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宇宙戦艦ヤマト 復活篇 09/日 その②

2010-01-05 21:17:56 | 映画
その①の続き
 復活編での敵は大ウルップ星間国家連合だが、連合とは名ばかりで事実上は強国SUSが軍事力で他国を支配する組織なのだ。他の連合国はSUSに逆らえず、背けば容赦なく同盟国でも無差別攻撃をするという恐怖支配でもあった。SUSの名称からして苦笑させられる。国家連合のひとつエトス星の提督がヤマトの戦いぶりに感服、久しく忘れ去られていた祖国の武士道を口にするシーンもまた妙な想いになる。やはり原案:石原慎太郎だけあり、石原色がモロに出ている。SUSが連合の名の下、多国籍軍を編成するなど、現代の国際政治があまりにも反映され過ぎて、ストーリー的には白けてしまう。

 地球人の移住先アマール星もまた星間国家連合国家であり、この星だけで産出する資源を提供することで、大国SUSの庇護を受けているという設定。アマールの街の様子など、モスクミナレットそっくりの建物が並び、褐色の肌をした住民や頭部をスカーフで覆う女達など、どう見ても中東風である。アマールを治めるのは女王イリヤだが、どうせならビルキス(シバの女王のアラブ式呼称)の名にでもした方がよかったのではないか?
 不可解なのはアマールが何億もの地球人移民を受け入れること。これだけの頭数なら通常は侵略と見なすはずだし、いかにアニメでも設定が非現実的だ。そして、アマールが自国の資源と引き換えにSUSの庇護を受けているにせよ、現代の中東の王制産油国のように、資源を武器に多方面外交を展開するものである。貴重な資源を持つ国を他国が放っておくはずはないし、SFの金字塔『デューン/砂の惑星』のように星丸ごと支配される可能性が大なのだ。

 アニメといえ、宇宙戦艦ヤマトのご都合主義と商業主義はブーム以降ますます度合いを増し、今回もそれが露骨になっている。劇場版第1作と第2作目『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』を私は封切で見ており、後者は主人公を含めヤマト乗組員の大半は戦死するストーリーだった。当時まだ18歳にも達しなかった私は、映画の後半はずっと泣きっぱなし状態。それ以降も、あれほど泣かされたアニメ映画は他になかったと思う。
 しかし、TV版「宇宙戦艦ヤマト2」では結末が全く異なり、古代進以下主な登場人物は死なず生き残る。その続編として制作された「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」では、デスラーとヤマトが協力したりスターシャが死亡するなど、内容にまるで満足できなかった。これで私も含め、少なからぬファンがヤマトを見限ったと思う。

『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』が典型だが、このアニメの特徴はやけに“特攻”シーンが際立つ。今作もまたヤマト副館長が自ら犠牲となっており、このような話はやはり日本人受けするのだろうか?鉄腕アトムの最終回も爆弾を抱え、巨大化した太陽に突入し地球を救ったはず。それまでの作品と同様、復活編もヤマトクルー全て日本人となっており、それが軍国、国粋主義と非難される由縁だろう。
 そして、ストーリーのご都合主義は私でも気にかかる。ただ、ヤマトが大宇宙を飛翔し、波動砲でカタを付ければ、観客の大半はそれだけで満足するのは確かだ。

 総監督・西崎義展は強引な手法で知られ、松本零士との確執はともかく、ブームだった'70年代後半さえファンの間では評判は決してよくなかった。宣伝もあるにせよ、若者向けの番組やラジオトークショーにも頻繁に出演、「また、西崎が出て…」としかめる人もいた。劇場版2作目公開時、西崎は「この映画のテーマは人類愛」と語り、“愛の戦士たち” の題を付けたと答えていた。これは当時ファンの私でも違和感があった。西崎のテレビアニメ初プロデュース作品は「海のトリトン」だが、ヤマトと対比させ、次のように言っている。
海のトリトン」は男女のドラマティックな愛はありませんが、「ヤマト」同様に人間的な愛―人類愛が一貫して流れています…

「トリトン」が人類愛アニメ??人類に酷似していても主人公は海棲人であり、陸の人間でもない上、人類愛が描かれているとは言えない。強いて言うなら、海洋生物への愛か。西崎が「愛」の言葉を冠したがるのも、揶揄の原因にもなっていた。'70年代は「愛」が流行語であり、よく使われるメッセージでもあった。
 今回西崎は「環境汚染という地球の危機は現実のもの」「水や草花や動物を、人間と共に育んできた地球の素晴らしさに気付いてほしい」と、またも流行のエコへのメッセージをしている。

 復活編は中年世代となったファンのノスタルジーを当て込んでの制作作品であり、その方面では満たされる出来だった。ただ、西崎の熱意がなければ、「ヤマト」はこれだけのシリーズとならなかったはず。映画のラストの字幕に「第一部」とあるから、続編も企画されているはずだが、興行成績はどうも芳しくないようだ。ヤマトが21世紀、文字通り復活、浮上するのはこの先難しいと思われる。

◆関連記事:「我々は愛し合うべきだった―宇宙戦艦ヤマトの不可解さ

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15 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
新ヤマト (Mars)
2010-01-05 23:05:14
こんばんは、mugiさん

私が劇場版で観たヤマトは、完結編以来二度目で、それもTVシリーズは全く知らない世代ですので(笑)、ヤマトに対する思い入れも、ダンチでしょうね。

今回のヤマトは以前のヤマトに比べ桁違いに固く、昔みたいに壊されては、次のカットではすでに修理されている、という事はありませんでしたね。
そして、内容のご都合主義にも??でしたが、一番理解できなかったのは、SUSの正体です。

例え、SUSが某国をモデルとした覇権国家としても、それはそれで、その当時の社会や作者のイデオロギーを反映しているのも仕方がないと思っております。
(007も冷戦時代の敵役は旧ソ連でしたが、時代の流れで、手を組む事もありました)
しかし、それは、地球人であれ、宇宙人であれ、人と人らしき異星人のエゴを思うと納得できました。
しかし、その敵は、、、。

最後の最後のエンドも、取って付けたような内容で、まぁ、それなりの映画だと思いますが、、、。

最近のガン○ムといい、昔から好きなものの続編が続くのも、ご都合主義と商業主義で仕方がないとはいえ、ついていけなくもなるものかもしれませんが。
(昔を知らない若い世代からいえば、そんなノスタルジーを懐古厨と呼ぶのでしょうね)
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Re:新ヤマト (mugi)
2010-01-06 21:54:52
>こんばんは、Marsさん。コメント&トラバを有難うございました!

 私の場合、何しろ見たのが十代の頃、青春時代に見た作品の思い入れはひとしおです。だからこそ、劇場版2作で泣かされたのに、後で違うバージョンを作って儲ける姿勢が受け入れられませんでした。完結編の頃には、ヤマトを完全に見放していましたね。

 今回の作品でもヤマトは被弾していますが、修理シーンはありませんよね。そんなシーンをいちいち映していたら時間が足りないし、面白くありませんが。
 そして、SUSの正体も不可解だし、別の次元から来た人智外の存在といった印象でした。こうなるとオカルトじみてくるし、ガミラス星人の様な異星人の方が、現実性があります。エンドも流行のエコを持ってきており、監督は旬のテーマにとびつくのが巧い。

 ガン○ムは未だに未見ですが、初期からのファンからすれば続編は不満な点も多いのでしょうね。それでも付き合う人と、飽きて見放す者に別れるはず。私は浮気性で気紛れなので、作品の出来が悪いと感じたら、早々に卒業します。
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Unknown (スポンジ頭)
2010-01-09 20:31:23
こんばんは。

ガン○ムは西崎氏を嫌ってヤマトを離れた富野氏と安彦氏が作製しているので、西崎氏はヤマトファンがガン○ムに流れるのが癪だったようですね。だからガン○ムを誹謗中傷した事があります。そして、今度の映画ではパンフレットに「今の40代のようになるな」とあったそうですが、これも離れて行ったファンへのあてつけ?

しかし、唐突なストーリーはネットでも酷評されてますね。キャラをきちんと描かずいきなり特攻されても何の感慨も湧かないとか。これで第二部、など難しそうです。西崎氏は成功体験が強烈すぎて、自分が天才と誤解しているのかもしれません。
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今の30代、40代 (mugi)
2010-01-09 23:04:31
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 西崎氏はガン○ムを誹謗中傷した事があったとは、知りませんでした。ヤマトを離れた富野氏と安彦氏が当時の裏番組「アルプスの少女ハイジ」に行ったこともwikiで初めて知りました。アニメ業界の裏事情はかなり複雑なようですね。
 パンフレットでの今の子供たちに対するメッセージとして、「今の30代、40代の真似をするな」というものがあり、後者の私には不愉快でしたね(笑)。その層がヤマトを支えてきたのに。

 やはり、あのストーリーでは評価は低いでしょうね。劇場版2作目でも特攻を強調して描くのに、松本氏も反対していたとか。
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観たいような観たくないような… (ハハサウルス)
2010-01-10 17:03:23
 元“ヤマト大好き少女”としては、早くコメントを書きたかったのですが、時間が取れなくて漸くやってまいりました(笑)。
 
 今回の続編のことはネットで知っていましたが、もはや松本作品とはかけ離れたキャラクター設定で、正直「観たいような観たくないような…」という複雑な気持ちでいました。私の中では「完結編」で終了していましたし。mugi
さんの記事を読ませて頂き、観るなら(環境的に映画館に足を運ぶことはできませんが)、「別物」として観る覚悟の方がいいかな、という印象を受けました。
 元ヤマトファンとしましては、あまり西崎氏にいい印象は持っておらず、「ヤマトを食い物にした」というイメージでいました。かと言って、ガンダムを観る気はしなかったので、弟はガンダムファンでしたが、私は未見。(ファンの方には怒られるかもしれませんが)キャラ的にアムロはどうも…。
 
 今度ヤマトは実写版も作られるそうで、古代進がキムタク、森雪が黒田メイサ、しかも佐渡先生は女性で高島礼子(個人的には結構好き)といった配役。設定もいろいろ違い、アニメの単純な実写化ではないようですが、ん~観なくていいかな、と思っています。(これまたファンの方には悪いのですが、キムタクは何を演じてもキムタクという感じが…。まぁ人気があり過ぎるのでしょうね)
 
 元々のアニメを知らない世代には新鮮でしょうが、やはり余程の出来でない限り、違和感を覚えそうなので、昔を懐かしんでいた方が良さそうです。
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失礼いたしました (ハハサウルス)
2010-01-10 17:10:46
上記コメント欄で、「mugiさん」の書き込みが変に行換えになってしまい、失礼致しました。
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Re:観たいような観たくないような… (mugi)
2010-01-10 21:01:57
>ハハサウルスさん、

 興味をそがれるため、私は映画を見る前はなるべく前情報を見ないようにしているのですが、たとえネットで続編のことを知ったとしても、やはり映画館に行ったと思います。大画面でヤマトが動き、波動砲を撃つところだけでも見たかったので(笑)。

 ガンダムの評判は高いのですが、個人的にロボットアニメが苦手なので、未だに見ておりません。主人公のアムロよりシャアの方が人気があるキャラでしたよね。シャアのファンの友人がいて、初めてこの名前を聞いた時、イランのシャー(王)かと思いました(汗)。
 ヤマトのファンからも西崎氏は評判が悪いですよね。麻薬や銃の不法所持で逮捕されたり、著作権で関係者と裁判沙汰になったり。ネットでアニメ業界の裏事情を知り、複雑な思いにさせられました。

 ヤマトは実写版まで作られるのですか!キムタクはともかく、佐渡先生が高島礼子??佐渡先生はお気に入りキャラなので、止めてくれ~~、と言いたくなりますよ。 こんなヤマトは観たくない。
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シャア (motton)
2010-01-14 00:04:22
シャアの元ネタはイランのシャーで正解ですよ。
敵のジオン公国の元ネタはエルサレムのシオンだったり、いろいろあります。

ヤマトにしてもガンダムにしても、いろいろ言い訳をしながらでも、
自分と仲間を守るためには武器をとって敵を殺す(ヤマトなんか結果的に
ガミラスをジェノサイドする)ことを是とするわけで、憲法9条より健全ですよね。
# ヤマトがなければ、戦艦大和も忘れ去られていたかも。
少年ジャンプもそうですし、こうした日本のアニメや漫画を見た世代は、
自分と仲間を守るためには武器をとることを是とするでしょう。
外国人にとっては、日本のサヨク言論との落差は不可解でしょうね。

# 最近のガンダム(原作者は関わってない)は、そういうサヨク言論が入り込み、
# なかなか滑稽なことになっております。
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Re:シャア (mugi)
2010-01-14 21:47:21
>mottonさん、

 シャアの「語源」は、やはりイランのシャーだったのですか!ちょうど、イラン革命勃発時にガンダムが流行り出し、友人からシャアを名を聞いて、それってパーレビのこと?と言った思い出があります(汗)。ジオン公国の元ネタもシオンとは、ガンダムは結構中東から名称を借用していたようですね。

 日本のアニメや漫画は結局武器を取って戦うことを是認しており、私もサヨク言論より、こちらを見た方がためになると思います。日本のサヨク言論人はマジで憲法9条のような実現不可能な戯言を信じているのか、それとも隣国への協力のため信じるフリをしているのか、私には不可解でなりません。
 
 サヨク、右翼ともに、結局はそれが飯の種ですからね。宗教と同じくご利益にあやかるため、あるドグマや対象を信仰するポーズを取るのかも。
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横槍失礼 (医学薬学は)
2010-01-19 23:26:02
何か見当違いをしておられるようですが、シャア・アナルズブの元ネタはフランスのシャンソン歌手、シャルル・アズナヴールのことですよ
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