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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2788 ゼロサムと非ゼロサム

2025年04月02日 | 国際・政治

 ゲーム理論と呼ばれる経済理論の類型のひとつに「ゼロサム(zero-sum)ゲーム」というものがあるそうです。

 「ゼロサム」とは、複数の人が相互に影響しあう状況の中で、全員の利得の総和が常にゼロになる状況下でのゲームとのこと。囲碁、将棋、オセロなどの二人対戦型のゲームは、限られた駒やスペースを互いに奪ったり奪われたりしながら勝負を決めるもののため、典型的なゼロサムゲームと言えるでしょう。また、競馬やパチンコ、宝くじなども、敗者から集めた資金を勝者で分け合うものなので、ゼロサムゲームの一つとして挙げられます。

 要は、ゲームの参加者を敵と味方に分け、お互いに手持ちの資源を取り合って勝者と敗者を決めるのが「ゼロサム」の本旨ということ。おもちゃやおやつを奪い合う子供のケンカから国家間の武力による資源争奪戦まで、世の中の(特に)男の子たちは、勝ち負けのはっきりした(こうした)ゲームに夢中になりやすい傾向があるようです。

 一方、ゼロサムゲームでは一方が勝者となれば他方が敗者となるのに対し、「非ゼロサムゲーム」と呼ばれる、全員が勝者となる場合や全員が敗者となる場合も想定できるゲーム理論もあるということです。

 身近なところでは、例えば「株式投資」などは、基本的に非ゼロサムゲームであると考えられているとのこと。株価の上昇局面では価値が創出され下降局面では価値が減少するが、株価が総体として上がるようにコントロールできれば、「時価総額」…つまり市場価値の総量を増やすことが期待できる。上昇トレンドでは、時価総額が増えた分だけみんなが得をするわけですが、下降トレンドでは時価総額が減った分だけみんなが損をする。そうしたことを織り込みながら投資を行うことが経済の拡大につながっていくということになります。

 さて、何が言いたいかと言えば、資本主義経済の下では(やり方によって)皆が得をしたり皆が損をしたりする方法があるということ。お互いに信頼し、協力し合って価値の総額を上げる努力をすればお互いに豊かになれる。一方、関税による貿易戦争やダンピング合戦によって(いたずらに)競争を激化させれば、双方の経済に負担がかかり、結局誰も幸せにならないという状況も生まれ得るということです。

 さてさて、「自由主義」対「権威主義」といった政治体制の対立などによって国際社会が不安定化する中、世界の賢明な指導者たちは自国の経済の発展のためにどの道を選ぶのか。3月14日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に、『「ゼロサム」トランプの危うさ』と題する一文が掲載されていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 米テキサス州ダラスで凶弾に倒れた、46歳の若きジョン・F・ケネディ米大統領。彼の就任翌年の年頭教書での提案が、多国間関税一括引き下げ交渉の場となった「ケネディ・ラウンド」に結実。その後の「東京ラウンド」「ウルグアイ・ラウンド」と続いて、多くの参加国が、関税や非関税障壁を引き下げる成果を上げたとコラムはその冒頭に記しています。

 そこに通底するのは、参加国が、自国産業保護の防壁を低くする「痛み」を分かち合うことで、国境を越えた交易を盛んにし、お互いが痛みを上回る利益を得るという「ウィンウィン」の発想だと筆者は言います。一方、真逆なのが「タリフ(関税)」を「美しい言葉」などと呼ぶトランプ米大統領で、隣国のカナダ、メキシコに高率の関税をかけるなど、関税政策を振り回しているということです。

 不動産業界でもまれた経験からか、持って生まれた性格なのか、トランプ氏には「だれかの得は、だれかの損」、「だれかの勝ちは、だれかの負け」という「ゼロサム」の価値観が、深く根付いているようだと筆者は話しています。

 その一方で、多数での衆議よりも相対の「ディール(取引)」を好み、相手が弱いとみれば「ブラフ(脅し)」をかけ、ねじ伏せようとするトランプ氏。ウクライナ紛争でも、侵略者のプーチン・ロシア大統領との「ディール」を優先しようと、ホワイトハウスを訪れたゼレンスキー・ウクライナ大統領と、報道陣を前に前代未聞の口論になったということです。

 しかし、こうしたトランプ流には反作用も伴うというのが、筆者の指摘するところ。米国株式市場は、関税引き上げによる物価高、景気後退リスクを懸念して早速値を下げたということです。

 現在、唯一の超大国アメリカの経済力や軍事力を背景に権力を振り回すトランプ大統領の価値基準に、全世界が振り回されている。欧州連合(EU)は、すかさず特別首脳会議を開き、最大8000億ユーロ(約130兆円)の軍備計画を承認して、ウクライナへの「揺るぎない支援」を表明した。トランプ氏は、日本の防衛費負担の少なさにも、ご不満のようだと、筆者はこの論考に綴っています。

 関係国の利害を分断してディールを持ち掛け、お前は(米国の)敵か味方かと判断を迫るトランプ氏。トランプ流の各個撃破に対抗するには、欧州などの「ウィンウィン」の価値観を共有する国々と、スクラムを組んで対峙するしかないというのが筆者の認識です。

 詰まるところ、聞く耳を持たないわからずやのドナルドくんを、(皆がまとまって)懐柔し説得していくには(それなりの)根気と労力が必要だということでしょう。「ゼロサム」トランプに振り回される日々が、あと4年近くも続くのかとため息まじりにコラムを結ぶ筆者の指摘を、私も残念な気持ちで読んだところです。



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