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ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

「いつか・・は!」を果たす (後)

2025-04-12 11:17:42 | 旅行
 春の陽気に誘われ、
「いつか・・は」行きたい、
「いつか・・は」やりたい、
と思っていた盛岡と宮澤賢治の里・花巻を訪ねた。
 その『旅日記』、後半を記す。

 ⑶ その土地ならではの味覚に触れる。
これも旅の楽しみだ。
 『盛岡冷麺』と『すいとん』に加え、
「食べてみたい・・!?」
「チャレンジしてみたい・・!?」
と思ったのが、『椀子そば』であった。

 60年前に一度だけ食した記憶があった。
岩手大学の入試を終えた日の午後、
同じ高校から受験した同級生数人で、
『椀子そば』店の暖簾をくぐった。

 受験からの開放感もあって、
「食べられるだけ食べてやれ!」と意気込んだ。
 私だけじゃない。
みんながみんな、入試以上に気合いが入っていた。

 次々とお椀に入れられるそばを、
勢いよくほおばってほおばって・・・。
 確か「130杯だったかな?」、
それ以上食べると代金が半額だった気がする。
 私たちは、130杯を目指して食べ始めた。

 だが、100杯にも届かず、私はギブアップ。
結局、半額の者はなく全員正規のお金を払い、退散した。
 追記すると、その時椀子そばに同行した者は、
この大学の入試でも、全員が挫折を味わった。

 だから、『椀子そば』にはいいイメージがなかった。
それでも、盛岡旅行には欠かせないと思った。

 1日目の夕方、
予約したそば店の席に座ると、
すでに、真向かいでは若い家族が、お椀の山を築いていた。

 まだ私たちの準備が整わない前に、
そのお父さんが、
「これで、100杯を越えた!」と笑顔を見せた。

 そして、横にいた女の子、
後で分かったが小学2年生は、
給仕の女店員に「後1杯で40杯だね」と確かめていた。

 お母さんも凄い。
10個のお椀の山6つに囲まれていた。
 残念ながら3歳だと言う男の子は、別メニューで静かにしていた。

 向かいのそんな姿に圧倒されていると、
私たちの前にも,給仕の方が立った。

 「ハイ!jじゃんじゃん。ハイ!どんどん」
と、独特のかけ声とともに、
私が手にした腕にそばを入れた。

 それをひと口で食べると、
すぐにまた腕にそばが入った。
 これが『椀子そば』だ。

 ずっと急かされ続けた。
休む間がないまま、食べて食べて・・。
 そばの味など分からない。
そのまま20杯、30杯・・・。

 向かいの2年生は、40杯を越え、
スピードダウンしたものの45杯目を空けていた。

 全く競う気持ちはないが、
40杯を前に、私はもう食欲を失っていた。
 そして、「オーダーストップ!」と、
椀にフタをした。
 
 私は40杯、家内は30杯で「終了!」
2年生はまだ、48杯目を食べようとしていた。

 支払いを済ませて店を出ると、突然口直しがしたくなった。
満腹ではなかったのだ。
 駅ビル地下街で、豪華なケーキを2つ買った。
ホテルに戻ってコーヒーを淹れ、
時間をかけて、ゆっくり味わった。

 食べながら、もう『椀子そば』の年齢じゃないことを痛感した。

 ⑷ 2日目の宿は、花巻温泉郷のA館にした。
ネットで探して予約したが、
決め手は夕食を部屋食にできたことだ。

 A館は、花巻市内からレンタカーで
30分以上もかかる山間部にあった。
 金曜日であったからか予約客で混雑していた。
でも、インバウンドとは無縁だった。
 大きな温泉旅館なのに、
ロビーで聞こえるのは日本語ばかり。

 しかも、家族づれが多く、
小さな子どもの声が飛び交っていた。
 何故か、ホッとした。 

 お風呂も大きく、ゆったりとした時間が過ごせた。
ここにも、子どもの声があった。

 夕食も時間通りに準備ができ、
思惑通り、バイキングのようなせわしなさがなかった。

 旅の疲れもあったのか、グッスリ眠った。
案の定5時には目覚めた。

 そして、「贅沢の極み!」とばかり、
早朝の温泉に浸かった。
 至福の時間が流れた。
ここにも、若いお父さんと小さな子の姿があった。

 さて、朝食である。
ダイニングキッチンと個室風テーブルのバイキングだった。
 騒がしさ、慌ただしさを覚悟で、会場に行った。

 案内された席は、通路とは暖簾で仕切られていたが、
個室のようになっていた。
 通路を挟んだ向かいの席だけは見ることができた。

 好みの朝食をチョイスして、席に着くと、
通路の向こうの様子が気になった。

 食事を取りながら、何気なく様子を見た。
お母さんと、3人の男の子が静かにテーブルに向かっていた。
 お父さんらしい姿がなく、気になったが
4人の静かな振る舞い方に、好感をもった。

 しばらくすると、男性が席に座った。
すかさずお母さんが立ち上がった。
 男性はお父さんだと理解した。
きっとお母さんはダイニングへ行ったのだろうと思った。

 1番小さい子は、まだオムツのようだったが、
3人の子育ての様子をちょっと垣間見た気がした。
 
 家族5人で温泉旅行の朝食である。
やや時間を置いて、
お母さんがお盆に朝食をのせて戻ってきた。
 自分のことよりも先に、
まず下の子に、運んできた何かを食べさていた。
 それが、子育て真っ最中の親の姿だと、改めて気づいた。

 ふと、50年前の子育てを思い出した。
そして、その真っ最中の若いお父さんお母さんを目の当たりにした。 
 「凄い!」と思った。
エールを送りたくなった。

 帰りに、フロント従業員に尋ねた。
「若い家族づれが、いっぱい泊まっていましたが、
何か特別なことでも?」

 「本館は、子どもづれ家族の優待を行っています。
例えば、3歳以下の宿泊料金は頂いておりません。
 あのう・・、お客様に何かご迷惑をおかけ致しましたか?」

 従業員は、カスハラかと身構えたようだった。
すかさず言った。
 「とんでもない。
若い家族づれを見ることができてよかったです。
 私まで、なにか若返った気分です」

 「ありがとうございます!」
従業員は、嬉しそうな声で頭をさげた。
 忘れられない宿になった。




     2008年『洞爺湖サミット』会場
コメント
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