つい先程まで、友人がPC作業をしていた。僕の部屋で、僕の傍らで。
彼は仕事の原稿を打っていた。時に僕の助言を求め、時に日々の、僕らが擦れ違っていた空白の報告をして。
散らかった部屋の中、僕は煙草を喫い、そうして、明けて今日の仕事はどうなるかと、余計な事を考えていた。そして彼が好きなフィギュアスケート選手が円舞曲としていたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をスピーカーから流し、これがそうだよ、と教えた。
2時間程で、彼は帰って行った。
彼が呑んだビール缶がここに残った。彼の吐いた息もまだ、ここに残っている。しかし彼は今、僕の貸した自転車で家に着いただろう。
ピアノ協奏曲の第2楽章が、先とは違う趣で流れている。日中の雨の匂いも徐々に消えていく。そうして僕の中に、雨に似た憂いのピアノの音がたたかれてゆく。微に入り細をうがつ、ピアノの雨が。
やがて第2楽章の終わりと共に、哀しみは、ひすらぐ。次いで夢は、僕を召し籠む。「何も臆する事はない」、と。
夢とは、雨の残り香だろうか。
夢とは、不在の結晶だろうか。
彼は仕事の原稿を打っていた。時に僕の助言を求め、時に日々の、僕らが擦れ違っていた空白の報告をして。
散らかった部屋の中、僕は煙草を喫い、そうして、明けて今日の仕事はどうなるかと、余計な事を考えていた。そして彼が好きなフィギュアスケート選手が円舞曲としていたラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をスピーカーから流し、これがそうだよ、と教えた。
2時間程で、彼は帰って行った。
彼が呑んだビール缶がここに残った。彼の吐いた息もまだ、ここに残っている。しかし彼は今、僕の貸した自転車で家に着いただろう。
ピアノ協奏曲の第2楽章が、先とは違う趣で流れている。日中の雨の匂いも徐々に消えていく。そうして僕の中に、雨に似た憂いのピアノの音がたたかれてゆく。微に入り細をうがつ、ピアノの雨が。
やがて第2楽章の終わりと共に、哀しみは、ひすらぐ。次いで夢は、僕を召し籠む。「何も臆する事はない」、と。
夢とは、雨の残り香だろうか。
夢とは、不在の結晶だろうか。
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