
東京都写真美術館で公開中の「ファヴェーラの丘(Favela Rising)」。
暴力がはびこるブラジルのファベーラ(貧民街)の若者達に
音楽で希望を与えようと奮闘するアンデルソン・サーの
文化グループ「アフロレゲエ」の活躍を描くドキュメンタリーだ。
リオの貧民街の環境は劣悪だ。ファベーラの若者は
麻薬ギャングになるしか衣食を確保するすべがなく、
14歳~25歳の間に相当数が殺されてしまう。
元麻薬売人のアンデルソンの仲間も半数以上が死んでいる。
また、暴力を生みだす要因はギャングだけではない。
リオ市警のファベーラ担当部署の腐敗はすさまじく、
一般住民にも容赦なく銃を向けるばかりか
自ら麻薬取引を行い巨額の富を得ているという。
アンデルソンの弟は警察に殺された。
1993年に起こった警官殺害事件の「報復」として、
警察がファベーラの住民に無差別発砲したためだ。
キリスト像に代わりリオの絵葉書のモチーフになった(!)
という犠牲者の死屍累々をカメラは容赦なく映しだす。
暴力の連鎖はとめられないのか?
考えぬいたアンデルソンは、暴力に対抗できるのは
「音楽(=文化)」だと気づき、パーカッショングループ
「アフロレゲエ(原音は”アフロヘギ”)」を結成する。
以前は若者の組織活動といえばギャングだけだったのが
アフロヘギの登場により音楽という別の選択肢が与えられ、
ファベーラの若者にも希望が生まれたわけだ。
(ここから辛口)
とまあ、アフロヘギがいかに社会的意義のある活動を
行っているかがよくわかるいい映画なのだが、
音楽ドキュメンタリーとしては撮影者に疑問を感じた。
正直な感想をいうと、演出過剰だと思う。
事件現場の凄惨なシーンにBGMを入れたり
わざと色調を変えたりするのはいかがなものか?
ヘンな脚色なしでも、素材だけで主旨は十分伝わるのに。
そして何よりも、肝心のアフロヘギの
音楽性に迫ろうという姿勢が感じられない。
躍動感ある彼らのダンスをわざわざ早回しして
プロモーションビデオ風にしてみたり、
ライブ映像に別録りの歌やBGMをかぶせたり。
小細工せずに生音をそのまま聞かせてほしい。
何万もの観衆が熱狂するさまを観るかぎり
彼らの真骨頂はライブパフォーマンスだと思われるのに、
よりにもよってライブ映像を口パクに加工するなんて!
かのマルコス・スザーノさんの、ファベーラでの
パーカッションワークショップも一瞬映っただけだ。
この題材なら、音楽が映像の添え物ではいけないだろう。
勇壮なバテリアが奏でるタイコの生音を丁寧に拾って、
アフロへギの魅力をきちんと伝えてほしかった。
彼らの音楽スタイルは何なのか
(サンバヘギ+バイリファンキという感じ?)、
何を歌っているのか、どんな練習を重ねているのか、
暴力に対抗する音楽とはどういうものなのか・・
残念ながら、こうした問いに映画は答えてくれない。
アンデルソンのカリスマ性や正義感にスポットをあてるあまり、
音楽の持つ力が粗末に扱われていまいか。
この映画、非常に訴求力があり決して観て損はないと思うが
願わくばNHKのドキュメンタリーで見たかったなあ。