですね。田に水が入れられた矢先、うごめく物が居る、何だろう想像する楽しみもある句です。(祝恵子)

★卯波立つ島に一村軒低く/あみもとひろこ
数多くの台風や強い海風に絶えている孤島の一にも卯の花が風になびくさまから卯波と呼ばれ、晩春から初夏にかけて海に白波が起つほど荒れている様子を素敵に描写していると思います。(小口泰與)

★花売りにほどほどの照り夏兆す/甲斐ひさこ
切花も花苗も天気の良い日はとくに綺麗に見え買いたくなるもの。夏兆す今日この頃「ほどほどの照り」とは言いえて妙な表現と感じ入りました。(河野啓一)

★折り紙兜棚に飾れば子供の日/堀佐夜子
特別なものを買わなくても、折り紙で兜を作って飾れば十分子供の日となる。いつも工夫をし、生活にメリハリをつけて楽しんでおられる作者の心意気が感じられます。(柳原美知子)

【入選Ⅰ/15句】
★湯気立てて朝日地を這う春の畑/小西 宏
「生きている畑」が目の前に浮かびます。春の大地は夜が明けるごと大きく呼吸するのでしょう。心を打つ景色です。(かわな ますみ)

★遠近の土塊(つちくれ)光り鳧(けり)が鳴く/かつらたろう
明るい日差しの中に響くケリの声。キリリ、ケリッと甲高い声でなくことからケリと名前がついたとか。のどかな田園風景を思います。 (多田有花)

★うまい水若葉深くに生まれおり/竹内よよぎ
「うまい水」という言葉が、とても新鮮で、若葉を重ねる森の奥の、湧き水を思いました。澄んで冷たい水を、手に掬い飲む感触を覚えました。(あみもとひろこ)

★夏に入る酸素の音の逞しき/かわな ますみ
透明な酸素吸入からの音にも夏を感じられた景がうかびました。酸素は命の源ですね。(小川美和)

★山羊の仔の膝折りすわる草の青/志賀たいじ
「山羊の仔の膝折る」と詠まれて、仔山羊を愛されているのが伝わってきます。背景の草の青も鮮やかで、句の中に自然の中の豊かなひと時が流れているように感じます。(竹内よよぎ)

★おちこちの田を打つ音の響きくる/丸山草子(正子添削)
農作業が忙しくなる時期にはいってきました。農家には大変なときですが、田畑に人の姿が増え、活気あふれるころです。ことに雪に閉ざされる北国では一斉に農作業という風景が見られますね。(多田有花)

★風颯々と森の若葉を磨きけり/おざきゆづる
森の若葉が風に吹かれて青さが益す如く見える心地よい季節ですね。(大給圭泉)

★山藤の短き房の瑞々し/井上治代
新鮮で力強い句。「短き房の瑞々し」と作者は見たのだ。「山藤」の深いところを見たのだ。(高橋信之)

★教会に果実実らせ聖母月/臼井愛代
聖母マリアの月とされる五月の教会。みずみずしい果実の実りに、聖母マリアへの信心が込められているようで、明るく心豊かな季節の始まりを感じさせてくれます。(藤田洋子)

★火の山の斑雪なりけり桐の花/小口泰與
火の山、まだらになった残雪、大木の桐の花、豊かな色彩に季節の推移を感じつつ、爽やかな季節を迎えた自然を大らかに捉えて詠まれていると思います。 (藤田洋子)

★田水張り水の匂いの夜を歩く/安藤かじか
田植えに備え、田水張りが盛んに行われています。その日の夜、水の匂いで満ち満ちている田園界隈をゆく作者が見えるような五月雨の日らしい光景です。(おおにし ひろし)

★屋内の鏡にさせる新樹光/多田有花
新樹の薄緑の光が部屋の鏡に差し込んで居る。如何にも初夏の風景。中七の「鏡ににもさす」が素晴らしい作品で、共感を覚えました。(宮本和美)

★軽装の男の子の列に夏近し/高橋秀之(正子添削)
幼稚園児か保育園児の列でしょう。明るい日差しの中、半袖半ズボンで歩いているのかもしれません。一足速い夏の景色を敏感に感じ取っていらっしゃる様子がうかがえます。(多田有花)

★藤房に零るる空の青さかな/柳原美知子
青空の下に咲く藤の花のたっぷりとした豊かさ。空と藤房が作者の心に繋がってみずみずしく零れるような青です。(池田加代子)

★日向田のさざなみさわと蝌蚪黒く/大給圭泉
田に水が張られ、しばらくすると蝌蚪(おたまじゃくし)が見られます。小さな動きでも小さな波となって見えます。小さな命の誕生、そして成長が感じられます。(池田多津子)

【入選Ⅱ/21句】
★玻璃を透く朝日大きく夏に入る/黒谷光子
季節の節目となる日の、玻璃越しの朝日の大きな輝きが、とりわけ希望に満ちて力強く感じます。明るい夏の到来を喜ぶお気持ちが、句に溢れているようです。 (藤田洋子)

★潮香する若葉の風の芭蕉像/池田多津子
深川の芭蕉記念館の若葉のなか、微かに川風に乗って漂う潮の香り。当日拝した芭蕉像を想起させて頂きました。(飯島治蝶)

★山に向く薫風に充つ道の駅/小川美和
薫風吹き抜けて行く中にある道の駅が上手に表現されて居り、共感を覚えます。絵画を見ている様に感じました。(宮本和美)

★踏み入りて若葉の匂い鮮やかに/大山凉
若葉燃え立つ樹林に踏み入ったのでしょうか、明らかに噎せるような若葉の匂いが、初夏の到来を思わせてくれます。(おおにし ひろし)

★紫蘭咲く風待つ形に傾いて/古田けいじ
「風待つ形」がいいですね。いい風が吹いて来そうな感じがして、気持が軽くなります。(吉田晃)

★ナイターの芝生輝き夏立ちぬ/河野啓一
ドーム球場が増え、外野の芝生もほとんど人工芝になってきましたが、ここで輝いている芝生は天然のものでしょう。人工照明の下で見る芝生の輝きにナイターシーズン到来を待った野球ファンのうれしさが混じっています。(多田有花)

★黒々と濡れて新樹のうねる幹/安藤かじか
落葉樹が芽吹き日ごとに葉を広げていくこの時期は、木々の生命が姿全体にみなぎっています。それを黒々とした幹のうねりに見ていらっしゃることがよくわかります。(多田有花)

★日時計の目盛に濃き影夏隣/飯島治蝶
太陽光線の指針の影に時刻を知る日時計。その濃き影に、おのずと戸外の明るい陽光や強い日差し、そして間近な夏の訪れを 感じることができます。(藤田洋子)

★どろんこの父子駆けまわる子供の日/藤田裕子
家族が元気なのは、嬉しいことだが、「どろんこの父子」は、「子供の日」のいい季節なので、家族の喜びだ。(高橋信之)

★くっきりと天守と空の五月来る/藤田洋子
松山城の「天守」は、小高い城山の頂にあって、街のどこからでも見える。「五月来る」季節となれば、なお「くっきりと」見える。懐かしい風景だ。(高橋信之)

★粽解く笹の葉ずれの音清か/小河原 宏子
粽と柏餅は、5月5日の端午の節句に食べるものだが、誰もが自分の育った家族との懐かしい思い出がある。それを作者は「音清か(音さやか)」と言った。季節がいいのだ。思い出がいいのだ。(高橋信之)

★五尺の身総身緑に染まりけり/まえかわをとじ(正子添削)
「五尺の身」は、身長を言うより、「五尺(いつさか)の身・・」と特攻隊員が詠んだ歌もあるように、父母よりもらった肉体やその心をも感じされる表現であろう。わが体ごと、全身が緑に染まるこの季節のさわやかさが詠まれている。(高橋正子)

★ため池や一歩下がってメダカ群れ/上島笑子
ため池にメダカの群れを見つけた。「一歩下って」は、岸から少し離れたところにメダカが群れていると解釈した。岸の間際ではなく、少し離れた距離に泳ぐメダカに面白みがある。(高橋正子)

★古道行く茂りの力に背を押され/藤田荘二
稀にしか人の通らない古道は、昼間も木下の暗がりが続く。ひとり行く道は孤独ではあるが、木々の茂る勢いに、背を押されるかのように前進できる。茂るものから力をもらった一句。(高橋正子)

★上げ潮の水面(みなも)にゆれる葉桜よ/迫田和代
「上げ潮」がいいですね。満ちてくる潮の匂いまでしそうですね。潮と葉桜の色あいがとても新鮮です。(高橋正子)

★咲き初めしあやめ一叢遊歩道/吉川豊子
遊歩道にアヤメの青さを見つけたうれしさ。一叢の中に、青く咲き始めた花と蕾がいくつか残るころの控えめな美しさがいいですね。(池田加代子)

★どこまでも広がる青空子どもの日/岩本康子
子どもの日が青空であるのはうれしいですね。どこまでも広がる青空に、子どもたちの明るい希望がひろがるようです。(池田加代子)

★母の日や富士の墓標へ白き花/おくだみのる
富士の墓標へ供える白き花の清らかさが印象的です。母の日に、亡きお母様を思っておだやかな心境がうかがえます。(池田加代子)

★ハンカチの花きらきらとゆらゆらと/渋谷洋介
ハンカチの花を先日初めて見ました。大きな白いハンカチのようなものは苞(ほう)で、花は中にあるのですが、葉陰に白く見える様子が「きらきらとゆらゆらと」の言葉にぴったりです。(池田多津子)

★さつさつと雨後の堤防蟹が散る/篠木睦
暖かくなると生き物がさまざまに動き始めます。「さつさつと」に作者の感じ方が伝わり、蟹が素早く散らばっていく様子が目に浮かびます。水の中も次第ににぎやかになっていくことでしょう。(池田多津子)

★裏木戸に潮の香初夏の芭蕉庵/吉田晃
芭蕉記念館での俳句ですね。芭蕉記念館のすぐ裏に隅田川があって潮の香りがしていました。庭の木々も辺りの木々も新緑がきれいですっかり初夏の色。落ち着いたたたずまいを思い出します。(池田多津子)

■互選高点句
□集計/臼井愛代

【最高点/6点】
★吊り橋の揺れて緑の風わたる/河野啓一
(美知子・凉・ますみ・光子・和美・恵子選)

深山の蔓でつくられた橋でしょうか。橋の下の渓流の音、全山の新緑をわたる風の音が聞こえるようです。(柳原美知子)
みどりさわやかな山に囲まれ、若葉を映して流れる緑の川。つり橋を揺らしながら「みどりの風が渡る」、素敵な表現ですね。さわやかな初夏の山峡の光景が浮かびます。(大山 凉)
いつもは吊り橋が揺れると、少し恐怖を覚えます。けれど新緑の季節には、葉の色をたずさえた風が心地好く、その揺れさえも初夏の目覚めのごとく感じられるのでしょう。山中をご一緒させて頂いたような、爽快な気分を頂きました。(かわなますみ)
つり橋の下は渓流、新緑を渡る風、素晴らしい光景を見せていただきました。(黒谷光子)
初夏の頃、吊橋を渡る景が見える様な気分になります。人も風も揺られながら渡っているのでしょう。中七の「揺られて緑」が抜群に素晴らしく、共感を覚えます。(宮本和美)
下を覗いても、山並みも新緑。吊り橋を緑の風が揺らし渡っていきます。爽やかな風です。(祝 恵子)

【次点/5点/3句】 (作者五十音順)
★夏に入る酸素の音の逞しき/かわなますみ
(よよぎ・和美・泰與・美和・凉選)

★山羊の仔の膝折りすわる草の青/志賀たいじ
(草子・ひろし・豊子・よよぎ・和美選)

★かすみ草泳がす程の風が吹き /宮本和美
(圭泉・秀之・宏・裕子・宏子選)