IT翻訳 Nobuyuki の仕事部屋

ボランティアでソフトウエアーローカライズのために翻訳をしている。

"the" の訳し方(自然に特定)

2005-12-16 00:38:51 | InCompleted
現在和訳草稿の見直しをしているGecko Info for Windows Accessibility Vendorsの原文中に以下のような文章があります。

XUL-Based Clients (support MSAA)

XUL-based clients make full use of the Gecko architecture, not only for HTML content, as well as for menus, dialogs and the entire user interface via an XML language called XUL (eXtensible User-interface Language). None of the user interface contains standard Windows controls -- not even the menus! This is done to ensure a common look and feel across all supported platforms, and to allow for different skins (appearances).


拙訳では下記のようになります。

(MSAA をサポートする)XUL ベースのクライアント

HTML コンテンツだけでなく、メニュー、ダイアログボックス、XUL(eXtensible User-interface Language) と呼ばれる XML 言語を使った全ユーザインターフェイスに対して、XUL ベースのクライアントは Gecko のアーキテクチャーを全面的に使用します。ユーザインターフェイスは、Windows の標準コントロールを含みません。メニュさえも含みません。サポートされるすべてのプラットフォームに関わる共通のルックアンドフィールを確保するためと、様々なスキン(外観)を有効にするためです。




ところで、原文中の "None of the user interface contains ........" に含まれる "user interface" に付く "the" ですが、これはもちろん前出の "the entire user interface " を指しているので、"そのユーザインターフェイスは・・・・・"と言うことになります。しかし、自然な日本語による翻訳という観点からすると、"the" をいつも "その" と訳すことくらい味気ない翻訳はありません。拙訳では、"その" を付けずに、"ユーザインターフェイスは・・・・・・"としています。その理由は、文脈から前出の"ユーザインターフェイス"を指すことが "その" が無くても分かるからです。これはこれで良いのかもしれませんが、しかし、もう少し明確に "the" のニュアンスを出すのにはどうすればいいでしょうか? もちろん、"その"のような美しくない修飾をつけずにです。

そこで、考えた訳は次のようなものです。



(MSAA をサポートする)XUL ベースのクライアント

HTML コンテンツだけでなく、メニュー、ダイアログボックス、XUL(eXtensible User-interface Language) と呼ばれる XML 言語を使った全ユーザインターフェイスに対して、XUL ベースのクライアントは Gecko のアーキテクチャーを全面的に使用します。その時、ユーザインターフェイスは、Windows の標準コントロールを含みません。メニュさえも含みません。サポートされるすべてのプラットフォームに関わる共通のルックアンドフィールを確保するためと、様々なスキン(外観)を有効にするためです。


"その時" という、状況を特定する日本語を挿入することです。こうすれば、"そのユーザインターフェイス" とするより、日本語として自然で、かつ論旨がより明確tになるように思います。

別の例で、試してみましょう。



How to Find the Content Window and Load the Document

Screen readers need to find the content window so that they know where to start grabbing the MSAA tree, in order to load the current document into a buffer in their own process. The content window always has the class MozillaContentWindowClass.



コンテンツウィンドウの見つけ方と、ドキュメントの読み込み方法

スクリーンリーダーはその処理中に、現在のドキュメントをバッファに取り込むために、コンテンツウィンドウを見つけ MSAA ツリーの取り込みを開始するポイントを知る必要があります。その時、コンテンツウィンドウはかならず、MozillaContentWindowClass というクラスを備えています。


この場合も、"そのコンテンツウィンドウは・・・・・"とするより自然であり、前出の "the content window" について言っていることがはっきりします。

(^-^)/~~~~

3 コメント

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「その時」としてしまうと・・・ (山口)
2005-12-21 21:49:13
こんにちは、Nobuyuki さん。いつも興味深く拝見しています。



今回の「the」の訳しかたについて少し考えてみたのですが、「その時」としてしまうと、時系列的な物事の移り変わりを想起してしまうので、この文脈においてはやや厳しいのではないかと思いました。例えば最初の例ですが:



None of the user interface contains standard Windows controls



「the」の意味するところは Nobuyuki さんのご指摘のとおりだと思いますが、ここで「その時」としてしまうと、「では、標準的な Windows コントロールを含む場合があるのか?」という問いが出てしまいかねません。ここでは、特定のプラットフォームに依存しない形でインターフェースを構成したいという要請から標準的な Windows コントロールを一貫して含まないというのが趣旨だと思います。そのため、ここで「その時」というような時間的・条件的要素は介在させない方が良いのではないかと思うのです。その方が、単調で面白くはありませんが、より趣旨に沿った訳になると思います。



こういう観点からすると、ふたつめの例も同じことが当てはまると思います。



The content window always has the class MozillaContentWindowClass.



こちらはもっと単純で、コンテンツウィンドウはひとつしかないという、単に限定されているから the がついているだけではないかと思うのです。この場合、日本語では「その」さえも必要なく、単に「コンテンツウィンドウには必ず、MozillaContentWindowClass というクラスが与えられています。(ここではあえて受身的に表現しています)」という感じでも良いのではないかと思うのです。



Nobuyuki さんの論旨から真っ向に向かうようなコメントで申し訳ないのですが、僕が訳すとしたらベタかもしれませんが、できるだけ目立たないような、だけど論旨を損なわないような表現をもってこようとするだろうと思います。



今回のエントリーはとても考えさせられるトピックだったと思います。
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適用範囲を見る (Nobuyuki )
2005-12-23 17:04:59
山口さんコメントありごとうございます。



和訳に際して、冠詞の扱いは結構難しいのですが、特に技術文書においては、文意解釈のポイントとなることも多く、大切と思います。



さて、ご指摘をいただいた点ですが、下記のように思いました。



まず比較的簡単な、2 番目の例ですがこれはご指摘のとおりと思います;



Screen readers need to find the content window so that they know where to start grabbing the MSAA tree, in order to load the current document into a buffer in their own process. The content window always has the class MozillaContentWindowClass.



最初の "content window" についているのは "the" であり、"a" ではありませんからね。私の試訳はどちらかと言うと下記に近いかもしれませんね。



Screen readers need to find a content window so that they know where to start grabbing the MSAA tree, in order to load the current document into a buffer in their own process. The content window always has the class MozillaContentWindowClass.



次に最初の方の;



None of the user interface contains standard Windows controls



ですが、これはあえて"その時"をいれても良いような気がします。というのは、その直前の段の "Embedded Clients (support MSAA)" では、対照的に;



"They(=Embedded clients) typically use standard Windows controls for their user interface"



となっており、そもそも"None of the...."という表現自体、強調的であるからです。



いずれにしても、ご指摘のとおり文脈の中で判断し、感じ取る必要がありますね。私の提案した、訳し方が適用できる場合とそうでない場合があると思います。機械翻訳とはちがいますしね。(^-^)



















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確かに :) (山口)
2005-12-26 22:21:44
Nobuyuki さんこんにちは。



二番目(原文では初めに出てくる方)に関しての解釈には、「なるほど」と思いました。Nobuyuki さんが挙げていらっしゃるように、前段に:



"They(=Embedded clients) typically use standard Windows controls for their user interface"



という文章あるとなると、確かに「その時」とした方が、対応関係が理解しやすいですね。



ここら辺、内容的にもかなり深く理解しておく必要がありますし、「the」の訳し方といい、難しいですね(汗
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