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小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(25)CG

2008-07-30 03:03:00 | 小説・鉄槌のスナイパー(第一章)
小説・鉄槌のスナイパー・一章・NOー(25)絵画

父親は苦汁に満ちた表情で両手を膝に乗せると握り拳を握った。
そしてポツ、ボツッと涙が落ちて畳みに染み込んでいた。
私も美保も男の名前は言わなかった。そして、五日前にペンションにキャンセルの電話が入った事だけを伝えた。
「そうでしたか、その時に男の名前は言いませんでしたか」?
私はただ首を横に振った。そして幸子さんの部屋を見せてもらった。幸子の机の上には写真が飾られていた。美保は手にすると抱き締めた。
それは、六月に、ペンションで撮った私と美保と三人の写真だった。
その写真を見て、あの日の事が頭の中をグルグルと駆け回っていた。あんなに明るかった女性を死においやった真田と言う男の事が次第に許せなくなってきた。そして一階に降りると、弔問に訪れた人達でいっぱいだった。
私達は両親に別れを告げて家を出た。するとムッとする暑さに首筋から汗が涌いた。ネクタイを緩めて上着を脱いだ。
そこへ空のタクシーが来て止めた。ホテルから乗ってきたタクシーだった。
「お客さん、あの家のお嬢さん亡くなったんだってね。あんなに明るくていい女性だったのにね」。と、随分親しく話をする運転手だった。
「おじさん、幸子の事知っているの」?
「ええ、高橋さんには良く乗って貰いましたからね。私言ったんです、あの真田と言う男だけは止めなさいってね。あの男は女性を食い物にして生きているダニのような男でしてね、でもそんな事はとても言えませんからね」。
「そう、そんな男がいたの。幸子が可哀相」。
「一度高橋さんが泣きながら車に乗り込んできたことがありましてね。どうしたかって聞いたんです。そしたら、彼が外の女性とホテルから出できた所を見てしまったとか。あの男は祇園辺りで観光客や地元の女性を引っ掛けては遊び歩いているどうしようしようもない男ですよ」。
「そうなの、じゃあお葬式にも来ないわね」。
「来ないでしょうな。以前も似た事がありましてね。真田と付き合っていた女子大生が自殺したんです」。
美保は何かを言いたい様子だった。が口を綴じた。
そしてホテルに着いて時計を見ると、もう四時を回っていた。
部屋へ行くとテレビを点けた。夕方のニュースが流れていた。
そして高橋幸子さんの事が流れた。美保は着替えを途中で止めてソファーに掛けて見入っていた。そしてニュースが切り替わると溜め息を漏らしていた。
「幸子やっぱり自殺だったんだね。京平さん、此れからどうする」。
「そうだな、少し休んで暗くなったら祇園へ行ってみようか。それで、美保はその真田の家を知っているの?・・・」。
「うん、前に自殺した親友が佐々木友世って言うんだけど、友世が一緒に来て欲しいって言われて、一度だけ行った事があるの。
それがね、私の実家の隣町の茶山町なの。友世の話しだと、真田の家は個人病院で息子の貴雄は受験に失敗したらしいって」。
「そう、開業医のドラ息子か。良くあるパターンだな。美保、じゃあ友世さんも幸子さんも自殺だと決め込むのは危険だな。男が医者の息子なら睡眠薬だって簡単に手に入るからね」。うっ、と美保は言葉を飲み込んで見詰めた。
「そんなあ、じゃあ友世も幸子も殺されたって言うの?・・でも友世の時も警察は自殺だって。それに幸子も!」。
「でも変だと思わないか。友世さんが自殺した時も睡眠薬だったんだろ、それに真田と付き合っていた事は警察は調べた筈だよな」。
「ううん、失恋して自殺したって事で片付けられてしまったの。だからあの男の事は事実関係だけしか調べなかった。
友世の御両親がお金が絡んでいる事を話したんだけど。それを証明する事実関係がないからって言われて無視されたわ」。
「じゃあ今度も同じだな、借用書もなければ幸子さんが金を渡している所を見た人もないだろうからね。でもさ、付き合った女性が二人も自殺してるんだから、警察も今度は調べるんじゃないかな」。
そんな話をしながら着替えていた。そしてホテルで食事を済ませ、タクシーで阪京電鉄七条駅に向かった。
五条、四条、三条。丸太町と過ぎて出町柳と通り過ぎ、元田中駅に着いた。
美保の実家のある駅だった。美保は身体を乗り出して懐かしそうに見ていた。
そして茶山駅に着き、電車を降りた。閑静な駅前は大学も近い事もあり、超ミニにポックリのような靴を履いた女子大生や女子高生風な女性が大勢いた。
「京平さん、あんな恰好が好きなの?・・・」
「そうじゃないよ、長野もそうだけどさ、東京も京都にもあんなのが多いんだなって思ってさ。美保だって似たような恰好していただろ」。
「それはそうだけど、でも私は京平さんが初めてだよ。本当だよ、でも私はあんな派手じゃなかったもん」。
「うん、だから好きになったんだよ。美保は誰よりもステキだよ」。
「もう京平さんったら、あっ、パトカーが止まっている。あの家よ、真田貴明の実家、病院は下鴨で通っているらしいよ」。
私達は手前の駄菓子屋に入った。昔懐かしい菓子が珍しくもあった。
そんな駄菓子を手にしながら真田の家の様子を伺っていた。
「おばちゃん、そのお宅で何かあったん、パトカーなんか止まってはりますけど」。と美保の流暢な京都弁がより可愛く感じた。
「へえ、なんや知りまへんけどな。息子はんが調べられているみたいへ。さっきも刑事はんがきはって聞いて帰りましたんへ」。
私は美保とおばさんの会話を聞いていた。おっとりとした京都弁を聞きながら、美保は京都の人間だったんだと、心が洗われたような気分になっていた。
「大きな声では言えまへんけど、なんや貴明はんがお付き合いしはっていたおなごはんが自殺しはったとか。
ほんに何を考えていますやら、一年も前やろか、同じような事があったんへ。あらっ、いらん事を。ここだけの話しにしておくれやす」。
「へえ、ほな此れをいただきます」。
美保は適当に駄菓子を篭に入れると差し出した。そして袋に入れて貰うと早速駄菓子をほうばりながら店を出た。
そして真田貴明の家の前にある公園に入るとベンチに腰を降ろし、玄関を見ていた。
すると、間もなく警官と刑事らしい男の三人が出て来た。
「まったくあの男は何を考えているかわからんな。親も親なら息子も息子だ。まあ今回も自殺って事かな」。
年配の一人の刑事が車の前で立ち止まると、額の汗を拭いながら呆れたように吐き捨てるように話しているのが聞こえた。
そしてバタン、バタン、と乗り込むと走り去った。すると、真田の家のガレージが空いてベンツが出て来た。
「京平さん見て、あの男が貴明よ」。NO-25


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2 コメント

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あ! (柚羽)
2008-07-30 08:54:40
このイラスト、ステキですね
海と空を眺めるの 好きなんですよ~
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Unknown (ブルーハート)
2008-07-30 10:37:40
景色素晴らしいデス
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