トーキング・マイノリティ

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ベルばら再読雑感 その四

2015-07-28 21:10:06 | 漫画

その一その二その三の続き
 貴族の結婚には国王の許可がいることがベルばらで描かれていたが、これはフランスだけでなく他の欧州諸国でも見られたはず。愛人にするのは一向に構わぬが、貴族の男と平民女性との正式な結婚さえダメなのだから、まして貴族令嬢と平民の従卒では絶対認められない。いくら大のお気に入りのオスカルの頼みでも、アントワネットもオスカルとアンドレの結婚は決して認めなかっただろう。貴賤結婚でも最悪のケースなのだ。アンドレの妻となるには、オスカルは貴族の称号や与えられた領地全てを捨てなければならなかった。
 だから、王太子ルイ=ジョゼフに慕われたオスカルの、「私は王妃になりそこなったぞ」という台詞もおかしい。公爵家令嬢さえ王妃になれぬのだから、まして格下の伯爵令嬢では。但し公妾の資格なら十分にある。おそらく池田理代子氏は知っていたはずだが、「私は公妾になりそこなったぞ」では少女漫画にならない。

 身分違いの愛に苦悩するアンドレはベルばらで繰り返し描かれており、作品の見どころでもある。しかし身分こそ平民でも、アンドレは既に平民感覚を無くしているのが分かるエピソードがある。パリの留守部隊までオスカルのお供をするアンドレだが、貴族の乗る美麗な馬車で行こうとするのだ。直前、パリが物騒になっていることを熟知するアランが、共を代るように申し出るも、余計のお世話とアンドレは一蹴する。これも彼の独占欲の表れであり、オスカルが他の男と狭い馬車にいることが耐えられなかったのだ。ましてオスカルを愛する他の男など。
 その結果はアランの危惧した通りの平民の暴徒による襲撃。暴徒たちは美麗な馬車に乗る貴族と思い込み、馬車を襲い、乗っているオスカルとアンドレを攻撃する。

 襲撃を受けて剣を取り、「アンドレ、中にいろ!」と言い放ったオスカルは勇敢な女戦士そのものだが、彼女の対応はやはり貴族のそれなのだ。愛する人を守りたいのは痛いほどわかるが、理性を無くした暴徒にいくら「彼は貴族じゃない!」と叫んだところで、聞く耳は持たない。貴族の共をしていれば、平民でもその手先と見られるのは当たり前。
 この危機を救ったのが、皮肉にもスウェーデン貴族のフェルゼン。殴打され路上に倒れていたオスカルを介抱するが、その時のつぶやきがこう。「どうかしてるぞ、オスカル。あんな馬車でパリに乗り込むなどとは」

 フランスに生まれ育ったフランス人のオスカルやアンドレよりも、フェルゼンの方が遥かにパリの治安の悪さを分っていたのだ。貴族のオスカルが知らなかったのは無理もないが、アンドレも同じだったのだ。8歳の時から貴族の家で暮らし、特別に宮廷にも出入りを許されていたアンドレは、平民でもかなり特殊だが、社会情勢オンチとしか言いようがない。
 フェルゼンの陽動作戦で暴徒たちはその場を離れ、アンドレを救出できたオスカルは心中で、「あ…あ!すまなかった。私の不注意だ。許してくれ、しっかりしてくれ、アンドレ!」と詫びているが、不注意なのはアンドレ側でしょ、と言いたくなる。

 前にもポリニャック伯爵夫人の刺客に乗っていた馬車を襲われたことがあるオスカルだが、この時も救ったのがフェルゼンだった。アンドレもその場にいたが、護衛役としては頼りない。最後まで剣と銃の腕前ではオスカルに及ばず、「アンドレ、中にいろ!」の台詞も、あまり彼の防衛能力を買っていなかった?と勘ぐりたくなる。意地の悪い見方をすれば、この人、オスカルへの愛と、それに伴う独占欲しか持ってなかったのか。

 身分違いの恋と、許されない恋がベルばらのテーマなのだ。前者がオスカル&アンドレ、後者はアントワネット&フェルゼンの恋人たち。身分や社会的地位の違いがあって障害多き恋というのは恋愛モノの定番だし、苦難の末に2人はようやく結ばれる物語はいつの時代も愛される。
 ただ、「ベルサイユのばらでエロパロ」にあった一言「男は高嶺の花に弱い」は、ハッとさせられた。高嶺の花に執着していたのはアンドレもフェルゼンも同じだし、愛する女が同じ身分だったらどうだったろう。お頭の軽い巨乳の美女は、それだけでも男にモテモテだが、美女がハプスブルグ家皇女ならば別格の高嶺の花。フェルゼンにとって貴族令嬢のオスカルは嶺の花に過ぎず、美貌や教養を讃えても結局は友人どまりだったろう。
その五に続く

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2 コメント

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rikaさんへ (mugi)
2015-07-29 22:05:10
>>アンドレがオスカルの前に跪くところにも暗さを感じます。このシーンは私あんまり好きじゃないです。いくら平民でもアンドレにここまでさせなくていいのに。

 私も全く同感です。ここまで来ると、暗さよりも卑屈にさえ感じられます。フェルゼンがアントワネットに跪くのは騎士としてのマナーであり、アンドレとは違いますよね。

 オスカルのアンドレに対する想いには、「負い目」があると解釈した人も居ました。自分のために片目を失明、それを毎日のように見ているのだから。もちろん「負い目」ばかりではないし、彼はそのことで一切責めたことはありませんが、返って辛いと思います。
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Unknown (rika)
2015-07-29 12:01:50
>意地の悪い見方をすれば、この人、オスカルへの愛と、それに伴う独占欲しか持ってなかったのか。

私からすればそういう設定にした作者がひどいと思います(笑)。先日の記事でmugiさんは「アンドレには好感よりも暗さを感じてしまう」と書かれていましたが、二人が結ばれる前、アンドレがオスカルの前に跪くところにも暗さを感じます。このシーンは私あんまり好きじゃないです。いくら平民でもアンドレにここまでさせなくていいのに。
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