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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1654 Red Queen's Hypothesis(赤の女王の仮説)

2020年06月22日 | 社会・経済


 進化生物学者リー・ヴァン・ヴァーレンが1973年に提唱した生物の進化に関する考え方に、「赤の女王仮説」(Red Queen's Hypothesis)というものがあるそうです。

 これは、ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する「赤の女王」の、「同じ場所にとどまるためには、絶えず全力で走っていなければならない」という言葉にちなむ造語で、(簡単に言えば)生物の種は絶えず進化していなければ絶滅してしまう宿命を背負っているというもの。

 現状を維持するためには、生物は環境の変化に対応して常に進化しなければならない。例えば、被食者が生き延びるには捕食者よりも素早く逃げる能力を獲得する必要があり、捕食者が餌を取り続けるためにはより速く走れるように進化しなければならないということだと説明されています。

 さらに近年では、無性生殖よりもコストがかかるにもかかわらず有性生殖が行われる理由を、この「赤の女王仮説」によって説明する学説も増えてきているということです。

 有性生殖は、絶えず新しい組み合わせの遺伝子型を作ることによって進化速度の速い細菌や寄生者に対抗している。寄生者と宿主の間での恒常的な軍拡競争が繰り返されることで、(常に遺伝子が混ぜ合わせられ)短期間での遺伝的多様性が進むというものです。

 5月29日の日経新聞の経済コラム「大機小機」はこの「赤の女王仮説」を踏まえ、「コロナと生きる持続的社会」と題する一文を掲載しています。

 世界中で猛威を振るい、秋以降にはより強烈な第2波、第3波の到来が懸念されている新型コロナウイルス肺炎について、筆者は、ワクチン開発や医療体制の整備が急務だが、それだけでは済まされないと指摘しています。

 地球上には、未知の病原体が無数に存在し、しかも彼らは頻繁に変異する。医薬品と病原体との競争はまさに「赤の女王仮説」に示されたとおり、全力で駆け続けないと世界が維持できない状況にあるということです。

 大病疫は、人類の長い歴史とともにあるというのがこのコラムにおける筆者の認識です。

 その遠因は、都市の成立など濃密な社会生活の到来とこれに伴う自然破壊にあるとされ、人が集まって暮らすことが、ペスト、コレラ、ポリオ、強力なインフルエンザなどを覚醒させ拡散させてしまった。薬や医療は対症療法に過ぎず、それ自体がどんなに進歩しても病原体は赤の女王のように追いついてくるということです。

 地球は生まれてから48億年たつが、人類は、20世紀からのわずか100年強の間にその個体数を3倍以上に増やした。しかも、破壊力抜群の機械や技術を持っているので、地球が数十万年単位で築いた自然を短時日に壊し続けてきたと筆者はこのコラムに記しています。

 ジャングルや草原、海中や水辺でお互いに命を支えあっていた生物連鎖は一瞬で崩れてしまった。バランス良く棲み分けていた動植物や微生物は(未知の病原体も含め)行き場を失い外に押し出されたと筆者は言います。

 そうして人類は、今まさに「パンドラの箱」を開けてしまった。最近まで、地球環境問題が深刻に取り上げられてきたが、そのデリバティブ(派生)が新型コロナにほかならないというのが、現状に対する筆者の見解です。

 企業も人も、地球と共生していくことが持続的な繁栄の前提であることは論を待たない。そのためには、膨大な手間と資金が必要だが、(それは変化のためにどうしても必要なコストであり)それなしでは私たちの未来は暗いと筆者はこのコラムで主張しています。

 私たちが目指す「アフターコロナ」の新しい生活様式は、SDGsを実質化した姿に他ならないということです。

 欲望の赴くままに変化のペースをスピードアップしきた人間社会は、(気が付けば)環境サイドの変化のスピードをも上げてきてしまった。

 今回のコロナ禍を最後の警告と捉え、私たち人類は(こちらの方がついていけなくなる前に)「赤の女王」の機嫌を損ねないような付き合い方に変えていく必要があるということでしょう。



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