MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2380 習近平主席の権力とその源泉(その2)

2023年03月14日 | 国際・政治

 国際政治学者のイアン・ブレマー氏が社長を務めるユーラシア・グループが発表した「2023年の10大リスク」の1位は、『ならず者国家ロシア』というもの。グローバルプレーヤーから世界で最も危険な「ならず者国家」へと変貌したロシアが、ヨーロッパ、米国、そして世界全体にとって深刻な安全保障上の脅威となるということです。

 そして、ブレマー氏が第2位に挙げたのが『「絶対的権力者」習近平』というものです。毛沢東以来の比類なき存在となった中国の習近平国家主席は、コロナ対策、経済政策、外交で失敗しても誰の意見にも耳を傾けない存在となった。中国の政策的な不確実性が増大していることで、(日本政府が志向する)中国との「建設的かつ安定的」な関係とは逆のことが起こる可能性があるということです。

 昨年10月の中国共産党大会において、強大な政治権力と盤石な政治基盤とを獲得した習近平国家主席。14億人の国民を抱える大国中国において、「イエスマンに囲まれた宮廷政治」「終身皇帝習近平」と揶揄されるその力は一体どこから来ているのか。

 1月27日の日本経済新聞に、日本総合研究所上席理事の呉軍華氏が「限界を迎えた中国の統治制度」と題する論考を寄せているので、参考までにここに概要を残しておきたいと思います。

 中国共産党は建国直後の1950年代初期、政治と経済を含むあらゆる分野の支配権を中央に集中させる全体主義のシステムをソ連(当時)から移植した。しかし50年代半ば以降、中国はこれに「郡県制」という伝統的な統治手法を加え、(米スタンフォード大学の許成鋼客員研究員が言うところの)「地方分権的全体主義」に改めたと、氏はこの論考に綴っています。

 このシステムの要諦は、イデオロギーや個人崇拝で最高指導者の絶対的権威を確立する一方で、行政と経済政策の立案・運営の権限のほとんどを、最高指導者が人事権を持つ地方の指導者に与えるというもの。その結果、最高指導者の権力を牽制する力を最も持ちうる中央官庁は無力化し、中国共産党はソ連よりも強固な一極集中の統治体制をつくり上げるに至ったと氏は言います。

 この制度で、地方の指導者は最高指導者の意向をくみ取った大胆な実験を競い、地方間で激しい競争が繰り広げられた。しかし、広大な国土と世界最大の人口を持つ国情のためか、地方と最高指導者の間での正しくタイムリーな情報伝達は難しく、結果的に「鶴の一声」は往々にして極端な結末を招くことになったというのが氏の認識です。

 毛沢東党主席(当時)の提唱で1958年に始まった「大躍進」政策では、この制度が初めてフルに働いた。鉄鋼生産量や食糧生産量を巡り、地方間で現実離れした競争が繰り広げられた結果、各地で大規模な飢饉(ききん)が発生、中国初の人口減少をもたらしたと氏はしています。

 また、中国を大混乱に陥れた文化大革命(66~76年)もこの制度に支えられたもの。最近まで続いた「ゼロコロナ」政策がもたらした混乱も、この制度を通して考えれば納得がいくということです。

 勿論、このシステムが生み出すのは、決してネガティブな結果だけではないというのがこの論考で氏の指摘するところです。

 例えば、「改革開放」以降の中国経済が他の社会主義国を凌駕する成長パフォーマンスを実現したのは、このシステムによるところが大きいと言わざるを得ない。経済成長を巡る地方間の激しい競争が、民間セクターの成長を可能にし、政治改革を伴わなくても中国は高い成長を実現したというのが氏の見解です。

 一方、改めて強調するまでもなく、こうした競争は広い中国に環境破壊や所得格差の拡大、不動産バブルといった多くの問題ももたらしたと氏は言います。現在の状況を見る限り、明らかにこのシステムのポジティブな効用は、すでに限界を迎えているということです。

 ゼロコロナ政策からの転換を機に、中国経済への期待が高まっている。しかし、足元の中国経済の減速の背景に、「地方分権的全体主義」に起因する構造的問題が大きく横たわっていることを忘れてはならないと氏はこの論考の最後に記しています。

 このような構造問題を抜本的に解決して初めて、中国経済に明るい未来が訪れる。さらなる成長のためには、権力の集中がもたらす弊害と真摯に向き合う必要があると話す氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。



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