3月のボーイ隊のプログラムのテーマは、「狼森に入る」でした。
これは、宮沢賢治の童話からとったものです。
同じく賢治の作品の中に「生徒諸君に寄せる」という詩があります。
4月から新しいスタートを切る君たちに今日はこの詩を送ります。
生徒諸君
諸君はこのさつ爽たる
諸君の未来圏から吹いて来る
透明な清潔な風を感じないのか
それは一つの送られた光線であり
決せられた南の風である
諸君はこの時代に強いられ率いられて
奴隷のように忍従することを欲するか
今日の歴史や地史の資料からのみ論ずるならば
われらの祖先ないしはわれらに至るまで
すべての信仰や徳性は
ただ誤解から生じたとさえ見え
しかも科学はいまだに暗く
われらに自殺と自棄のみをしか保証せぬ
むしろ諸君よ
更にあらたな正しい時代をつくれ
諸君よ
紺色の地平線が膨らみ高まるときに
諸君はその中に没することを欲するか
じつに諸君は此の地平線に於ける
あらゆる形の山岳でなければならぬ
宙宇は絶えずわれらによって変化する
誰が誰よりどうだとか
誰の仕事がどうしたとか
そんなことを言っているひまがあるか
新たな詩人よ
雲から光から嵐から
透明なエネルギーを得て
人と地球によるべき形を暗示せよ
新しい時代のコペルニクスよ
余りに重苦しい重力の法則から
この銀河系統を解き放て
衝動のようにさえ行なわれる
すべての農業労働を
冷く透明な解析によって
その藍いろの影といっしょに
舞踊の範囲にまで高めよ
新たな時代のマルクスよ
これらの盲目な衝動から動く世界を
素晴らしく美しい構成に変えよ
新しい時代のダーウィンよ
更に東洋風静観のチャレンジャーに載って
銀河系空間の外にも至り
透明に深く正しい地史と
増訂された生物学をわれらに示せ
おおよそ統計に従わば
諸君のなかには少くとも千人の天才がなければならぬ
素質ある諸君はただにこれらを刻み出すべきである
潮や風......
あらゆる自然の力を用い尽すことから一足進んで
諸君は新たな自然を形成するのに努めねばならぬ
ああ諸君はいま
このさっ爽たる諸君の未来圏から吹いて来る
透明な風を感じないのか
賢治の母校盛岡中学校(現・盛岡第一高等学校)には、この詩の詩碑が立っています。在学中賢治は、寮の仲間と交友を深め、付近の山々を歩き、多くの書物に親しみました。
詩碑の写真は http://www.ihatov.cc/monument/055_.htm
この詩は、1946年に「朝日評論」という雑誌に紹介されました。
実は、現存する賢治の詩稿では、中身が断片のばらばら状態でしか残っていません。したがって、朝日評論掲載時に、詩稿の断片を誰かが詩として構成しなおしたものだろうといわれています。
それでも、この詩の持つ爽快なメッセージは色あせるものではありませんよね。
賢治の作品をもっと知りたいときは http://why.kenji.ne.jp/