トーキング・マイノリティ

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『エロイカより愛をこめて』の創りかた その一

2013-05-16 21:10:14 | 漫画

 先日、「エロイカより愛をこめて』の創りかた」(青池保子著、マガジンハウス文庫)を読んだ。題名通り1976年の連載開始から現代まで続いている実に息の長い少女漫画の著者によるエッセイ。十代の学生時代から『エロイカ~』はじめ青池漫画のファンだった私には興味津々の内容だった。

 特に面白かったのが第13章「雑誌、本、映画……すべてがアイデアのヒント」。漫画のアイデアはどのように考え付くのか?に対する作者の回答がよい。一言で語るのは難しいと前置きしつつ、簡単に言えば「日頃からアンテナを張り巡らして、映画やТV、新聞、読書などから作品のアイデアをつかむように努力しましょう」とのこと。
 作者にとって既にそれは食事をしたりトイレに行くのと同様、生活に溶け込んだごく普通の行為となっているそうだ。漫画に限らず創作に携わっている人は、何時も無意識に脳内のどこかを働かせているのではないだろうか。アイデアを探し想像を巡らす装置が、折に触れ自動的に作動するようだ…とも言っている。

 そして映画を観たり小説を読む時には、いつの間にか制作者側の視点に立っているとか。オタク的な深読みではなく、職業意識が働き作品の先読みをしてしまうそうだ。期待させる設定なのに不満の残る作品には、どこをどうすれば面白くなるのかなどと、頭の中で勝手に別の話を組み立てたりすると言う青池さん。
 映画や読書好きという点だけは私も同じだが、第一線で活躍しているプロの漫画家と趣味レベルで留まる弱小歴女ブロガーとは段違いなのだ。オタク的でも深読みもできない凡才ゆえ当たり前だが…

 著者はТVならNHKのドキュメンタリー、ケーブルテレビのディスカバリーチャンネルなどをよく見ているという。興味深いテーマが多く、情報の宝庫と言える番組だからとか。同じ番組を見ても、これまた無名ブロガーとは視点と質が完全に違っているのだろう。
 漫画のアイデアは小説より奇なる事実から触発されることが多いそうで、この題材を自分なら面白く描ける、だから書くと言いきっている。「傲慢に聞こえるかもしれないが」と断りを入れた後、漫画家は誰しもその心意気で題材を選んでいるはずだとも述べている。決して自信満々な訳ではないらしい。自負心を持ち真直ぐに作品に向い努力していけば、その作家ならではの面白い漫画が描けると作者は思っているそうな。

 漫画の題材に関する資料を出来るだけ多く集め、間違いのない知識を得たい。そこから新たなアイデアも湧く。想像力を駆使、自分流の漫画を創作するのはそこから。手抜きのない基礎工事の上にこそ、堅牢な創作世界が構築できると断言する所など、プロフェショナルの心意気を見た想いがする。こうなれば、たかが少女漫画とは言えない。高校1年16歳から漫画家人生を始め、未だに第一線で活躍する人物はかくも気構えが違うのか。

 今やプロと呼ばれるジャーナリストや評論家にもあまり資料を集めず、基礎工事を手抜きする者も珍しくないご時世。そのような者が訳知り面でマスコミで解説しているのは実に不愉快な現象だ。しかし、青池さんが語っていることは創作を職業とする人間には至って基本の姿勢であり、著者のプロ根性には改めて感嘆させられた。
 そんな漫画家が健在であるのも関わらず、出口のない不況が続く出版業界。「殊に少女漫画誌の凋落は凄まじく、娯楽の多様化で少女たちが漫画離れをして、すでに久しい」(91頁)そうだ。かく言う私も中年になったこともあるのか、少女漫画はもちろん青池作品も暫く前から見ていなかった。この文庫本も偶然アマゾンで知ったため、購読したのだ。
その二に続く

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