トーキング・マイノリティ

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キャプテンハーロック 13/日/荒牧伸志 監督

2013-09-29 21:09:14 | 映画

 先日、CGアニメ映画『キャプテンハーロック』を見てきた。予告編を見ただけで松本零士原作の漫画はもちろん、ТVアニメシリーズ『宇宙海賊キャプテンハーロック』とは完全な別作品となることは予測できた。しかし、十代の頃に松本零士の漫画や『銀河鉄道999』 『宇宙戦艦ヤマト』に夢中になった私にはやはり気になる。失望させられる作品となるのを覚悟で映画館に行ったが、予想通り映像以外は残念な出来となっていた。

 この作品ではマゾーンのような侵略型宇宙人の敵が登場せず、争いや戦いは全て地球人同士なのだ。この辺りが原作やТVアニメとは決定的に違っている。原作での地球人は空前の繁栄でひたすら享楽を求める「ふやけた人々」という設定だったが、この作品での地球人は旧作のような豊かな状況にはない。地球にも住めず、荒廃した植民惑星で細々と暮らしており、人類は「後悔の時代を生きていた」のだ。この設定の違いだが、何やら70年代と現代の日本社会の投影にも思えたのは私だけか。

 旧作に親しんだファンが最も違和感を覚えるのは、キャプテンハーロックのキャラクター性の変更ではないだろうか。自由と冒険を何よりも愛し、大宇宙を駆け巡る宇宙海賊どころか、ハーロックの真の目的は、かつて自分が犯した取り返しのつかない罪への償いだった。大戦中に彼は地球環境を壊滅させてしまい、その罪の意識に苦しんでいるのだ。
 さらにハーロックは不死の身体という設定にされており、これではТVアニメOPの歌詞にあるように、「命を捨てて、俺は生きる」ことは出来ない。原作とТVアニメもストーリーや設定はやや違っていたが、どちらも固い信念を持ち、圧倒的に不利な状況でも闘う主人公だったのだ。後ろ向きで内向的なハーロックなど、見たくもない。

 新作ではヤマという、旧作にはない新キャラクターの若者が登場する。原作の台羽正(だいば ただし)がモデルになっているにせよ、ヤマも自分の過失により、実兄イソラとその妻の人生を狂わせたという過去がある。ヤマの起こした事故で兄は下半身不随、兄嫁は植物人間となってしまい、兄夫婦には常に負い目を感じている。兄も弟には妻を巡って複雑な想いもあり、兄弟間の確執もストーリーで多く扱われている。その分ハーロックの影が薄くなってしまい、脇役に喰われたかたちになった。

 松本零士個人の主観なのか、時代もあるのか、原作での女性観は面白かった。台羽正が有紀螢(ゆうき けい)の助手に配属され、「僕が女の助手だって?」と露骨に不満を漏らしている。ハーロックも女の助手に命じられれば、台羽がムクれるのは当前と言っている。女の異星人ミーメも、「女は男に恥をかかせてはいけない。絶対にいけない」と有紀螢を諭すシーンがある。
 十代の私は松本ファンの学友(女)とともに、「ずいぶん男に好都合だね~」と言い合ったこともある。現代ではクラシックな価値観かもしれないが、やたら強気の女に対し男が気弱な今時のアニメも好きではない。

 私は元からの原作が気に入っており、アニメ化されたので期待して見たが、これまた期待を裏切られた。原作にはないキャラが登場、がっかりさせられたものだった。このアニメも「平均視聴率6.9%と当時のゴールデンタイムのアニメとしてはかなり低かった」(wiki)とか。
 この作品の総製作費は3千万ドルだそうだが、興行成績は振るわないらしい。ラストでは英文字の制作スタッフ名が現れ、「Kim」「Lee」がやたら多かった。配給は東映アニメーションだが、韓国のアニメ会社を下請けに使っていたのか?スタッフ名を漢字表記しないのはどこかえげつない。かつて大コケしたCGアニメ映画『ファイナルファンタジー』があったが、この作品も制作費の回収すら危ういようだ。

 CGアニメの映像は素晴らしいと感じたが、セル画アニメを見て育った世代はやはり旧作を懐かしく思うのだ。TVアニメシリーズのOPとEDをアップした動画サイトもあり、懐古房となって見てしまった。



◆関連記事:「銀河鉄道999
 「ザ・コクピット

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
海賊 (トオニ)
2013-10-12 23:01:09
日本人には海賊のイメージが少ないせいでしょうか。
思い出せるものといえば、セビリア周辺での海賊被害や映画のパイレーツオブカリビアンくらいしか記憶にありません。
戦国時代の村上水軍などもありますが、メジャーには遠いような。
西欧州なら大航海時代とか色々とあるんですけどね。

そういえば戦国時代に南蛮から伝わった鉄砲なんですが、あっさりとコピーした上に性能も段違いだったらしいです。
江戸時代には輸出品にもなったと記憶しています。
そのせいで南蛮人に危機感を持たれて、他の技術、大砲や外洋船は伝えなかったようで。
もし伝わっていたら、日本版大航海時代があったかと思うとそれはそれで面白そうですね。
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RE:海賊 (mugi)
2013-10-13 20:59:24
>トオニさん、

 仰る通り、日本では海賊と言われても、あまりイメージが浮かびませんよね。他国の例なら貴方の挙げた程度だし、村上水軍を扱った時代劇などまず見たことがありません。倭寇となれば悪印象が強いですが、実際の日本人海賊は1割程度で、9割はシナ人だったとシナの記録にも載っています。藤原純友も海賊と言えますが、やはりマイナーですね。

 戦国時代に伝わった鉄砲があっという間に日本全国に伝わり、輸出するようにまでなったというのもスゴイですよね。鎖国のおかげでその技術が衰退してしまいましたが、徳川幕府の謀反防止の目的にも適っていました。
 もし南蛮から大砲や外洋船の技術が伝わっていたならば、文禄慶長の役はもっと違った展開になっていたかもしれませんね。さらに鎖国政策自体が変った?
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やはり… (ハハサウルス)
2013-11-17 20:53:00
こんばんは、大変ご無沙汰しております。

mugiさん「ハーロック」を観に行かれたのですね。私は、私の持っているビデオでハーロックが気に入った子供達と「観に行こうか」と約束していたのですが、元々フルCGアニメが生理的に受け付けない(大分慣れてはきたのですが…)為、ネットで予告編を見ただけでもうダメで、これを映画館の大画面で見る勇気はなく、子供達にも「ごめんね」と謝って、観に行きませんでした。

ヤマト、999ファンとしては、当初行く気満々だったのですが、ストーリーにも何だか違和感を覚えていたんですよね。制作費も大分かけて作られているし、迷ったのですが、mugiさんの感想を読ませて頂くと、やはり行かなくても良かったかと思いました。(観に行かれたのにすみません…)

最近の傾向なのか、何かとストーリーを複雑にするよりも、スカッとしたものの方が、例えそれが現実的ではなくても観終えた後の気分は良いように思えるんですけど、いろんなものをくっつけ過ぎて、かえって全体がぼやけてしまうような…。

ハーロックファンなら「ハーロックらしいハーロック」を見たいと思うんですよね。

女性が見下されたり、むやみに男性が威張るようなことは腹立たしいと思いますが、だからと言って、私も強気な女性、気弱な男性というのもどうかと思います。強さは内面にあるもので、居丈高になることにあるものではないと思うからです。

昔のアニメがリニューアルされるなら、より良いものになるのでなければ、幾らお金をつぎ込んで作っても結果は出ないのでしょうね。
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RE:やはり… (mugi)
2013-11-18 21:38:10
>こんばんは、ハハサウルスさん。

 貴女のブログで、貴女もハーロックファンだったことを知りました。この映画に関する記事がなかったので、やはり観に行かなかったのですね。その方が良かったかも。上記にも書いたように失望覚悟で行きましたが、実は映画館のポイントが溜まっていたこともあったのです(笑)。ポイントがなければ、実際に行ったかビミョーでした。

 仰る通り、アニメに限らず最近のドラマは妙に細部に拘りストーリーを複雑化した挙句、返って全体がぼやけてしまう作品が多い様な。リメイク版のヤマトもその傾向がありましたが、ハーロックはさらに酷いものでした。
 リメイク版の出来に不満だったので、行きつけのレンタル店からアニメ版ハーロックをレンタル、全巻見終えました。懐かしいだけでなく、やはりこちらの方が良かったですね。原作にないキャラが出てくる処だけは不満でしたけど。

 松本零士の女性観はいささか古風でしたが、彼の女性キャラは一見しとやかに見えて、芯の強いタイプが大半ではないでしょうか?だからこそ女性ファンも多かった。強気な女性、気弱な男性キャラという最近のワンパターンな組み合わせには飽き飽きです。

 ストーリーや設定が悪ければ、いくら昔の人気作品をリメイクしても駄作になります。知名度に安易に頼るのは失敗の元でしょう。
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