現行制度では、厚生年金、共済年金に加入する会社員や公務員に扶養される20歳以上60歳サラリーマン世帯の専業主婦は、自分で保険料を納めなくても老後に基礎年金を受け取ることができます。これに対して(私の母などもその一人なのですが)「夫が私の分まで割増の保険料を払ってきたから…」と思っている人もいるようですが、これはハッキリ言うと大きな誤解です。
現行制度では、厚生年金、共済年金に加入する会社員や公務員に扶養される20歳以上60歳未満で年収130万円未満の配偶者は「第3号被保険者」と位置づけられ、老齢基礎年金の受給対象となっています。
民間のサラリーマンなどが加入する厚生年金の保険料率は(第3号対象となる)配偶者がいるかどうかとは関係なく一律に17.12%(←これを労使で折半して負担する)と定められているので、共働きや独身のサラリーマンが実質的に(専業主婦である)第3号被保険者の保険料を割り勘で支払っている状態と言っても過言ではありません。現在、この第3号被保険者は全国におよそ960万人いるとされており、そのうち男性は約1%、つまりほとんどがいわゆる「専業主婦」であると考えられています。
さて、従来から主に共稼ぎとして働く(年金保険料を支払っている)女性との間の不公平感などにより批判が多かったこの第3号被保険者制度ですが、「女性が外で働かない方が得になる」という男女共同参画の時代に逆行する制度だとして、女性の活躍促進、いわゆる「ウーマノミクス」を成長戦略の柱の一つと位置付ける安倍内閣のもと、政府内で見直しに向けた議論が具体的に進められています。
パート勤めの妻は、年収が130万円以上になると年金ばかりでなく健康保険の保険料の納付義務が生じるため、その負担はさらに大きなものとなります。こうしたことから、確かにパート勤務による収入が130万円を超えないように勤務時間を調整しているケースも少なからずあるようです。
さらにこの他にも、パートタイマーなどで働く妻の年収が103万円を超えると夫が所得税の配偶者控除を受けられなくなり妻の収入にも所得税がかかることになるいわゆる「103万円の壁」というものもあります。この103万円を境に、従業員に「扶養手当」を支給しないとする給与制度としている事業者なども多く、これらが主婦の働き方を抑える要因となっているとの指摘もあります。
いずれにしても、この103万円と130万円の「壁」が主婦の働き方に大きな影響を与えていることについては、各関係者の認識が概ね一致していると考えられています。そんな中、6月3日の読売新聞では、この「第3号被保険者制度」に関し「論点スペシャル」と題してして特集を組み、この問題に関する制度の現状と有識者の意見を紹介しています。
6月3日の紙面では、労働経済学を専門分野とするお茶の水大学教授の永瀬伸子氏が、第3号被保険者制度は女性の働き方を縛る制度であるという立場から次のような論説を寄せています。
寄稿の中で永瀬氏は、女性が活躍できないのはその環境が整っていなかったからだと主張しています。第3号被保険者制度は妻が低賃金でしか働かないことを前提とした制度であり、国がそうした働き方を奨励するかのような制度を設けていることは大きな問題だという指摘です。
低賃金で働かざるを得ない母子家庭世帯などでも年収が130万円を超えれば保険料を課されている。氏によれば、公平性の観点から言っても、専業主婦を優遇する第3号被保険者制度が妥当と言えるのかは疑問だということです。
こうした見解を踏まえ、永瀬氏は、この130万円問題を解決するためにはパートタイマーなどの短時間労働者にも収入に応じて厚生年金保険料を収めてもらう必要があるとしています。しかしその一方、氏が強調するのは、第3号被保険者制度のみを単体で見直すだけでは主婦に対する保護を手薄にするというメッセージとなり、かえって少子化を促進することにつながりかねないという懸念です。
女性が子供を持った後も職業上の技能を向上させ相応の賃金を得られるようにするためには、年金制度や健康保険制度の改正に合わせて正社員と非正規雇用の間の大きな賃金格差を解消するなど労働市場と雇用環境を変えていかなければならない。さらには、保育所や学童保育などの拡充も急務であると永瀬氏は言います。
第3号被保険者制度の見直しは早急に具体化すべきだ。ただし、こうした見直しは女性の雇用制度や育児機関への配慮などとセットで行う必要があるとする永瀬氏の指摘を、読売新聞の紙面で興味深く読んだところです。
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