ジューンベリーに忘れ物

シンボルツリーはジューンベリー
どこかに沢山の忘れ物をしてきた気がして

高齢になっても 「頑張る!」人 

2023-07-08 10:34:22 | 素晴らしい人
 ▼ このブログによく登場するわが兄だが、
年齢は10歳も離れている。
 中学卒業後、父がしていた魚の行商の手伝いから始まり、
やがては手広く鮮魚店を経営するまでになる。
 その後、現在の居酒屋風の魚料理専門店を始めたが、
その店も今では代替わりをし、同居する息子に譲った。

 しかし、鮮魚への目利きは確かで、
息子は、足下にも及ばない。
 だから、毎日、早朝の魚市場に行く。
その日の仕入れの全ては、今も兄の役目なのだ。

 店に戻ると、息子と一緒に仕入れた魚をさばき、
その日の店のメニューにする。
 ランチの時間に間に合わせると、
兄の仕事は一端、終わる。

 自宅に戻り、体を休めたり、
雑用をしたりして日中を過ごす。
 そして、夕方の開店に合わせ、
再び店の厨房に立つ。
 その日の宴席予約や、
客の注文にすぐに応じられるよう準備する。

 夜の店は、開店から2時間余りが最も忙しい。
兄はその時間だけ、刺身を造ったり接客したりし、
客の求めに応じ動き回る。

 私は、年に数回、兄がいる時間帯を狙って、
店を訪ね、夕食を注文する。
 店内の賑わいの中を、明るい表情で小まめに動き、
店主の息子やパートさんと一緒に、客の声に応じる兄を見る。
 
 その頑張る姿に、弟の私はいつも脱帽するのだ。
兄は言う。
 「俺からこの仕事がなくなったら、
やることが何も無くなるべ。体が動くうちはやっていたいんだ」。
 ただただ私は恥ずかしい気持ちになってしまう。

 ▼ 市内の自治会長が集まる会議が2種類ある。
1つは、全市の会長が集まる「市連合自治会長会」だ。
 もう1つは、市内を幾つかの地域に分けた会長会である。
私の地域は14の自治会で構成する「T区連合自治会」である。

 そのT区の自治会長会があった。
昨年度までの連合自治会長が退任され、
新会長になった。
 会議の冒頭、新会長が挨拶に立った。

 静かな口調でお話しされた。
自己紹介のくだりが、心に残った。
 彼は、今年80歳になった。
前会長より新会長を打診され、その重責を考えると迷ったと言う。
 しかし、長年にわたる前会長のご苦労を思い、
お引き受けしたらしい。
 
 そして、彼は、
「自分の自治会の会長を引き受けて、5年になります。
まだ健康なので、皆さんのお力を借りながら頑張りたいと思います」。

 聞きながら、ふと思った。
彼が自治会長になったのは、今の私と同じ75歳の時だ。
 それから5年後、
彼は「T区連合自治会長」の任に着いたのだ。

 自治会長の任に限らず、
今の私は、時々『億劫』という2文字と戦っている。
 どんな切っ掛けでもいい。
どんな声かけでもいい。
 私の背中を押してもりたい。
そう思うことがなんと多くなったことか。

 そんな私の5年先は明らかだ。
どんな使命感も投げ捨て、
『億劫』と妥協した日々を送っているに違いない。
 どう思い直しても、新連合会長のような80歳にはなれそうもない。

 ▼ 確か、コロナ禍の2年前だったと思う。
退職後、写真撮影を趣味にしていると言う大学時代の友人が訪ねてきた。
 住まいは我が家から車で3時間半余りの所だが、
その時は、途中で2、3泊しながらビュースポットにレンズを向けながらの旅だった。
 伊達には2時間ほど滞在し、眺めのいいところを案内した。
途中下車しては、しきりにシャッターを切っていた。

 帰り際、彼は、
「今度は一緒にパークゴルフができるように、
ゆったりと時間をつくって来るわ」と言った。
 しかし、コロナで足止めに。

 今年4月、突然メールが届いた。
洞爺湖温泉に一泊するので、翌日パークをしようと言うものだった。
 彼は、家内にとっても友達だった。
遠慮はいらない。
 我が家に宿泊するよう勧めた。

 2ヶ月後、色々な所に立ち寄りながら、
午後4時過ぎ彼はやって来た。
 挨拶もそこそこ、開口一番
「いつかやろうと後回しにするのは、
そろそろ後悔につながるから、
先送りしないことにしたんだ。
 だから、2人とのパークも、
コロナが開けたらすぐにと思って来たんだ」。

 「そうだね。誰かに教えてもらったけど、
やれることは今のうち、今のうちにできることを、だね!」
と、応じた。

 その後、いつもより遅い時間まで、
思い出話が続いた。

 翌朝、朝食の支度を家内に任せ、
2人で散歩に出た。
 道々、彼は今の暮らしぶりについて話しだした。

 彼には、3人の娘さんがいた。
末の娘さんは、父と同じ教職の道に進んだ。
 結婚をし、彼の家から数軒先に居を構えた。

 現在は、保育園に通う男の子が2人、
しかも年子がいると言う。
 「学校が忙しい上に、年の近い2人の子育てでしょう。
よく助けを求め、2人の孫をつれて来るんだ」。

 そう話している矢先だった。
彼にLINEメールが届いた。

 「丁度その娘からのメールだよ。
今日から2泊3日で5年生をつれて宿泊学習なんだ。
 だから、2人のこと頼みます。
気をつけて早く帰ってきてね、だって」。

 彼は、笑顔でつけ加えた。
「手のかかる孫だけど、かわいいんだ。
娘と2人の孫のため、子育てがひと段落つくまで、
後10年は元気で頑張ろうと思ってるんだ」。

 「10年先・・・まで。
すると85歳か!」
 彼はそこまで視野に入れている。
「すごい!」。
 散歩の足が止まりかけた。

 一緒にパークゴルフをしながらも、
彼の意気込みが脳裏から離れない。
 やけに後ろ姿が、まぶしかった。

  
 

    ビート畑 先は麦畑

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