銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

レモンティーの夕べ

2015年04月02日 00時27分03秒 | 散文(覚書)
揺り椅子に微睡むと
咥えた煙草が子守唄になる
黄昏も朝焼けも
全てが心の淵に暮れなずんでゆく

誰もいない奥のテーブルには
背もたれの高い椅子がぽつんと佇み
夢時間でも待っているのやら
時折風に吹かれて微かな音を立てる

背もたれの後ろには光が斜めに差し
朝も夕方も混じったような色を投げかけて
紅茶にレモンを浮かべた

小さな遊園地のようなレモンの輪は
爽やかな懐かしい香りを立てながら
少しずつ
ゆっくりと
時を遡るようにカップへ沈んでゆく

星が瞬き始めた空の下
小さくなったレモンの上に砂糖をふりかけ
その暮れゆく世界に雨を降らしたら
あなたはようやくやって来た

恥ずかしそうな微笑を口に目元に湛えて
もう風なんか吹いていやしないのに
髪を整える真似なんかをして

洗いたての白いシャツに月は照り
子どもに返ったあなたは
硬い背もたれに文句を言いいつつも
紅茶を愛おしそうに飲んだ
いつしか湯気の立ち昇った
レモンの思い出を

幼子の
母に抱きつくときに萌えるレモンの香りは
ずっとここから消えない

あなたが取り戻した生きる力を
決して忘れはしない
揺り椅子に微睡んだ煙草が
夜を灯し続けるように
決して
忘れはしないよ

いつかまた一緒に
小さな遊園地へ出かけよう
子どもであった日の
あなたと私とで



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