MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2379 習近平主席の権力とその源泉(その1)

2023年03月12日 | 国際・政治

 中国共産党や軍のトップにも立ち、中国国内の権力を一手に握っている習近平国家主席。様々な(表に出てこない)政治勢力が蠢く中国で、なぜ彼は「絶対権力者」と言われるまでの権力を手にすることができたのか?

 元NHK解説委員で(中国共産党の内部事情に詳しい)武蔵野大学特任教授の加藤青延氏が、NHKの情報サイト「就活応援ニュースゼミ(「1からわかる!習近平国家主席と中国」(2022.6.14)において、その理由を大きく3つあげています。

 ひとつ目は「ライバル勢力の排除と側近態勢の確立」にあると氏は言います。前の国家主席である江沢民氏は、「利権を党内にも配分することで権力を握った人物」と言われている。実際、彼の統治時代、中国経済の大発展の中で、中国共産党内には(いわゆる)「金権政治」の土壌が大きく広がったというのが氏の認識です。

 こうしたタイミングで国家主席となった習近平は、「虎も蠅もたたく」という言い方をして、蠅(=末端の役人)から、虎(=大物幹部)まで、前例のない規模の汚職摘発を断行していった。これによって中国共産党から江沢民派は遍く粛清され、気が付けば党の主要なポストはほとんど習近平派が占めるようになったということです。

 一方、主要ポストに抜擢された習近平派の人たちは、習主席が自分の半生をかけて仲間に取り込んできた人たちだと氏はしています。例えば、軍の制服組のトップである張又侠氏は少年時代からの親友、副首相の劉鶴氏は中学時代の友人、党の人事を握る陳希中央組織部長は習氏の大学時代のルームメートだということです。

 習主席が絶対的な権力者でいられる理由の2つ目は、「軍の完全掌握」にあると加藤氏は指摘しています。

 「中国軍」つまり「人民解放軍」は、つまるところ政府の軍隊ではなくて(党が自由に動かせる)「中国共産党」の軍隊として位置づけられている。中華人民共和国を建国した毛沢東は「政権は銃口から生まれる」という言葉を残したが、ここでいう「銃口」が中国共産党の軍=人民解放軍だということです。

 その後も、文化大革命や天安門事件など、国が大きく混乱に陥るような事態が起こるたびに、その混乱を収拾してきた人民解放軍。中国では、一旦国民に背かれた場合に軍を掌握できていないと何もできないので、「軍を動かせる」ことが非常に重要だと氏は説明しています。

 そして、習主席が絶対的な権力者でいられる3つ目の理由が、中国の抱く「台湾統一」に向けて陣頭指揮をとるのに、(習氏が)最も経験と力がある人物だからだと加藤氏はこの論考に綴っています。

 実際、習氏は中央政治に携わる以前から、20年以上にわたって台湾海峡や東シナ海に面した地域で政治に携わってきている。福建省・アモイ市の副市長として経済特区に台湾経済界の有力者を引き入れて投資を呼び込み、福建省の省都福州市のトップを務めた際には、台湾関係を管轄する役所の役割を重視し、水面下で台湾側の漁業者たちを中国側に取り込む責任者の立場にいたということです。

 習近平主席は、中台問題の最前線の地域で「台湾統一」という中国側の悲願達成に向け、ライフワークとして活動を続けてきたと氏は言います。中国共産党の最高指導部の中に、彼ほど「台湾統一」に身を投じてきた人は見当たらない。おそらく習氏自身も、「自分以外に『台湾統一』を果たせる人はいない」と思っているはずだというのが氏の感覚です。

 加藤氏によれば、最近、中国で「2035年に台湾へ行こう」という歌謡曲が流行しているということです。その歌詞の中には、「高速鉄道に乗って台湾へ行こう」という台詞がある。実際、(歌詞にあるとおり)去年(2021年)中国で出された交通網の整備計画では、2035年までに台湾まで鉄道や道路がつながっていることになっていると加藤氏はしています。

 中国交通運輸省のホームページを見ると、確かに計画では鉄道と道路が台湾までつながっている。もちろん、台湾側が認めないと鉄道はつながらないので、この歌は「2035年頃までには台湾が統一されるのではないか」という世論の期待を煽っているのではないかというのが氏の見解です。

 因みに、この2035年がどういう年かというとは、習主席が82歳になる年とのこと。加藤氏によれば82歳というのは、毛沢東が亡くなった年齢であり、習主席は毛沢東同様、終身の指導者として(彼と)肩を並べる存在だと印象付けているように見えるということです。

 さて、習近平主席は2023年の「新年のあいさつ」で台湾民衆に向け、「海峡両岸は親しい家族。両岸の同胞たちが向き合い、歩み寄り、手を携えて前進し、ともに中華民族の末永い幸福を作り上げることを、心から望んでいます」と話したと伝えられています。

 昨年10月の党大会で国内で足元の権力地盤を固めた習氏の、(外交・安全保障面での)次の目標が「台湾問題」であることはほぼ間違いありません。人口減少などによる社会の不安定化や経済の停滞が様々な影響を与える中、情勢を見極めながら硬軟使い分ける習氏の動きから、今年も目が離せそうにありません。



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