この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#231 アヴェ・プレヴォー著「マノン・レスコー」

2006年01月14日 | フランス文学
デユマ・フィスの「椿姫」の書き出しは、そのころのこの種の小説の常套手段のように、教養のある作者が何かをきっかけにして自分が知った人物の過去の物語を聞き、それを書き綴るという手法をとっている。「椿姫」の場合は自分の近くのところであった、若くして死んだ女の所持品の競売で、ふと興味を持って彼女の所持していた一冊の本を落札したということからはじまっている。その本はアヴェ・プレヴォー著の「マノン・レスコー」であり、その第一ページにきれいな筆跡で「マノンをマルグリットに贈る。つつましやかなれ。」と書いてあり、それにはアルマン・ヂュヴァールと書いてあった、というのである。

「椿姫」は1848年にデユマ・フィスが20代の若さで書いた処女作とのことである。「マノン・レスコー」の著者のアヴェ・プレヴォーは1763年に亡くなっているようなので、デユマ・フィスが若いころには、小説としての評価は別として「マノン・レスコー」すでに世に知られた古典的な小説になっていたのだろう。

「椿姫」の中で、マノンがアメリカの砂漠の中で彼女を愛する男の腕の中で死に、その男の手によって砂漠に掘った穴の中に男の涙とともに埋められるのに、この女(椿姫のマルグリット)は寝床の中で死んだが、マノンが葬られた砂漠よりもさらに荒涼たる、さらに広々とした、さらに無情な心の砂漠のまん中で死んだのである、との感想がもらされている。

これらの小説が書かれた100年、200年も後にこの二つの小説を見比べながら、マノンと彼女を愛する男、マルグリットと彼女を愛する男を見比べながら両方の物語を読めるのも面白いことである。 (つづく)

画像:アヴェ・プレヴォー著「マノン・レスコー」青柳瑞穂訳 新潮文庫



最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。