改めて、ホームレスが売る雑誌『THE BIG ISSUE JAPAN(ビッグイシュー日本版)』に注目してみた。今週は『週刊金曜日』がお盆休みだから…という訳でなく、手にしたビッグイシューが03年に日本版が創刊されてちょうど100号の節目にあたるからだ。
広告ばかりで読むべき記事のほとんどない無料雑誌が駅や街頭に氾濫するなかで、07年に200円から300円に値上げしたビッグイシュー。にもかかわらず、販売員という形でホームレスの人に収入の機会を提供するスタイルは支持され…、あるいは国際性・多様性・意外性のある記事と“若者のオピニオン誌”という同誌のコンセプトに対する理解や共感も進んでいる…、と言えるのではないか。これからも注目してゆきたい。
◆ さて、記念すべき第100号だが、香山リカさんは同号の対談で「ビッグイシューを買うとき、自分がどんな感情をもっているのか試され問われる」という…。雨宮処凛さんの人気連載コラム「世界の当事者になる」VOL.43は、まったく同感なので、全紹介しよう。
秋葉原で、1人の若者が「暴発」した日
この号が出るころには、6月8日の秋葉原の無差別殺人事件も「過去」のことになってしまっているのだろうか。7人が殺されるというあまりにも痛ましい事件。犯人が派遣労働者であり、リストラにおびえていたことなどから、私のところにも多くの取材が来た。
彼のしたことは決して許されることではない。殺され、けがをし、また突然「遺族」となってしまった人のことを思うと、ただただ言葉を失う。なぜ、自分の家族が殺されなければならなかったのか、そればかりを問う日々にいるのではないだろうか。私自身、過労死や過労自殺、いじめ自殺の取材を通して、突然「遺族」となってしまった人々とかかわらせてもらってきた。彼らは「なぜ」と問い続けている。ずっと。
なぜ、あんな事件を起こしたのか。真相は彼にしかわからない。もちろん派遣という不安定な働き方もあるだろう。親との関係や自らへのコンプレックスもあるだろう。気が遠くなるほどの孤独や絶望もあるだろう。
この連載で、私は派遣や請負など、不安定な働き方をする人々の窮状を伝えてきた。生産調整に振り回され、あっさりとクビを切られ、寮を追い出される若者たち。そうしてネットカフェ生活や路上生活になってしまった若者を、私は多く知っている。
しかし、誰も彼のような「暴発」を起こさなかった。あの事件までは。24歳以下の非正規雇用率は50%。少し先の未来の予測も立たない日々の中で、多くの若者は必死に働いている。その中で、自分たちの状況をなんとかしようと、彼と同世代の若者たちは労働組合を作り、合法的にこの現実を変えようともしている。
彼がもし、自分と同じような境遇の若者たちが、自らの「生存」を求めてさまざまな「労働/生存運動」をしていることを知っていたら。事件後、痛切に思ったのはそのことだ。彼のような人にこそ届かなければならないそんな運動が、当事者に伝わっていないことをまざまざと感じ、愕然とした。
運動にかかわる人の中には、彼のように親との関係が複雑な人もいる。深いコンプレックスを抱える人もいる。派遣でクビを切られ、住む場所がない人もいる。生き方がへたな人も、他人とうまくコミュニケーションがとれない人もいる。だけど、そんな人たちが集まって「働くこと」「生きること」「生きづらさ」について語り、生まれて初めて隣にいる誰かと「競争しなくていい」居場所を手にしている。そんな「場」が今、全国に少しずつできている。けれど、現実的にはまだまだどうしようもなく少ないのだ。ただ同じような境遇の誰かと語り、自分が「ここにいてもいい」と思える場所。そんな場が広がっていくことが、悲劇を繰り返さないためのひとつの方法だと思う。
◆そしてちなみに、第99号は特別企画号「まるごと『地球温暖化』~つくろうよ地球人の作法」だ。それは果たしてどんな作法なのか…、バックナンバーについても販売員さんに聴いてみよう。
今週末に実施の8月練馬読者会は 拡大読者会だ。事前連絡が必要。問い合わせはnerikinjyutu@mail.goo.ne.jpまで。
(練金術師)