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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2782 高齢者の高齢化にどう向き合うか

2025年03月26日 | 社会・経済

 昭和の高度成長期を知る最後の世代も、そろそろ高齢者の仲間入り。気が付けばその下の校内暴力やギャル文化などを生んだ第2次ベビーブーマ世代も、着々と初老への道を歩みつつあるようです。

 今年は「昭和100年」という事で様々なイベントが計画されているようですが、昭和の世代が「明治100年」を祝ったのは昭和43年のこと。時の天皇陛下をお招きし武道館で行われた記念行事で佐藤栄作内閣総理大臣が式辞を述べる姿を、私も茶の間の白黒テレビで見ていた記憶があります。

 当時の「お年寄り」と言えば、「明治生まれの人」という認識が一般的でした。昭和43年時点の「明治生まれ」で最も若い人は57歳。「明治は遠くなりにけり」という言葉がよく聞かれたのもこの時代のこと。60歳を過ぎれば立派な老人であった当時の感覚からすれば、先の大戦前に大人だった明治生まれは、既に「過去の人」という感覚だったのかもしれません。

 さて、そうした(おじいちゃん・おばあちゃんが希少な存在だった)56年前と比べ、現在はどこを向いてもお年寄りばかり。70代はまだまだひよっこで、「あら、お若いわねぇ」などと言われる始末。90代にならなければ、一人前の高齢者面ができない状況ともなっています。

 因みに、60歳の平均余命は男性で22.84年、女性で28.37年とのこと。多くの人が90歳まで生きるこの時代、ますます増える超高齢者に社会はどのような環境を用意していけばよいのか。2月18日の経済情報サイト「現代ビジネス」に作家でジャーナリストの河合雅司氏が、『「高齢化した高齢者」が急増するという「不可避で厳しい未来」』と題する一文を寄せているので、指摘の一部を残しておきたいと思います。

 この日本では、2018年に1104万人だった80歳以上の人口が、2040年には1576万人となる。それは国民の7人に1人が該当するということで、しかも、(社人研の推計(2019年)では)独居高齢者が激増し、2040年には75歳以上のひとり暮らしだけ取り上げても512万2000人に及ぶと、河合氏はこの論考に記しています。

 80代ともなれば身体能力や判断力が衰える一方で、買い物や通院のために外出せざるを得ない場面も増えてくる。そのサポートを家族がせざるを得なければ、働き手世代は仕事に専念することが難しくなり、日本経済が鈍化するだけでなく、社会全体が機能しなくなるというのが氏の懸念するところ。さらに独居高齢者が増えるとなれば、その負担は公的サービスのコスト増にも繋がるということです。

 そこで高齢者には、(家族や制度に頼らず)なるべく自立した生活を送ってもらうことが求められる。高齢者の自立を促すためには、街の中でも最も「賑わい」が残っている立地条件のよい場所に、高齢者向けの住宅や施設を構えることが必要だろうと氏は言います。

 これが難しいのであれば、発想を逆転させ、既存の病院や福祉施設を核として、その周辺に高齢者用の住宅を整備し「賑わい」を作ることも考えられる。大切なのは、高齢者が自ら歩くことですべての用事を完結できるようにすることで、高齢者が市街地に集まり住むようになれば、介護スタッフも確保しやすくなり、少ない人数で多くの人にサービスを提供することも可能になるということです。

 さて、そう考えていくと、地方にもたくさんある既存の施設の中に「ぴったりな物件」があると氏は話しています。それは、郊外型の「大型ショッピングモール」とのこと。生鮮食品から衣類、雑貨、医療機関やスポーツ施設まで整っており、そこに足りないのは「住民」だけ。現在は大型駐車場を完備しているが、高齢社会ではマイカーを運転するのが難しくなる人が増えるし、商圏エリアの人口も激減していく。とすれば、大型ショッピングモールそのものを住宅と一体化してしまうことが、顧客の確保にもつながるはずだということです。

 居住スペースはショッピングモールの上層階か、隣接地に作り、地域住民が集まり暮らせるようにするのはどうだろうか。建物はすでに完全バリアフリーになっているわけだし、雨の日も住民は傘を差さずに街に出ることができる。ショッピングモール側にしても、住民は顧客としてだけでなくパート社員ともなってくれるので人材も確保しやすいと氏はしています。

 周辺に隣接する他業種の店舗なども巻き込みながら、「街づくり」の視点を取り込んでいくこと。全国資本の大型ショッピングモールや大型商店街だけでなく、国道沿線の商業施設集積地など、立地や環境に恵まれている物件をベースに、官民連携で再開発を進めてはどうかという提案です。

 さて、そう言えば今から20数年ほど前、仕事でイギリスのダービー市を訪問した際、市役所の人が「是非見ていってくれ」というので見学した街は、まさにそうした発想を取り入れた再開発を行っていました。

 ドーナツ化した旧市街の中心部から車の乗り入れを排除し、完全バリアフリー化して様々な商店や診療所、その他のサービス施設を誘致。周辺はお年寄り向けの住宅や施設などにして、皆が毎日散歩がてら歩いて通ってくる「お年寄りの王国」のような場所となっていたのが印象的でした。

 「ゆりかごから墓場まで」といった手厚い社会福祉政策の下で、経済不振に悩み「英国病」とまで言われたイギリスですが、(当時の日本より)一足早い高齢化に対応し、いろいろな取り組みを試み実現させていたということなのでしょう。

 いずれにしても、高齢者の高齢化が待ったなしのこの日本で一体何ができるのか。高齢者のお財布に眠る資産と大企業の資本力をうまく活用して、各自治体には是非「経済が回る」モデルを示してもらいものだと改めて感じるところです。



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