もともとは、「現代日本の思想」を読んだ後、「日本にリベラル思想が根付かなかったのはなぜか」という疑問のもとに、家にあったこの本を手に取った。その疑問の答えはないが、保守思想というものを理解するにはとても分かりやすい本だった。保守思想に基づくと、橋下徹は到底保守主義とは言えないし、原発政策は段階的な脱原発を訴えざるを得ない、などと現代トピックも題材となっている。
私の理解の範囲でまとめてみる。自民党が強い今の日本では、さまざまな事柄が「保守的」と捉えられているが、その多くは「保守」ではなく「右派的」「右翼的」なのであって保守的ではない。保守思想は、「現代の人々が享受する自由・社会の背景には、それを培ってきた先代たちの努力や試行錯誤があり、歴史や伝統を大事に、重要に考える」というもの。また、人々を単なる、均一的な「個人」と捉えることに抵抗し、それぞれの人の歴史、その人の家族の歴史など個々の背景を切り離さずに、その環境を含めて人だととらえる。だから、平等な社会を実現するために社会を「設計」しよう、個々人を平等化しよう、という左派とは相容れない。例えば、左派は、宗教団体などの持つ中間団体としての役割を否定し、直接国家とつながることを奨励する。保守では、宗教や伝統、地域というコミュニティ(=中間団体)が培ってきたものを大事にする。異なる他者同士の存在を認め、対話の中で答えを探っていくという、リベラルの思想も、保守と重なる。
地域、宗教、伝統、家族、といった異なるコミュニティは、異なる他者を代表するものとなる。それらひとつひとつは、「個々人の存在の根拠となる場所」「自分が役割を持っていると実感できる場所」(=トポス)であり、それらを認めたうえでどのように対話していくかが、保守政治の要である。・・・
本を読んで、自分が自民党を嫌う理由のひとつは、「対話能力のなさ」だと思った。多様な個人を、認めているのか認めていないのかわからない(夫婦別姓は確実に認めていない)が、安倍首相を見ていて、多様性を受け入れようと積極的であるとは思えない。そこは、政策的なところではなく、個人のコミュニケーション能力というか、相性と言ってもいいかもしれない。保守を名乗りながら、「生産性革命」などと「革命」を叫ぶ。そういう支離滅裂なところも、距離を置きたい理由である。一方で、Newsweekで冷泉彰彦が書いていたように、自民党が左派的に政策を展開しているのは事実だと思う。それは自民党の伝統的なやり方でもある。幼保無償化は、さながら73年の老人医療費無償化ではないか。
そのほか、「トポス」という概念について、自分の役割や居場所のあるコミュニティ、という解釈を得ることができて有用だった。