祖谷渓挽歌(いやだに・ばんか)~藍 友紀(あい・みゆき)著

「2007年自費出版文化賞」大賞受賞作品の紹介およびその周辺事情など。

「学の自由」に殉じた長尾孫夫の生誕百年祭~5月16日東京、徳島

2012-05-19 13:13:27 | Weblog
 朝日新聞より引用

自由への思い歌い継ごう 滝川事件で活動、長尾孫夫さん
 京都大学の滝川幸辰教授が著書の内容を巡って職を追われた1933年の「滝川事件」で、教授の追放に反対して当時の特高警察に捕まった後、志半ばで病死した青年がいた。高知県の旧制高知高校の寮歌「時の流れに」を作詞したことでも知られる長尾孫夫さん(1912~39)。出身地の徳島県三好市東祖谷栗枝渡の墓前では16日正午から、生誕100年を記念し「時の流れに」を歌い継ぐ会がある。

 長尾さんは、四国山地の山深い東祖谷の貧しい炭焼きの一家に生まれ、旧制徳島中から旧制高知高に進んだ。当時は大正デモクラシーから軍国主義が勢いを増そうとする時代。高知高では記念祭歌として「沖に自由の白き帆や 岸辺に赤き自治の花」などとする「時の流れに」を作詞し、高知市民の人気曲となった。

 京大には「弱い立場の人のために働く弁護士になりたい」と、刑法を教えていた滝川教授のリベラルな思想にあこがれて進学。滝川事件は、政府による学問の自由弾圧の象徴とされ、長尾さんは高知高校出身学生の代表として、学生運動に参加し反対した。獄中で結核にかかり、東祖谷に帰ったが家族の看病も実らず生涯を閉じた。

 歌い継ぐ会は、長尾さんを主人公にした長編小説「祖谷渓挽歌」を著した元NHKディレクター藍友紀(あい・みゆき)さん(82)=本名・谷津精衛、神奈川県厚木市在住=が呼びかけた。藍さんは自らも旧制一高、東大文学部卒。旧制高校の寮歌を歌い継ぐ集いを開くうちに「時の流れに」に魅せられ長尾さんを知った。当時の高知高、京大のOBや東祖谷の関係者らへの取材を重ね、18年かけて書き上げた。

 藍さんは「滝川事件といっても若い人は知らない時代になったが、今も君が代斉唱の強制など政治の教育への介入が危ぶまれる。治安維持法のあった時代、学問の自由に命を捧げた若者がいたことは忘れてはならない」という。

 前日の15日、東京・永田町の星陵会館で高知高など旧制高校OBらに呼びかけて寮歌の集い「長尾先輩をしのぶ会」を開く。26日には東京・学士会館で開かれる京大滝川事件記念会で長尾さんをしのぶ講演がある。

 長尾さんの縁続きで、東祖谷での集いの世話をする村おこしグループ代表の市岡日出夫さん(64)は「当時、高知や徳島に出るには険しい峠道を歩いて越え、大変な苦労があったようだ。貧しかった小さな山村から長尾さんのような青年が出たことは、誇りに思う」と話している。墓前の歌い継ぐ会の問い合わせは市岡さん(090・4784・6987)。(福家司)

    ◇

 〈滝川事件〉 京都帝国大学法学部の滝川幸辰教授の著書「刑法読本」を危険思想として当時の内務省が発行禁止処分にし、滝川教授も1933年5月、文部省から休職処分を受けた。当初、教授会は全員が辞表を出して抗議し、学生らも「学問の自由」を守ろうと運動したが、滝川教授を含め、教授ら約20人が大学を去った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

長尾孫夫さん生誕100年故郷の墓前で追悼
2012年05月17日


歌詞ののぼりを手に墓前で「時の流れに」を合唱する参加者ら=徳島県三好市東祖谷栗枝渡

 京都大学で起きた「滝川事件」で滝川幸辰教授らの追放に反対し、学生運動で特高警察に捕まった後、病死した長尾孫夫さん(1912~39)の生誕100年を記念する催しが16日、故郷の徳島県三好市東祖谷栗枝渡の墓前であった。旧制高知高校時代に長尾さんが作詞した寮歌「時の流れに」を集まった約30人が合唱。学問の自由を守るために命がけで戦った長尾さんをしのんだ。


 長尾さんを題材にした長編小説「祖谷渓挽歌(ばんか)」を著し、集いを呼びかけた元NHKディレクター藍友紀さん(82)=本名・谷津精衛、神奈川県厚木市在住=は長尾さんが好きだった絣(かすり)の着物に袴(はかま)姿で参加。参加者は三好市井川町の坂本佳謙さん(71)が用意した「時の流れに舟浮べ 情(なさけ)の調(しらべ)かなでつつ 果(はて)なき旅に出(い)でしより ここに二十の齢(よわい)経(へ)ぬ」などと歌詞を大書した7本ののぼりを手に声を合わせた。


 旧制高知高同窓会の徳島支部からは2人が参加し、「官憲の弾圧に屈することなく所信を貫かれたその勇姿は、我らが追憶の情を深め、哀惜の思い耐え難い」などと追悼文を朗読した。徳島市八万町の秋田忠昭さん(82)は「『時の流れに』は学生時代よく歌った」と話した。


 この後会場を移して座談会があり、藍さんは「取材で東祖谷を訪れ、長尾さんの亡くなった部屋に泊まった時は、自分自身が長尾さんになったような気がして、涙を流しながら原稿を書いた」「『時の流れに』は寮歌愛好者の投票で1位になった」などのエピソードを披露した。


 地元の村おこしグループ代表、市岡日出夫さん(64)は「東祖谷で孫夫さんのことを受け継いでいきたい」と話した。


(福家司)

 *藍 友紀「祖谷渓挽歌全5巻」

   ・2007年自費出版文化賞の大賞受賞本の扱いは、
     神田神保町角の信山社内、岩波ブックセンター ¥15750

   ・2008年発行の改訂版の扱いは、〒085-0805 釧路市桜ヶ岡7-33-6
     「はまなす文庫」 ¥6500 です。

    私家本ですので、一般書店では扱っておりません。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿