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ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

D I A R Y 25年4月

2025-04-26 11:03:29 | つぶやき
    4月 某日 ①

 4月からは新しい年度である。
現職の頃は、1日に新顔の先生らを迎えた。
 その初々しい姿を見て、
「いよいよ新しいスタートか!」と実感し、
意気込んだものだ。

 まさか、当地でしかもこの年齢になり、
再び新年度を強く意識するようになるとは、
思ってもいなかった。

 自治会長になり2年が過ぎた。
役員改選の年度であった。

 通常総会があり、1週間後に52もある班の班長会議が、
5つに分け2日間をかけて行われた。
 そのまた1週間後には、定員67名の役員会議があった。

 私は総会で会長に再選され、これらの会議を切り盛りした。
役員の約4分の1が変わった。
 新顔の方々には「是非、自治会の活動に新風を吹き込んでほしい」と、
挨拶でくり返した。
  
 さて、連続した3つの会議の最後、役員会議でのことである。
開会を前に会場の前席に座り、
司会役の副会長さんと進行の打合せをしていた。

 その最中、突然、女性の役員さんが私の前に立った。
何度が朝の散歩で言葉を交わしたことがあり、
お名前も知っていた。

 「お忙しい時にすみません」
驚いて私が顔を上げると、その方は続けた。
 「先日、図書館で会長さんのご本をやっとお借りできました。
お読みしました。
 もう素晴らしくて、私は・・・」
その方は、両手の人差し指を頬にあて、
涙が流れる仕草をした。

 すると私の横にいた副会長さんが、
「やっぱり、皆さん同じですよね。
僕もそうでした」と口を挟んだ。

 その方は、その声に構わず、
「私、ありがとうございました。
それだけ伝えたくて・・、本当に。
 失礼しました」
深々と頭を下げ、去って行った。

 すごく嬉しかった。
恐縮の余り、慌てて立ち上がり、
その後ろ姿に私も頭を下げた。

 「やっぱりそうだよ。そうです。
あの本は、そうですよ!」
 副会長さんは、納得の表情でくり返した。

 
    4月 某日 ②

 教育エッセイを出版すると、
兄は、私からの謹呈とは別に、
10冊を注文してくれた。
 
「俺の弟が書いたんだって、
友だちや知ってる人にあげるんだ」 
 嬉しそうにそう言いながら、
本の代金を差し出した。
 
 私が、そのお金を遠慮すると、
「いいから、自慢しながら渡したいんだから」
と嬉しそうだった。

 お彼岸のお墓参りで、久しぶりにその兄と会った。
帰りに、かかり付けのお医者さんが読んでみたいと言うので、
「例の本を1冊ほしい」と。
 そして、後2人くらいあげたい人がいるとも。

 なので後日、「本代はいいからね」と3冊を持って、
兄の店へ行った。
 
 相変わらず、小まめに動き回り、
店を切り盛りしていた。
 その合間を縫って、しばらく話ができた。

 「そろそろ、この店を終わりにしなければと思って」
それが、話の始まりだった。
 意外な切り出しに、驚いた。

 すでに、店の経営は義理の息子に任せていた。
兄はそれを判断する立場にはなかった。
 それでも、「いつ止めるかを、この頃よく考えるんだ」と言う。
最終的には自分が決めることではないことを兄は承知しているはず。
 でも、兄の言いたいことを聞いて上げようと思った。

 「俺も、もう少しで90になるべ。
動けなくなる日まで何年もないさ。
 だから、動けるうちに止めたいんだよ」

 真意が分からなかった。
「動けなくなったって、
跡継ぎがやるからそれでいいじゃないか!」
 「そうじゃない。
もし,俺が動けなくなってから、
この店が立ちゆかなくなったらって、考えるべ」

 「もしそうなったら、それはそれで仕方ないじゃない」
私がそう言うと、
珍しく兄は強い口調で言った。
 「それが、俺はいやなんだ!」。

 その勢いで続けた。
「俺は、負けたくないんだ。
だから、今だっていい魚を毎朝探して、
美味しいのをと毎日頑張ってる。
 止めるなら、今のまま。
店が傾かない前がいいんだ」

 兄は言う。
「俺が動けなくなってからでも、
やっぱりあの店もだめだったかと言われたくないんだ。
 負けて店を終わりにしたくないんだ」。

 「つまりは、惜しまれて店をたたみたい。
自分が動けるうちなら、
同じようにお客さんに来てもらえる。
 ならば止めても負けたことにならいと言う訳か」
 
 兄は私を正視し「そうだ!」と強く言った。
なのに、私は偉そうに言ってしまった。

 「負けたっていいじゃないか。
負け組と勝ち組ってよく色分けするけど、
負け組のほうが圧倒的に多いんだ。
 ほどんどみんな、負け組だよ。
それで人生終わっているんだよ。
 多くの人が、本当はそうなんだよ」

 「でもなあ、
俺はずっと負けたくなかったから、
ここまで頑張ってきたんだ。
 お前は、こうして立派な本を世に出したべ。
普通なかなか出来ないことをやってのけたさ。
 羨ましいくらいだけど、凄いし自慢だ。
お前らしく頑張ったからだよ。
 俺だって、やっぱりお前にじゃないけど、
負けずに終わりたいんだ。
 分かるべ、なぁ!」

 泣きそうで声にならなかった。
兄の強さも優しさも浸みた。
 精一杯うなずき、
目の前にあった冷たくなったお茶を、ゆっくりと飲んだ。
 



   柳 も 芽 吹 く ~だて歴史の杜公園

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