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トーキング・マイノリティ

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コブラ/フレデリック・フォーサイス著 その四

2015-09-24 21:10:11 | 読書/小説

その一その二その三の続き
 ラストで大どんでん返しがあるのがフォーサイス作品の特徴だが、今回の最後も衝撃的だった。コブラはプロの殺し屋の手によって射殺される。「デクスター自身は、デヴローに何の怨(うら)みもなかった。ドンをコケにすればああいう目に遭うのだ、と思っただけだった」という最後の文章から、コブラの死にデクスターも無縁ではなかった…とも取れる結末になっていた。
 元からコブラは切れ者だが、やり過ぎてCIAを追われた過去があり、《エルマンダード/兄弟団》のドンに語った言葉には、深い失望が見られる。
「もう、若い頃にわたしが忠誠を誓った国とは違ってしまった。万事が金次第の腐敗した国で、弱いくせに傲慢で、肥満と愚劣の道をひた走る。それはもうわたしの国じゃない。絆は断たれた…」

 文庫版下巻の訳者あとがきには、翻訳者・黒原敏行氏による感想が載っており、『戦争の犬たち』と『コブラ』にはある共通点があるように思う、と述べている。つまり、国家や国際社会が問題をうまく解決できない時、優れた能力を持つ個人や少人数のグループがイニシアティブをとって、ドラスティックな方法で解決してしまってもいいのではない。そんな機会があるなら自分もやってみたい。そんな気持ちが底にあって、これらの小説を書いたのではないか…ということだ。
 もちろん、そんなドラスティックな方法が本当に有益なのかどうかは分らない。また“失敗国家”等は少人数でどうにもしてみせるという発想は、ある意味で帝国主義の心性を引きずった傲慢なものかもしれない。

 しかし、フォーサイスの心の底には、国家が主体の帝国主義とは別の、何か“アラビアのロレンス・コンプレックス”とでもいうべきものがあるのではないか。そして、そういう気持ちが誰にでも多少はあるから、私たちも『戦争の犬たち』や『コブラ』に興奮を覚えるのではないか。
 尤も、フォーサイスは人間観においてもシニカルなまでにリアリストなので、本作の登場人物を“アラビアのロレンス”的なロマンティストに造形している訳でもなければ、ある人間が強いリーダーシップを発揮して大胆な“船中八策”を実現していくことを、手放しで肯定している訳でもないことは明らかなのだが…と黒原氏は言っている。

 フォーサイスの昔の作品『悪魔の選択』『ネゴシエイター』には、“アラビアのロレンス”への言及があり、おそらくフォーサイス贔屓の英雄だろうと私は思う。
 フォーサイスは労働党政権に対する歯に衣着せぬ批判でも知られ、「右翼作家」「筋金入りのタカ派」と呼ばれることもあるそうだ。ならば、累進税を嫌いタックス・ヘイブンで暮らしそうなものだが、ロンドン近くに住んでいるという。2010年の誕生日前、フォーサイスはインタビューでこう語っていた。
私は税率50%で別に構わないよ。外国で暮らしたいとは思わないね。今、71歳だが、ひょいとロンドンに出てきて友人たちと食事できる生活がいい。フロリダキーズじゃそれは出来ないだろ

読書メーター コブラ 下の感想・レビュー」というサイトには、様々な読者による感想が載っていて面白かった。コメンターの性別全ては判断できないが、読者にはやはり男性が大半だった。そんな中、「琴華」いう女性のレビューもあり、「キャル(デクスター)はフォーサイス作品の中ではベスト3に入る位好きなキャラです(因みにNo.1はキャット・シャノンです!) 」は微笑ましかった。
 因みに私のNo.1は『悪魔の選択』のアダム・マンロー。ロシア娘との秘めたる恋がイイ…という、いかにも女特有のセンチメンタルで。№2は『第四の核』のジョン・プレストン。野心ばかりが先走る陰険な上司から嫌がらせを受けつつ、それでも粘り強く仕事をする中年男は好感が持てた。No.3が『戦争の犬たち』のキャット・シャノン。

 2015-09-10付のBLACKASIAの記事「キルギス。「見えない国」とアメリカとアンダーグラウンド」は興味深い。ここで管理人・鈴木傾城氏は、「偶然」だと思うが、アメリカ軍のいるところには、なぜか麻薬が存在しているのだ」と書いている。「キルギスにも誰にも注目されないケシ畑があって、アメリカの傀儡だった政権があって、アメリカ空軍基地があったのも、これまた「偶然」だ」、とも鈴木氏は言っているが、妙に「偶然」が重なる。決定的証拠がなければタダの陰謀論だろうが、麻薬はアンダーグラウンドの世界に付きものなのだ。

◆関連記事:「戦争の犬たち

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