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ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

D I A R Y 25年6月

2025-07-05 12:27:14 | つぶやき
  6月 某日 ①

 そろそろお風呂に入り、就寝を迎える時間だった。
珍しくそんな時間に家デンが鳴った。

 家内が電話に出た。
すぐに明るい声になり、
「ええ、元気ですよ!」
フレンドリーな雰囲気だ。

 若干言葉を交わし、
「お待ち下さい。
今、変わりますから」
 私に受話器を渡した。

 誰なのか検討もつかないまま
「もしもし」と応じる。
 相変わらず、おっとりとした穏やかな声が
「渉、久しぶり!
元気なようだね」。

 2年以上もご無沙汰していても、
彼とは、中学3年からの付き合いである。
 その声はすぐに分かった。
「Y雄も、元気だった?」

 「それがさ、半年くらい前から、
腰が痛くてさ。
 もう仕事は全然していないから、
そっちには迷惑かけないで済んだけれど・・。
 ちょっとの動きでも辛くて、毎日困ってるよ」
しばらく彼の腰の様子に耳を傾けた。

 そして、「渉は腰を痛くしたことないの?」
と訊かれた。
 「俺は、若い頃から腰痛持ちで、
何度もギックリ腰をして、大変だったんだ。
 今もそうだけど、年に何回も痛い時があるよ」。

 その先は、通院して病院や飲んでいる薬の話題で盛り上がる。
ふと気づくと。以前はもっぱら仕事や家族のことが話題だった。

 「お互い、何処が痛いとか悪いとか、そんな話題ばかりだね。
随分と歳とった証拠だね」。

 それを聞いた彼は、同意しながらも急に
「そうそう、今日は僕の誕生日だった。
それを渉にも教えようと思って電話したんだ。
 歳とると駄目だね。
肝心なことが後回しになっちゃった!」だって。

 
  6月 某日 ②

 詩集『海と風と凧と』を発刊したのは、2006年9月だった。
あれから20年が過ぎた。
 
 その年は、東京都の児童文化研究会長をしていた。
月1回、その研究会が某小学校であった。
 毎回、研究大会に向けて2時間余り、活気ある会議を行った。

 会議が終わると、正副会長や事務局のメンバーで、
反省会と称して、小学校の最寄り駅前で一席を設けた。

 いつも同じ暖簾をくぐった。
回を重ねるごとにその店の馴染みになった。
 カウンター席が6つと
4人で囲む小上がりテーブルが5つ程の小さな居酒屋だった。
 ご主人夫婦と妹さん2人が、てきぱきと働いていた。

 詩集を出版した月は、出版祝いを兼ねて盛り上がった。
ご主人が、お祝いにとビールを何本が差し入れてくれた。
 嬉しさの余り、「謹呈します」とカバンにあった1冊を、
ご主人に渡した。

 ご主人は、その本を嬉しそうに手に取り、
「そのカウンター席に置いておきます。
 1人飲みのお客さんが手にするかも知れません」。
私は全く期待もせず「ありがとうございます」と、
笑顔を作った。

 ところが、1ヶ月後再び店へ行った日だ。
ワイワイと飲んでいると、
カウンターの隅で1人飲みの男性がいた。
 私からは、その方の背中しか見えなかった。

 トイレから戻った先生が教えてくれた。
「詩集を読みながら、飲んでますよ」。

 それまでのワイワイの声が、やや小さくなった。
私は、その背中が気になって仕方なかった。
 その方は、1時間もすると席を立ち、店を出て行った。

 ご主人は、常連さんだと教えてくれた。
そして、「最近、そこに座るとよく読んでますよ」と。
 胸がジーンと熱くなった。

 さて、そんな経験を覚えていたので、
今回の教育エッセイ出版でも、
そんなお店があれば『謹呈』をと目論んだ。
 
 地元に馴染みの居酒屋はなかった。
理髪店と整骨院に、図々しくお願いしてみた。
 「この本を出版したんですが・・」と、
待合コーナーの本棚を指し、
「もし邪魔でなかったら、
その棚に置いてもらえると嬉しいのですが・・」。

 馴染みの客からの厚かましい頼みである。
真意は別として、2つ返事で引き受けてくれた。

 それから理髪店にも整骨院にも何度か行った。
本棚に置かれた私の本は、定位置から動いた気配がなかった。

 ところが今日の整骨院は違った。
治療を済ませ待合コーナーに戻ると、
珍しく3人が長椅子に座っていた。

 空いている席に腰をおろすと、
隣の女性が、私の本を手にしているのに気づいた。
 突然、背筋がすっと伸びた。
  
 すぐに女性は治療に呼ばれた。
返事をした後、
読んでいたページにしおり紐を移し、
本棚に立てかけ、女性は治療へ向かった。

 「きっと続きを読んでくれる」
そう信じた。
 20年前同様、胸がジーンと熱くなった。


  6月 某日 ③

 家内は昔の同僚何人かと、
定期的に近況報告のメール交換をしている。

 「Cさんからのメールなんだけど・・」と、
スマホを見せてくれた。

 そこには、こんなことが書いてあった。
最近主人の物忘れがひどくなりました。
 仕事先で回りに迷惑をかけていないか心配です。
なので、大きな病院の『物忘れ外来』へ行くことにして予約しました。 
  
 ご主人はとても気さくで、なかなかの人格者であった。
意気投合して、楽しいお酒を飲んだことも。
 それだけに『物忘れ外来』の予約に、
私もショックを受けた。

 『これ以上、症状が進まないよう願うばかりです』
メールに記されたCさんの想いが、心に刺さった。
 「明日は我が身かも!」と思いつつも、
「辛い!」できごとである。




      アジサイが開花

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