MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2090 「昭和の働き方」の終焉

2022年02月16日 | 社会・経済


 既に2年以上に及ぶ新型コロナの世界的な感性拡大局面は、いわゆる「働き方」ばかりでなく、日本人の生活と仕事の関係性や意識を大きく揺さぶっている観があります。

 気が付けば、昭和30年代以降の高度成長期に培われた性差に関する固定観念や定年制などに代表される年齢意識、終身雇用や正規・非正規といった独自の雇用慣行などが、経済ばかりでなく社会全体の足を引っ張るようになっています。コロナであらわになった格差の拡大、社会基盤の脆弱さ、そして経済の低迷などを顧みれば、昭和・平成・令和のおよそ1世紀にわたって日本人を縛り付けてきたこうした状況から、いよいよ足を洗わねばならない時期に来ているのかもしれません。

 人々や社会を幸せにするポスト・コロナの人材活用はどのようにあるべきか。1月7日の日本経済新聞のコラムAnalysisにおける経済産業研究所上席研究員の北尾早霧(きたお・さぎり)氏の寄稿(コロナ危機を超えて④「分断回避へ「制度の壁」なくせ」)を、引き続き追っていきたいと思います。

 高度成長期の典型的な家族形態はもはや標準的ではなく、旧来の家族構成と家庭内分業を前提とした昭和の制度は既に様々な弊害をもたらしていると、北尾氏はこの論考に綴っています。出生数の激減で生産年齢人口が急減。社会保障支出増と税・社会保険料の収入減は確実に訪れる。財政問題、格差拡大、生産性低迷など、手遅れになりかねない課題が多いということです。

 正社員を支える終身雇用は崩れつつあるが、賃金カーブのピークに差し掛かる50歳前後の団塊ジュニアを(このままで)支えきれるのか。団塊世代がすべて後期高齢者となる2025年以降、痛みとともに様々な慣行や制度の綻びが露呈しだすだろう。そうなる前に私たちは何ができるのか。

 日本の格差は米国のような起業家への富の集中が原因ではなく、高齢化要因を除けば制度の壁がつくる分断の影響が大きいというのがこの論考における氏の認識です。つまり、状況の改善には、多様な個人の生き方やライフステージに対応できる労働市場の流動性と、個人の経済状況に配慮した税・社会保障制度が必要となる。それですべて解決とはいかないまでも、まずはそこから始める必要があるということでしょう。

 第1に労働市場の流動性を阻害し、就業意欲や所得増を妨げる制度の壁を取り除くこと。第3号被保険者制度など急な見直しが困難でも、段階的縮小の道筋を示すことが重要だと氏はしています。正規・非正規間の壁をなす社会保険適用の差別をなくし、企業規模や賃金の多寡を問わず、全ての労働報酬から定率で社会保険料を徴収し、(それをもって)生涯を通じた、保険料支払いに応じた年金支給額を保証するということです。

 第2に(労働市場の)流動性の上昇に伴い、失業や所得減に直面する人を保護するセーフティーネット(安全網)を整備し、特に若年層には重点的に職業訓練を施すなど、使いやすい就業支援の仕組みを確立していく必要があると氏はしています。セーフティーネットが未整備のままでは、マクロ経済の危機対応能力や成長に不可欠な構造変化も阻害される。コロナ後の回復局面における必要な新陳代謝を阻害しないためには、支援の必要な人を保護しつつ、成長産業での雇用増に重点を移せるようにしなければならないということです。

 さらに、正社員を解雇できず、非正規社員を調整弁にする慣行の見直しも不可避だと氏は話しています。企業の解雇規制を緩和し、正規・非正規を問わず賃金と勤続年数に応じた補償金の支払いを義務付ける一方で、政府が全力で就業を支援する体制を築くことが求められるというのが氏の見解です。

 第3に、あらゆるライフステージの人に開かれた採用市場を実現するため、年齢・性別・婚姻状況などの属性に関する質問、これを根拠にした採用を禁じてはどうかと氏は提案しています。

 求められれば、採用や昇進の根拠の説明を義務付けるくらいの踏み込みが必要ではないか。出生率低下は多くの国が直面する複雑な課題でシンプルな処方箋はない。ただし結婚・出産による賃金頭打ちと生涯所得の激減は、労働市場の流動性改善により是正できるというのが氏の指摘するところです。

 かつてはうまく機能していた政策や慣行が、環境変化により成長と分配の足かせに転じることもある。世代間・世代内の断絶を招かないよう、国民への丁寧な説明をしながら、ひとつひとつ成長を阻む壁を取り除くことが急務だと、氏はこの論考の最後に綴っています。

 マクロ経済の中長期的な展望がなければ子供の幸せを願う人に出産をためらわせ、出生にも影響を与えることになる。将来世代に資する政策に向き合うことは、目下の社会経済問題の解決にも寄与することになると考えるこの論考における早霧氏の視点を、私も興味深く受け止めたところです。


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