・「No love lost」(つづき)
So long sitting here, 随分長い間ここに座っていたけど
Didn't hear the warning. 警報は聞こえなかった
Waiting for the tape to run. テープが回るのを待って
We've been moving around in different situations, 僕たちは異なる場所で動き回っていた
Knowing that the time would come. その時がくるのを知っていた
Just to see you torn apart, 君が引き裂かれるのをまさに見るために
Witness to your empty heart. 君の空虚な心を見届けるために
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
Through the wire screen, the eyes of those standing outside looked in
at her as into the cage of some rare creature in a zoo.
金網越しに、外にいる人々の目が
動物園で珍しい生き物を見るように彼女を見ていた
In the hand of one of the assistants she saw the same instrument
which they had that morning inserted deep into her body. She shuddered
instinctively.
助手の手に、その朝彼女の体の奥に挿入されたものと同じ器具があるのを彼女は見た。
本能的に彼女は身震いした
No life at all in the house of dolls. 人形の家にもはや生命はない
No love lost. No love lost. 憎しみしかない、憎しみしかない
You've been seeing things, 君はいろいろなことを見てきた
In darkness, not in learning, 闇の中で、何も学ぶことなく
Hoping that the truth will pass. この事実が消え去ることを望みながら
No life underground, wasting never changing, 地下に隠れることはできない、消耗するだけで決して変わらない
Wishing that this day won't last. こんな日が続かないことを願いながら
To never see you show your age, 君が年老いていく姿を見ることはない
To watch until the beauty fades, 君の美しさが褪せるまでを見る
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
「No love lost」は、「Warsaw」「Leaders Of Men」と比べると、より抽象的でわかりにくい印象を受けます。その中で、イメージが掴みやすいいくつかのフレーズを頼りに読んでみたいと思います。
第1連で印象深いのは、「Just to see you torn apart」です。この詩の主体となる人物は、「だれかが引き裂かれる」のを見届ける人物だとわかります。彼は、残虐行為の傍観者で、例えば収容所の看守でしょうか。そうすると、「We've been moving around in different situations, 」は、彼が収容所内を巡回している様子ではないか、と思われます。
第2連で描かれているのは、ぞっとするような残虐行為と、それを好奇の目で見つめる人々の光景です。「No life at all in the house of dolls.」のフレーズは、これらが『ダニエラの日記』に描かれている、収容所でのナチの虐待行為の暗喩であることを示唆しています。そして、「人形の家には憎しみしかない」ことが実感されます。
これらをふまえて第3連を読んでみましょう。
「You've been seeing things」とあります。以下、これらの出来事の犠牲となってきた女性(第2連の「she」で明示されています)の心情が描かれます。「In darkness, not in learning, /Hoping that the truth will pass./No life underground, wasting never changing, /Wishing that this day won't last.」これらは、地獄のような恐ろしい日々がただひたすら過ぎるのを待つだけの、精神的な圧迫の日々を表現したものだと思われます。「To never see you show your age」は、年老いるまで彼女は生きてはいない、ということでしょう。そして、続く「To watch until the beauty fades,」は、「僕」の行為についてのことで、「僕」は彼女の美しさが褪せてしまう瞬間までずっと見ている、ということだと思います。
第1連と第3連は、「僕」すなわち「傍観者」の心情を描き、そこに挿入された第2連は、作者の視点で状況を客観的に説明しているものだと思います。繰り返される「I need it.」ですが、「僕」に必要とされているのは、「see」「Witness」「watch」、というように、彼女のことを「見る」ことのようです。
この詩が描いた「彼女」の圧迫は、それを見続ける「僕」の圧迫でもあり、また、読む者にもストレスを与えます。特に第2連が持っているどぎついイメージは不快感を与えます。『ダニエラの日記』にまつわる背景を知ると、より強い嫌悪感がこみあげてきます。バーナードの言う「圧迫について歌った歌」が、この「No love lost」ではないかと思ったのは、この詩が犠牲者をテーマにしているという点と、何より読んでいて自分が最も不快だったという点にあります。見たくないものを見せられた感じがしたのです。しかし、そこに、目をそむけるのではなく「見る」ことが必要なのだというメッセージが秘められているのではないか、とも思います。イアンが『ダニエラの日記』を深層心理に沈潜させ、その上で表現した詩は、道徳観念ではなく感覚に訴えてきます。この詩は『An Ideal For Living』の4つの歌詞のうちで、最も暴力的かつ憂鬱な詩なのではないでしょうか。人間の持っている醜さを挑発的に示しているように思うのです。
So long sitting here, 随分長い間ここに座っていたけど
Didn't hear the warning. 警報は聞こえなかった
Waiting for the tape to run. テープが回るのを待って
We've been moving around in different situations, 僕たちは異なる場所で動き回っていた
Knowing that the time would come. その時がくるのを知っていた
Just to see you torn apart, 君が引き裂かれるのをまさに見るために
Witness to your empty heart. 君の空虚な心を見届けるために
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
Through the wire screen, the eyes of those standing outside looked in
at her as into the cage of some rare creature in a zoo.
金網越しに、外にいる人々の目が
動物園で珍しい生き物を見るように彼女を見ていた
In the hand of one of the assistants she saw the same instrument
which they had that morning inserted deep into her body. She shuddered
instinctively.
助手の手に、その朝彼女の体の奥に挿入されたものと同じ器具があるのを彼女は見た。
本能的に彼女は身震いした
No life at all in the house of dolls. 人形の家にもはや生命はない
No love lost. No love lost. 憎しみしかない、憎しみしかない
You've been seeing things, 君はいろいろなことを見てきた
In darkness, not in learning, 闇の中で、何も学ぶことなく
Hoping that the truth will pass. この事実が消え去ることを望みながら
No life underground, wasting never changing, 地下に隠れることはできない、消耗するだけで決して変わらない
Wishing that this day won't last. こんな日が続かないことを願いながら
To never see you show your age, 君が年老いていく姿を見ることはない
To watch until the beauty fades, 君の美しさが褪せるまでを見る
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
I need it. 僕はそれが必要
「No love lost」は、「Warsaw」「Leaders Of Men」と比べると、より抽象的でわかりにくい印象を受けます。その中で、イメージが掴みやすいいくつかのフレーズを頼りに読んでみたいと思います。
第1連で印象深いのは、「Just to see you torn apart」です。この詩の主体となる人物は、「だれかが引き裂かれる」のを見届ける人物だとわかります。彼は、残虐行為の傍観者で、例えば収容所の看守でしょうか。そうすると、「We've been moving around in different situations, 」は、彼が収容所内を巡回している様子ではないか、と思われます。
第2連で描かれているのは、ぞっとするような残虐行為と、それを好奇の目で見つめる人々の光景です。「No life at all in the house of dolls.」のフレーズは、これらが『ダニエラの日記』に描かれている、収容所でのナチの虐待行為の暗喩であることを示唆しています。そして、「人形の家には憎しみしかない」ことが実感されます。
これらをふまえて第3連を読んでみましょう。
「You've been seeing things」とあります。以下、これらの出来事の犠牲となってきた女性(第2連の「she」で明示されています)の心情が描かれます。「In darkness, not in learning, /Hoping that the truth will pass./No life underground, wasting never changing, /Wishing that this day won't last.」これらは、地獄のような恐ろしい日々がただひたすら過ぎるのを待つだけの、精神的な圧迫の日々を表現したものだと思われます。「To never see you show your age」は、年老いるまで彼女は生きてはいない、ということでしょう。そして、続く「To watch until the beauty fades,」は、「僕」の行為についてのことで、「僕」は彼女の美しさが褪せてしまう瞬間までずっと見ている、ということだと思います。
第1連と第3連は、「僕」すなわち「傍観者」の心情を描き、そこに挿入された第2連は、作者の視点で状況を客観的に説明しているものだと思います。繰り返される「I need it.」ですが、「僕」に必要とされているのは、「see」「Witness」「watch」、というように、彼女のことを「見る」ことのようです。
この詩が描いた「彼女」の圧迫は、それを見続ける「僕」の圧迫でもあり、また、読む者にもストレスを与えます。特に第2連が持っているどぎついイメージは不快感を与えます。『ダニエラの日記』にまつわる背景を知ると、より強い嫌悪感がこみあげてきます。バーナードの言う「圧迫について歌った歌」が、この「No love lost」ではないかと思ったのは、この詩が犠牲者をテーマにしているという点と、何より読んでいて自分が最も不快だったという点にあります。見たくないものを見せられた感じがしたのです。しかし、そこに、目をそむけるのではなく「見る」ことが必要なのだというメッセージが秘められているのではないか、とも思います。イアンが『ダニエラの日記』を深層心理に沈潜させ、その上で表現した詩は、道徳観念ではなく感覚に訴えてきます。この詩は『An Ideal For Living』の4つの歌詞のうちで、最も暴力的かつ憂鬱な詩なのではないでしょうか。人間の持っている醜さを挑発的に示しているように思うのです。