MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#2082 財政健全化への道

2022年02月07日 | 社会・経済


 1月14日に開催された経済財政諮問会議において、内閣府が国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)が黒字化する時期を(前回21年7月の試算から1年前倒し)2026年度とする財政見通しを示したと同日付の日本経済新聞が報じています。

 ここで言うPBとは、公共事業費や社会保障費といった政策経費を借金に頼らず、税収などの財源でどの程度まかなえるかを示す指標のこと。新型コロナウイルスの感染拡大に対応して大型の補正予算を組んだ影響で財政支出が大きく膨らむ中、黒字予測が前倒しにされたという報道を意外に感じた人も多かったかもしれません。

 記事によれば、日本のPBは本年度(2021年度)が42.7兆円の赤字、来年度(2022年度)が35兆円の赤字になるものの、その後は新型コロナの感染の落ち着きとともに縮小し、経済対策の効果もあって法人税収などが増えると見ているということです。新たな試算では、名目で3%、実質2%の高い経済成長率が続くという前提に立ち、2026年度に0.2兆円の黒字になると見込んでいるとしています。

 これまで低迷してきた日本経済が実質2%の成長を続けるというのも、見通しとしては少し甘すぎやしないかとは思いますが、いずれにしても、世界的にも例をみないほど多額の債務を抱えた財政の健全化が、現在の日本政府にとって大きな課題であることは間違いありません。

 しかしその一方で、コロナ禍で傷ついた経済や国民生活を救えと、交付金や補助金、貸付金の積み増しを求める各種業界や与野党政治家も声もまだまだ聞こえてきます。そうした中、1月13日のYahoo newsに社会データの検証・分析を中心に活躍するライターの不破雷蔵氏が「財政健全化は実際にどれほど望まれているのか」と題する興味深いレポートを寄せているので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 政治や経済の論議の中でよく話題に上がるのが「財政健全化」。国そのものの収支勘定において、入るお金(税収)と出ていくお金(公的事業への支出)が均衡していることこそが健全な状態だというのはもっともな話です。しかし、コロナ禍で将来への不安も募る中、実態として、どのくらいの国民が、この「財政健全化」を望んでいるのか。氏は、内閣府が2022年1月に発表した「国民生活に関する世論調査」をもとに、その優先順位を探っています。

 まず(結論から言えば)、「政府に対する要望」の質問項目(複数回答可)において、最も高かったのは「医療・年金などの社会保障の整備」で67.4%の人が挙げています。次いで「新型コロナウイルス感染症への対応」が65.8%、「景気対策」55.5%と続き、以下、高齢社会対策、少子化対策などが上位に連なっているということです。

 一方、問題の「財政健全化の推進」は22.2%で、概ね5人に1人が問題視している状況です。順位としては「治安」と同じ値で15番目で、新聞などのメディアが(声高に)指摘するほどには注目されていないのだな…という印象です。ちなみに、この「財政健全化」を求める人を属性別にみると、居住地都市規模別では「人口密集地」ほど高い値が出る傾向があり、特に東京都区部では32.6%と、3人に1人がこの問題を問題視しているということです。

 また、男女別では男性の方が財政問題を意識しており、年齢階層別ではおおよそ年齢が上になるほど高い値が出ている。(例えば)18~29歳ではわずか13.8%だが、70歳以上では26.1%に達していると氏は説明しています。これは裏を返せば、地方に暮らす人ほど、若い人ほど、(そして女性であればなおさら)財政状況の悪化に寛容な傾向があるということ。公共事業や補助金行政などに都会の人々が厳しく地方の人たちが寛大なのは何となくわかりますが、「シルバー民主主義」が懸念される高齢社会でも、年齢が高い人ほど厳しい目で財政状況をみているというは少し意外な感じもするところです。

 さて、「財政健全化」に関しては、「国の経済的信用を維持するのに欠かせない」「健全化を果たすことは次世代への責務だ」といった意見がある一方で、近年では「「国の借金」という考え方そのものが間違い」「そもそも自国通貨を発行できる政府は財政赤字を拡大しても債務不履行にはならない」といったMMT理論(現代貨幣理論)を主張する経済学者なども増えているようです。

 そうした影響というわけでもないのでしょうが、少なくとも、国民(有権者)にとって「財政健全化」の優先順位は決して高いとは言えないのが(どうやら)実態で、先般の衆議院議員選挙において与野党の多くが給付制度の新設を競い、「バラマキ選挙」の様相を見せたのも郁子なるかなといったところでしょう。

 もとより、選挙のことを考えれば、政治は有権者に(常に)バラマキをしたがるもの。また、「お金はあって困るものではない」「もらえるものはもらっておこう」と思うのが人情であることを考えれば、コロナは(単に)そこに口実を与えたに過ぎないということなのかもしれません。

 「積極財政」と言えば聞こえが良いですが、そこに政権担当者の責任が伴うのは自明です。(冒頭に記したとおり)政府は「あと5年」でプライマリーバランスを黒字にすると言っているようですが、その道のりはまだまだ遠いと感じるているのは私だけではないでしょう。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿