MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2306 ビックマックくらいは気楽に食べられる国でありたい

2022年12月02日 | 社会・経済

 外国為替市場において、今年の年頭から続く未曽有の円安。10月21日には円が1ドル=151円90銭台まで売り込まれ、対米ドルレートとしては1990年以来、32年ぶりの低水準となったのは記憶に新しいところです。

 1ドル=150円というこの為替レートが(併せて)示しているのが、必要な輸入品に対する円の購買力を示す「実質実効為替レート指数」が(57.95と)、1970年9月の57.641970年とほぼ同水準まで下がったという現実です。

 日本が資源やエネルギー、食料などを自給ができる国であれば円安を(さほど)気にする必要はないのでしょう。しかし、(そうでない日本にとって)通貨価値が下落し続けることには計り知れないリスクが見え隠れしています。

 世界の市場で価値を失い、売られ続ける日本経済。日本はこのまま、評価の低い貧しい国になってしまうのか。円安基調が続く為替相場に関連し、一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏が10月2日の「東洋経済ONLINE」に、『iPhoneは高嶺の花、気がつけばプア・ジャパン』と題する論考を寄せているので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 イギリスの経済誌『エコノミスト』が、毎年発表している「ビッグマック指数」。これは、「ビッグマック価格がアメリカと等しくなる為替レート」に比べて、現実の為替レートがどれだけ安くなっているかを示すものだと氏は言います。

 これをもとに、日本人にとって「ある国のビッグマック価格を日本円に直すといくらになるのか」を見てみたい。2022年7月時点で日本のビッグマックは410円なのに対し、最も高いスイスは949円で倍以上、アメリカでも738.1円で、日本の1.9倍となっている。ユーロ圏では647.1円、イギリスでも512.7円と日本より大分高く、中国ですら483円と、日本より2割弱高いということです。

 しかし、この状況は実は今に始まったことではない。これまでも静かに進行していた現象だとこの論考で氏は指摘しています。

 我々日本人の置かれた状況は、下降するエレベーターに乗っているようなもの。自分のいる高さは(本当は)下がっていても、エレベーターに同乗している人たちとの相対的な位置関係は変わらないので、下がっているのがわからないということです。

 さて、こうした環境で自分の位置を正しく知るにはどうしたらよいか。我々はまず、エレベーターの「窓を開ける」必要があると氏は話しています。

 ビッグマック指数で日本の購買力が低くなったことは、多くの人が知っていた。しかし、これまでは、それが私たちの生活に直接影響する問題だとは考えていなかったと氏は言います。

 ぜなら、ビッグマックは、アメリカと同じものを日本で作れるから。日本の安い労働力を使って、価格が安い(しかし同じ品質の)ビッグマックを我々は食べることができる。 しかし、例えばiPhoneでは事情が違う。残念ながら、日本企業ではiPhoneと同じ品質のスマートフォンを作ることができないので、アメリカの高い労働力を使って作ったiPhoneを買わざるをえないというのが氏の指摘するところです。

 新機種iPhone14シリーズの日本での価格は、最も安いタイプで11万9800円。 Pro Maxは約20万円に及ぶということです。一方、厚生労働省が発表した令和2年「賃金構造基本統計調査」によると、大学新卒者の賃金は、男女計で22.6万円。Pro Maxを買ってしまえば、食費も残らないと氏はしています。

 気が付けばiPhoneは、日本人にとって「高嶺の花」と化していた。結局のところ、「安い日本」が問題なのでなく、「賃金が安い日本」が問題なのだ。日本で賃金が上がらないこと、円安が続くことが問題なのだというのがこの論考における氏の見解です。

 そしていつしか、「安い賃金で作れるから大丈夫」と言ったビッグマックも、その流れの中に入っていく。ビッグマックを作るためには、(牛肉や小麦粉など)輸入に頼らざるをえない原料が必要で、それらの価格はいま急激に高騰している。だから、いくら日本の賃金が安いからといっても、現在の価格を維持し続けるのは難しくなるだろうと氏は話しています。

 実際、日本マクドナルドは9月30日に、ビッグマックの値段を従来の390円から410円に引き上げた。輸入価格高騰の半分程度はウクライナ問題などの海外要因によるが、半分程度は円安によるとされており、(仮にウクライナ問題がおさまっても)構造的な円安が続けば、日本は貧しさのスパイラルから脱却することはできないというのが氏の認識です。

 このままの事態が続けば、日本人には高くて手が届かないものが続出するだろう。「舶来品」という言葉は、長らく死語となっていたのだが、それがよみがえるかもしれない。そして、20年後の日本は、(ビッグマックも気安く食べられないくらい)貧しい国になってしまいかねないと氏は指摘しています。

 賃金が安いので、外国の有能な人材は日本に来なくなる。日本の有能な人材は外国に流出する。要介護人口は増えるが、介護してくれる人は外国にいってしまう。こうした事態を、どうすれば食い止めることができるかを、真剣に考える時期が来ていると結ばれた野口氏の論考を、私も興味深く読んだところです。



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