精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

心を生み出す脳のシステム

2015-04-06 10:32:45 | 科学と精神世界の接点
◆『心を生みだす脳のシステム―「私」というミステリー (NHKブックス)

その面白さに思わず夢中になった。これほどに刺激的な本だったとは!! 刺激的なのは、脳の科学から出発しながら、クオリア(質感)という概念をひき入れる ことで、心の主観性という問題に迫ろうとしているからだ。心という主観性の問題 をごまかさず正面から理解しつつ、なおかつそれを脳のシステムからどう説明でき るかを問うているのだ。  

著者は、脳の科学に足場を置きながら現象学的な問題に一歩足を踏み入れているように見える。フッサール、ハイデガー、メルロ・ポンティなどが探求した主観性と いう哲学的な問題に脳科学の成果を引っさげて果敢に挑戦しているところにこの本 の面白さがある。  

最新の脳科学や認知科学の動向や、そこで問題にされている点について、著者の強烈な問題意識から解説されていて、私自身、この分野への関心が一気に高まって しまった。
   
著者は自信をもっていう、「心を生み出す脳のシステムは、単純な機能局在説で は理解できない」、「生化学的な知見や機能局在は、脳というシステムの、いわば 断面図に過ぎない。断面図をいくら集めても、私たちの心を生み出す生きた本質には迫れない」と。 そして、心を生み出すのは、「脳全体にまたがって、1000億のニューロンが作り 上げる、複雑で豊かな関係性」であり、「脳というシステムなのだ」として、脳が 心を生み出すとはっきりと断言する。  

しかし一方では、「ニューロンを一つ一集め、ある関係性を持たせるとなぜそこに心が宿るのか、その第一原理さえ皆目検討がつかない」と正直に告白し、それは、心がない状態から心を合成する「錬心術」(錬金術のもじり)だとさえ言う。これ だけ脳のニューロンの働きと意識との関係がはっきりしてきていても、では意識は どのようにして成立するのかとう根本的な問題になると、脳科学はハタと行き詰っ てしまうのだ。  

にもかかわらず、あくまでも心はニューロンのシステムから解き明かせるという立場を崩さない。「錬心術」の状態から抜けだすため、地道に脳のシステムと心の要素の対応関係についての探求を続け、一方で新しい発想による心脳問題の展開を待つほかないと言う。  

私に言わせれば、ニューロンのシステムをいくら解明したところで、そこに心が宿るのは不可能だということを原理的に明らかにする道をたどる方がはるかに生産的である。脳科学がここまで発達し、様々な知見が蓄積されている以上、精神世界 に関心を持つものも、その成果を積極的に学びとって、その成果から何が言えるの か、何が言えないのかをはっきりさせるべきだと思った。脳科学の成果を謙虚に学 び、受止めつつ、なお脳科学のどこに原理的な限界や問題があるのかを、真剣に考 え、明らかにしていかなければ、精神世界の探求もある意味で知的怠慢のそしりを まぬかれない。たぶん茂木健一郎の考え方に充分に反論できなければ、魂や輪廻転生の問題について、少なくとも私自身は、納得のいく論は展開できないと感じる。


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