MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2083 生活の不安と国民負担

2022年02月08日 | 社会・経済


 先日(1月19日)、NHK総合テレビの朝の情報番組「おはよう日本」を(見るともなく)見ていたところ、経済アナリストの森永卓郎氏が、他の先進国に比べ日本の賃金が上がらない理由は「国が消費税率を引き上げたことにある」と話しているのが目に留まりました。

 今からおよそ20年前、氏が「年収300万円時代を生き抜く経済学」という本を出した際には、「年収300万円などというのはあり得ない話だ」と笑われた。しかし、現実はさらに過酷で、年収170万円が平均というぐらいまで、日本人の収入は(その後)一気に落ち込んだということです。

 森永氏はこの番組で、視聴者からの「バブル崩壊以来賃金が上がらないのはなぜか」との質問に対し、「(その理由は)消費税率を引き上げたからだ」と断言しています。日本では、消費税率の引き上げが消費減をもたらし企業の売り上げ低迷に繋がった。(それを切っ掛けに)企業の業績は落ち込み、賃金が減少するという悪循環に陥っているというのが氏の見解です。

 さらに、将来受け取れる年金についても、「もらうことはできると思うが、支給額は大幅に減るだろう」と森永氏はこの番組で予言しています。現在、標準世帯(夫と専業主婦の妻の二人世帯)でもらえている月額21万円の厚生年金が、30年後には月13万円と、4割ほども減少するというのが氏の予想するところです。

 このため、(2000万円ということで話題になった)老後資金も「年金が下がるなら5000万円近い資金が必要になるだろう」と氏は指摘しています。そんな中で生きていくには、生活費を半減させるか、それができなければ亡くなるまで働き続けるしか方法はないということです。

 さて、そうはいっても、世代間格差が叫ばれる中(多くの金融資産を有していると言われる)高齢世代が一斉に(生活費を半減させるような)倹約生活を始めたら、日本経済が今よりももっとしぼんでいくことは目に見えています。何かと悪者にされがちな消費税も、そのほとんどが(社会の高齢化により)拡大する一方の社会保障費の貴重な安定財源として活用されていることを考えれば、(一定水準への)引き上げはやむを得ないと感じている人も多いのではないでしょうか。

 世界に先駆けて高齢化が進むこの日本において、社会保障のための負担と給付のバランスはどうあるべきなのか。データ検証に詳しいジャーナブロガーの不破雷蔵氏が、1月19日のYahoo newsに「国民負担率の国際比較の実情をさぐる」と題する論考を寄せているので(参考までに)ここで紹介しておきたいと思います。

 消費税や社会保険料の料率など、日本における国や社会全体のための個人や組織の金銭負担は他国と比べてどのような水準にあるのか。不破氏はこの論考で、OECD(経済協力開発機構)のデータベースOECD.Statの公開値に基づき状況を整理しています。

 租税負担と社会保障負担を合わせた国民負担を、(単純な金額ではなく)それぞれの国の対GDP比率で算出すると、もっとも高負担なのはデンマークの46.5%。次いでフランスの45.4%、さらにベルギーの43.1%と欧州の国々が続く。OECD平均では33.5%で、先進国を均すとおおよそGDPの1/3が国全体を支えるために徴収されている氏は言います。一方、日本はというと、国民負担率は31.4%。国内では「高い、高い」と言われる税金や社会保険料ですが、OECD加盟国の中では日本の国民負担率は低い部類に入るということです。

 さて、氏は続けて(もう少し細かく)租税負担と社会保障負担を分けて分析しています。まずは租税負担について。氏によれば、税金がとびぬけて高いのは社会保障負担が実質的に租税負担と合算されているデンマークの46.5%。同様の社会システムを採用しているニュージーランドやオーストラリアも高めだが、デンマークほどではなくOECD平均では24.3%だということです。日本はといえば18.5%で、OECD加盟国では下から7番目。消費税などの間接税を加えても、日本では租税負担は低い国であることが分かると氏は説明しています。

 他方、社会保障負担ではどうなのか。OECDの平均は9.3%。最大値を示すのはスロベニアの16.8%、次いでチェコの15.8%、オーストリアの15.6%と続くとされています。一方、日本は12.9%でOECD平均よりも高く、引き上げが容易な「社会保険料」などの税外負担に重きを置いた構成になっていることが伺えます。

 いずれにしても、他国との比較の限りでは、日本は国民負担はどちらかといえば低い(軽い)レベルでとどまっており、さらに租税負担は相当低い状態にあるのが現状だというのが(森本氏とは少し異なる)不破氏の認識です。政府のそろばん勘定にあたっては、歳入が少ない以上、歳出も相応のものにする必要がある。足りない分を国債の発行などで補っているとはいえ、日本は実質的に「小さい政府」状態にあり、逆に、歳入が少ない中で給付の規模ばかりが膨らんだために、国債発行額が増えている状況にあると氏は現状を分析しています。

 さて、「税金が高い」「社会保険料が高い」という話はよく聞きますが、国に何らかの施策上の改善を求めるのであれば、それに見合った財源をどこかに見つけ出し、歳入の増加を図る必要があるのは自明です。それではやはり私たちは、(森永氏の言うように)爪に火を点すような倹約生活を送るか、高い負担に目をつぶるしかないのでしょうか。

(もちろん)それも一つの生き残り策かもしれませんが、実はほかにもう一つ良い方法があるようです。それは、経済のパイ自体を増やすこと。必要な分配は、税率や社会保険料の保険料率を引き上げることばかりでなく、GDPそのものを増やす努力によっても達成できるとこの論考を結ぶ不破氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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