先日のライブの感想を書こうと思いつつ筆が進まぬわけは
はるか遠い日の琉球王国に魂を奪われてしまったから。
沖縄出身の池上永一渾身の超大作、「
テンペスト」。
150年前の琉球王国を舞台に繰り広げられる
華麗なる宮廷ジェットコースタードラマだ。
時代の波にほんろうされる小国にふりかかる危機を救う
頭脳明晰にして美貌のスーパーエリート・寧温と
激動の時代に生き、散った人々の悲喜こもごもが
琉球王国の盛衰と歩調をあわせて情感たっぷりに描かれる。
「美と教養」を誇る琉球で絶世の美男美女が恋歌を詠み
神女は神への賛歌をうたいあげ、美少年が舞い踊る。
いっけん浮世離れした絢爛豪華なファンタジーのようでいて、
沖縄の今につながる極めて現実的な話でもある。
陰謀うずまく王宮、男装の麗人、国際恋愛に人智を超えた超能力・・
洒脱な笑いあり、涙ありの破天荒な展開はインド映画さながらだ。
日本にはないド派手な色彩が活字の中から立ちのぼり、
読者の視覚と聴覚、嗅覚さえも映画以上に刺激する。
いやあ~、まいったまいった!
ヒロイン・真鶴の男を凌駕する聡明さと負けても負けても這い上がる
ゴキブリ並の生命力はまるで「チャングムの誓い」だし、
王国の黄昏は「ラストエンペラー」をも思わせる。
あらためて感銘を受けるのは琉球王国のダイナミズムだ。
清国や薩摩との微妙な駆け引き、ペリーの来航・・
この小国はバランス外交の巧みさで難局を乗り切ってきた。
彼ら王国のトップは日本人とは視野の広さが全く違うと感じる。
物語のどこまでが史実でどこからが創作かは分からないが
今の日本にもこれくらいの頭脳があれば、と思えてならない。
小説の根底に流れるのは作者の琉球への深い愛情である。
そして、琉球の視点から見た明治維新の日本の姿も興味深い。
まるで自分が150年前にタイムスリップし、美しい珊瑚礁の上から
鳥の目で遠くの異国・日本を俯瞰している気分にさせられる。
極上の古酒を舐めるように通勤時間にちびちび味わってきたが
飽き足らず、一昼夜で上下巻を貪るように完読。
読み終わった時には酩酊状態で思わず涙がこぼれた。
活字で愉しむ琉球マサラ、おすすめでございます!