【SUN RA/A JOYFUL NOISE】
渋谷の映画館・UPLINKで世界各地の音楽ドキュメンタリーを
集めた特集上映、
MUSIC DOC.FES.を開催中だ。(~2/23)
個性的な作品が目白押しだが、中でも黒人ジャズアーティスト・
サン・ラーのライブ映像とインタビューを収録した
「ジョイフル・ノイズ」に心惹かれた。
ジャズは全く門外漢の私がサン・ラーに興味を抱いたのは、
有名ファンクバンド、KOOL & THE GANGのメンバーも
在籍していたと何かで聞いたからだ。
このサン・ラー・アンド・ヒズ・アーケストラ、
奇抜な扮装がとても気になる上に、
リーダーのサン・ラーは土星から来たという。(本人談)
何、土星から来た?これは確かめなくては!
映画はビルの屋上でのジャムセッションの様子から始まる。
沢山のラッパ類に超イイ声のソウルフルなボーカル。
レインボーカラーのアフロのお兄さんがウロウロし、
頭から謎のアンテナを生やしたサン・ラーが説法を始める・・
演奏は破れかぶれのようでいて緻密なフリージャズだ。
その音はちょっとチンドン屋的でもあり、
宇宙からのお告げと言われればそのようでもある。
映画はこの屋外でのセッションを軸に、
別のライブ映像や様々な場所で収録した
サン・ラー自身の言葉をさし挟んでゆく。
サン・ラーは音楽の天才であると同時に、
宇宙の真理を語る媒体でもあるらしい。
その真理を語る手段である彼の音楽は、
極めて純度の高いものでなければならないのだろう。
実際、映画の随所に登場するサン・ラーのライブ映像を見ると、
自分のような素人が聴いただけでも
とんでもなく高純度な音楽だと分かる気がする。
この音を生み出すために、バンドメンバーは「生活より音楽」
を優先し、非常にストイックな日々を送っている。
また、そういう規律を守れる人間をサン・ラーは重んじる。
一流のミュージシャンであるバンドメンバーは、
常人にはなしえない音楽を生み出すリーダー、
サン・ラーに無条件に従う、と断言する。
一方、近所の人が「宇宙とかにカブレちゃってるけど、いい人達だよ」
と語っているように、皆どこかユーモラスで明るい感じだ。
若干アサッテの方向に向かっているのかと予測したが、
穏やかな表情で語るサン・ラーからは
エキセントリックな印象は意外にも受けない。
彼は神になるつもりはないというが、
リーダーとしての役割は強く意識しているようだ。
「人民の人民による人民のための政治」には
"リーダー"の居場所がなく、それゆえ自分には
地上に居場所がないのだ、と淡々と語っている。
だからこの星(地球)を通りすぎようと思った、とも。
サン・ラーの言葉は平易で簡潔だが、
ストレートに理解できる(気がする)部分と、
茫漠として意味が理解できない部分とが混在している。
彼は個々の社会的な問題には言及せず、
古代エジプトやギリシャの神話から人類は学ぶべきことが多い、
という趣旨のことを繰り返し語っていたが、
教養のない自分には残念ながらピンとこなかった。
いっぽう、規律を重んじ、音楽の質を重んじる
求道者のようなサン・ラーの”音”に対する真摯な発言には、
感覚的にではあるが共感を覚える点も多かった。
彼は自分の主義主張を訴えるというよりは、
なんらかの理(ことわり)を述べている印象だ。
従って、押し付けがましくなく素直に受け止められる。
途中、サン・ラーがスタジオでエレピをびゃらびゃらと
弾きまくっている映像は圧巻だった。
地上のどこでも聞いたことのないような不思議なメロディなのに、
全く違和感なく「音楽」として自分の耳に飛び込んでくる。
ひょっとしてこれは宇宙からのメッセージなのかも、
と本気で思った瞬間だ。まさにサン・ラーマジック。
小さな映画館ゆえに決して大きなスクリーンではないが、
アフロビートやジャズの音の洪水に酔いしれた
アッという間の1時間だった。
タイトル通り"喜びの音"、ジョイフル・ノイズだ。
映画の予告編に「全てのブラックミュージック・ラヴァーズに捧ぐ」
とあるが、確かに見てよかったと思うし、
秀逸なライブビデオとしても、また観たくなった。
追記:冒頭のライブでの紫色のマントの彼は
クール&ザ・ギャングのトランペッター、
マイケル・レイさんではないでしょうか?
とっても楽しそうに演奏されていました。