【時事(爺)放論】岳道茶房

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毒ぶどう酒事件 再審の扉は開かれるのか

2010年04月07日 | 社説
毒ぶどう酒事件 再審の扉は開かれるのか

 「名張(なばり)毒ぶどう酒事件」の再審開始の是非を決める特別抗告審で、最高裁が審理を名古屋高裁に差し戻した。

 死刑囚に再審の道を開くかどうか――。この重い判断をするにあたっては、審理を尽くし、事件の根幹に未解明の部分を残してはならない。それが最高裁決定の趣旨だろう。

 これにより、犯人として死刑が確定した奥西勝死刑囚の再審が開始される可能性が出てきた。

 足利事件を契機に、冤罪(えんざい)を生んだ司法界に厳しい目が注がれている。名古屋高裁には、疑念を招かない厳格な判断が求められる。

 事件は1961年に発生した。三重県名張市の公民館で、ぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡し、12人が中毒となった。

 奥西死刑囚は「妻と愛人の三角関係を清算するため、ぶどう酒に農薬を入れた」と自白したが、起訴前に否認に転じた。

 最大の謎は、事件直後に行われた鑑定で、奥西死刑囚が使ったとした農薬に含まれているはずの成分が、飲み残しのぶどう酒から検出されなかったことだ。

 今回の再審請求では、そこが大きな争点となり、最高裁は「事実は解明されておらず、審理が尽くされていない」と、再審開始を認めなかった名古屋高裁の判断を批判した。

 仮に、ぶどう酒に混入されたのが別の毒物であれば、奥西死刑囚の自白の信用性が崩れることになる。それを考えれば、最高裁の判断は妥当なものといえる。

 それにしても、これほど複雑な経過をたどってきた裁判は、極めてまれである。1審は無罪としたが、2審は死刑を言い渡し、72年に最高裁もそれを支持した。

 奥西死刑囚の7度目の再審請求に対し、名古屋高裁は2005年、再審開始を認めたが、翌年に同高裁の別の部がこれを取り消した。今回の決定の結果、審理は再度、高裁に戻ることになった。

 最高裁の裁判官の一人は、「事件発生から50年近くが経過し、差し戻し審での証拠調べは必要最小限に限定することが肝要だ」との補足意見を示した。

 拙速な審理は禁物だが、奥西死刑囚が既に84歳であることを考えれば、当然の指摘である。

 「疑わしきは被告人の利益に」というのが、刑事裁判の鉄則だ。まずは再審を開始し、その法廷で詳しい証拠調べをすべきだとの声も多い。この裁判は、依然としてハードルが高い再審決定のあり方を考える契機となろう。

2010年4月7日 読売新聞 社説


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