みつばちマーサのベラルーシ音楽ブログ

ベラルーシ音楽について紹介します!

ミュージカル「預言者」③ ポーランドでの缶詰稽古と国境での目撃談

2007年09月18日 | その他
 ようやく出演者が決定したミュージカル「預言者」。
 次は舞台稽古である。そのためにオレイニコフはワルシャワ郊外にある森に囲まれた宿泊施設を借り切ることにした。宿泊施設といっても、ダンスの練習もできるような体育館も併設されている施設である。
 そこで、約半年に渡り、出演者たちは文字通り「缶詰状態」の特訓を受けることになった。何でも1日に12時間稽古をしたと言う。
 オレイニコフが言うところによると・・・
その場所は「強制収容所」で、時間が経つにつれ「みんな文明から長期間隔絶されて、発狂しつつあった。」 
 ・・・だったそうだ。

 ベラルーシ国営第1テレビの「ズビョズドナヤ・モノポリヤ」というテレビ番組でその稽古の様子がレポートされていた。
 猛暑だったこの夏、みんな汗だくでダンスや鉄棒の大回転のリハーサルをしていた。
 トーダルは他のボーカリストと一緒に歌を歌ったり、ビデオの録画をチェックしたりしていた。
 舞台監督はわざわざアメリカのシカゴのミュージカル劇場でボイストレーナーをしているポーランド系アメリカ人を呼んできて、ボーカリスト組はミュージカル向けのボイストレーニングを受けている様子が写っていた。
 オレイニコフによると、発声法からして本場アメリカのミュージカルは全然違うそうだ。
 このトレーナー(マリオラ・ナピエランスカ)は見るからに熱血トレーナーで、教えている歌手の前でずっと指揮者のように手を振り回しており、この人をテレビの画面を見ているだけで疲れた。何と言うかスパルタ教育で、歌を教えていると言うより、スポ根ドラマを見ているようだった。
 
 ただ、さすがと言うべきかヤドビガ・パプラフスカヤとアレクサンドル・チハノビッチはこのトレーナーにあまり叱られていなかった。
 と言うか、必死で教えすぎて、トレーナーのほうの声がかれてしまっていた。それでもこのトレーナーはホイッスルを加えて
「もっと大きな声で歌うほうがいいところでは、これを吹いて教えますからね。」
とかすれ声で言っていた。先生もスポ根である。
 
 このトレーナーは7月、ミンスクにやって来て、トーダルのバースデーコンサートを聴きに来ていた。
「今日は僕の先生が来ています。」
とトーダルが舞台上で話していたので、先生って誰だろうと思ったらこのボイストレーナーだった。
 マリオラ先生はステージに上がって「トーダルは私の生徒の中で一番優秀です。」と褒めていた。
 こんな鬼教師みたいな人に褒められるなんて、すごいね。(しかし誕生日だったゆえの単なるお世辞だったかも。)

 ところで、この「陸の孤島稽古場」へベラルーシ人の参加者はオレイニコフらロシア側が用意したチャーターバスに乗って、陸路ミンスクからポーランド入りしていた。このバスに乗ってベラルーシとポーランドの国境地帯をあっちへこっちへと移動していたのである。 

 さて、8月のある日マーサの夫、釣りキチ捨平はポーランドへ行く用事があり、自分が運転する車に乗って、国境を越えた。3日後の日曜日、用事を済ませてベラルーシへ帰ろうと車を走らせ、夜中の12時ごろ国境地帯にある検問所にさしかかった。
 ここでは税関検査や出入国検査を受けるため、時間がかかりすぐに通過できない。
 捨平は待ち時間を利用して、トイレに行くことにした。
 そのトイレでオレイニコフにそっくりな人に遭遇!
 ・・・というか本物のオレイニコフ!!!
 オレイニコフはトイレを出たところで、すぐ女性ファンにつかまり、ツーショット写真をねだられていた。

 捨平は「預言者」の稽古のため、出演者がこの国境を行ったり来たりしているというのを、聞いていたので
「やっぱり、本物だ・・・。」
と分かった。そして女性ファンが写真を撮って去った後、オレイニコフに声をかけた。
「大変ですね。」
 これは有名人になると、国境地帯だろうが、夜中だろうが、写真やサインや握手を知らない人から求められるので大変ですね、という意味である。
「いや、全く。」
 とオレイニコフは答えた。捨平は
「私の友達を出演者の1人に選んでくれてありがとう。」
と言ったので、オレイニコフは
「それは誰のことかい?」
ときいてきた。
「トーダルです。」
 するとオレイニコフは
「ああ、トーダルならそこの売店で買い物しとるよ。」
「じゃあ、後で彼にも挨拶しに行きます。」
 捨平はさらにトーダルと自分の日本人の妻が、いっしょにCD「月と日」を作ったことまで、オレイニコフにしゃべった。
 するとオレイニコフは驚いて
「え、何? あなたの奥さんは日本人なの?」
「ええ、そうです。」
「どこで知り合ったの?」
「まあ、そういう知り合う機会があったんですよ。」
と捨平は笑って詳しくは話さなかった。(話し出すと長くなるものな。)

 ともあれ、オレイニコフが私のことをちょっと知っている、というだけでも名誉なことですよ。(^^)
 その後捨平は国境地帯にある売店へ行った。
 すると、いるいる~。トーダルが買い物かごをぶら下げて、店内をうろうろしているではないか。
 トーダルは捨平には気がつかず、しゃがんで下のほうの棚に置いてあったチョコレートの箱を選んでいた。
 ちなみにマーサ家の人間はトーダルのことは普段トーダルと呼んでいない。本名のほうで呼んでいる。
 捨平はしゃがんでいるトーダルに声をかけようとしたが、夜中でしかも運転に疲れていた頭に本名が浮かんでこない。
(あれ、サーシャだっけ? 何だったっけ? え~と・・・。)
 と考え込んでいるうちに、チョコを選んだトーダルが立ち上がり、振り返った。そしたら後ろにいきなり捨平が突っ立っていたので
「わ!」
と純粋に驚いてしまった。(驚かそうとしたわけではないのだが。)
「どうしてこんなとこにいるんですか?!」
 そりゃあ、普通はこんなところで知り合いに会うことはめったにないからね。
「いやあ、ポーランドに用事があって、その帰りなんだよ。」
「僕たちは今からポーランドの稽古場へ行くところなんです。」
 つまり国境でばったり出会ったわけですね。
 トーダルはかなり動転したらしく
「ええっと、この間あなたの奥さんとお嬢さんが、僕のバースデーコンサートに来てくれましたよ。」
などと、捨平が知っているに決まっていることをしゃべった。

 その後みんなはそれぞれの方角に向かって出発した。
 しかし、こういう偶然ってあるものなんだね。
 この話を帰宅した捨平が話してくれたのだが、笑い転げそうになった。
 しかも捨平の目撃談によるとトーダルはチョコレートのほか、ワインとハムを買い物かごに入れていたと言う。(濃い選択だね。野菜も食べるように。)
 そしてトーダルは無精ひげを生やし、めちゃくちゃ疲れた様子だったと言う・・・。
 舞台稽古で相当、体力を使っているようだ。
 ああ、かわいそうに・・・。しかし、これがスターの宿命なのだよ・・・。(私がいちいち言わなくても分かっていると思うが。)
 その後しばらくしてから、バースデーコンサートの感想と
「国境地帯で捨平と会ったんだってね。とても疲れているようだったと捨平は話していたよ。健康には気をつけてね。初演は必ず見に来ます。」
というメールをトーダルに送っておいた。(たまには優しいことも書いておこう。)

 こんなにみんな必死に練習して(スポーツ選手のオリンピック前合宿みたい。)さあ、蓋を開けたらどうなるのか?
 ああ、本番が楽しみ!

 リハーサルの様子の画像はこちらのニュースサイトで見られます。

http://www.sb.by/article.php?articleID=60488


 「預言者」の公式サイト内画像でも見られます。

http://www.pro-rok.ru/3_1.php

(この画像の中をよーく探すと、トーダルも写っている。けど、すごく寒そうにブランコに乗ったりして、まるで舞台稽古をしていないように見える。そうかと思うとブランコの支柱にしがみついていたり、馬鹿なことをやっている。(^^;) アホなことを言っている彼の声が聞こえてきそうだよ。)

ミュージカル「預言者」② トーダル出演決定の経緯

2007年09月13日 | その他
 主演の「預言者」役のオレイニコフは、自分の代役が必要だと考えていた。
 今年60歳になるし、テレビ番組の収録などもある。しかも海外公演は7年もかかるのだ。
 しかし、主役の代役は非常に責任重大な役である。何せ自分の分身のような俳優を探さなくてはいけない。
 適役がなかなか見つからない中、オレイニコフは舞台監督のヤヌシュ・ユゼフォビッチ(ポーランド人)に相談した。
「預言者の代役ができるような人材を知らないかね。」
するとユゼフォビッチがあっさりと答えた。
「いるよ。最近ポーランドでも活躍しているベラルーシ人のミュージシャン、トーダルだ。」

 オレイニコフはトーダルのことは知らなかったが、ユゼフォビッチ監督の言葉を信じてトーダルに連絡した。
 オレイニコフの前に現れたトーダルは、
「あなたの代役は大役であって、責任が重く、自分は自信がない。」
と断った。
(こういうふうに一応断るのが、まあ、オレイニコフのような偉大な俳優に対するお世辞でもあるな。)

 オレイニコフはトーダルに、自分の歌を数曲歌うよう指示した。
(うわ~ テストしてる! しかも試験監督がオレイニコフで、生徒がトーダルという構図。想像しただけで、ぞくぞくする~)
 歌い終わったトーダルにオレイニコフは「出演するように。」と言ったそうな。

 かくしてトーダルの出演決定!!!
 すごいね~ トーダル君! 
 ユゼフォビッチ監督がトーダルのことを知っていて本当によかったよ。

 ちなみに契約の条件の中の一つに「喫煙しないこと」という事項があったのだが、出演を機会にトーダルは煙草を吸うのをやめてしまった。
(歌手なのに煙草吸うの、やめたらいいのに、とマーサは前から思っていたので、そういう意味でも、「預言者」出演決定は万々歳ですな。)
 
 しかし、オレイニコフの代役がトーダルというのは、かなり思い切った決断だったのでは? と思う。
 と言うのもこの2人、共通点が少ない。
 職業からしてオレイニコフは俳優、トーダルは歌手。
 音楽教育は受けていても、演劇についてはトーダルは学んだことがない。もちろんミュージカルに出たことなどない。
(ただしトーダルは過去に一度だけ演奏家の役で、ベラルーシ映画にちらっと出演したことがある。それから某プロモーションビデオで、猫の役をしたことがある。)
 ましてやオレイニコフのような大御所俳優の代わりをするのは、新人俳優にしたら、かなりのプレッシャーだろう。

 専門以外にも共通点がほとんどない。
 声一つ取っても、オレイニコフはハスキー。(悪く言えば「加齢によるかすれた声」)
 トーダルは正統派バリトン。
 年齢も・・・オレイニコフ60歳。トーダル36歳。
 全然違うではないか。本当にこの2人が同じ役をするんですか? とききたくなる。

 外見も全然ちがう。下にいちいち挙げてみたけど、みなさんどう思います?
 前者はオレイニコフで、後者はトーダルです。
(身長)<けっこう上背がある> <はっきり言って低い> 
(顔型)<丸い> <長い>
(髪型)<てっぺんがはげかかっている> <まだふさふさしている> 
(目)<小さくて黒い> <大きくて青い>
(眉毛)<どちらかと言うと下がり眉> <うねってる。これで色が濃かったら、巨人の星>
(鼻)<大きい> <細い>
(口)<ひげに隠れていて目立たない> <非常に目立つ>

 共通しているのは性別が男だっていうことと、鼻の先が割れてることぐらいではないか? 
 いろいろ細かく書いたけど、この2人の画像を一度に見られるサイトがあるので、興味がある人はどうぞ。

http://www.news.by/505/2007-05-24/32610/


 このサイトの画像、トーダルはカメラマンに頼まれて
「俺が預言者だあああ~~~~っ!!!」
と叫んでるポーズをしてますね。(しかし着ている服が思いっきり普段着。それと首から変な具合にぶら下がっているのはサングラス。)

 う~ん、どうなるのだろう、この異色ダブルキャスト。
 オレイニコフさんの場合は王様のような預言者になり、トーダルの場合は悪魔のような預言者になりそう。

 ところで、トーダルのほかにもオーディションを通さず、オレイニコフじきじきのご指名で、出演が決まったベラルーシ人歌手がいる。
 それはヤドビガ・パプラフスカヤとアレクサンドル・チハノビッチ。
 この2人はベラルーシだけではなくロシアでも有名な夫婦デュオ。
 チハノビッチは普通に歌が上手だと思うけど、ヤドビガはすばらしい歌手。声がとってもきれい。歌手には珍しく眼鏡をかけているのもかわいい。
(自慢にはならないが、マーサはヤドビガのサインを持っている。)
 いっしょに歌い始めて35年というまさにベラルーシ音楽界のおしどり夫婦ですね。
 この2人は「預言者」では1曲歌うだけなのだが、オレイニコフが早い時期に出演を頼んだそうだ。
 
 何にせよ、オレイニコフのご指名なんて名誉なことです。

ミュージカル「預言者」① まずは紹介

2007年09月12日 | その他
 ミュージカル「預言者」についてカテゴリーを「トーダル」にするかどうか迷ったけれど、ベラルーシ語の音楽ではないので、「その他」のカテゴリーに入れることにしました。
 「預言者(PROROK)」はロシアとベラルーシとポーランドの合作ミュージカル。
 2007年8月30日にプレミアム上演が、モスクワでもなく、ポーランドでもなく、ミンスクで(光栄なこっちゃ。)行われ、見に行ってきました。
 詳しい感想は後で書くけど、いやはや~~~
 すごいものを見てしまいましたね。
 こんな「強烈」なミュージカル、もう一生見ることないんじゃないかと思いましたよ。
 何でもこれから7年かけて世界中を公演し、日本にも来る予定だそうなので、ご紹介します。
 預言者のオフィシャルサイトはこちら。(ただし今のところロシア語のみ。)

http://www.pro-rok.ru/index2.php


 さて、どうして3カ国合作なのかというと・・・
 まず、この作品についてそもそも、誰が思いついたかというと、ロシアの有名な俳優、イリヤ・オレイニコフが2006年のある日、
「夢に見た。」
ということで、音楽を作曲。
 ロシアに住んでいたことがあるという人なら日本人でも、きっと見たことあるでしょう、「ゴラドーク」というお笑い番組。
 あの番組に出ている二人の俳優のうちの、ヒゲのはえているほうです。と説明したら、
「ああ、あの人か。」
とすぐに分かった人もいるのでは? とにかく有名な俳優です。

 で、オレイニコフは
「どうしてもこの作品をミュージカルにして、自分が主演をして世界中で上演したい。」
ということで、最近お金持ち(ただし一部の階層)になってきたロシアでスポンサーを集め、有名なポーランド人ミュージカル監督に演出を依頼し、ロシアとベラルーシとポーランドの3カ国から、出演者を募ることにした。
 出演者の数からしてすごい。
 ボーカリストだけで23人。
 ダンサーは27人。
 体操や曲芸などを担当する者は8人。
 合計58人。裏方は約60人。
 舞台装置の総重量は12トン。520平方メートルのステージ面積を使用し、巨大スクリーンも3面も使う。
 制作費500万ドル・・・。
  
 とにかくお金かけてるなあ、ロシアの経済状態がよい(ただし格差社会でもある。)のだな、と思いましたよ。
 文化、と一言で言ってもその中身はいろいろありまして。
 お金がかからなくても「すばらしく」「多様で」「誇ることができ」「進化し続ける」文化というものがある。(例・日本の折り紙。)
 しかし、悔しいけど、やっぱりお金がないと創造できないものもある。このミュージカルなどがそのいい例で、莫大なお金と時間と労力と神経を消費してやっとできた作品だと言わざるをえない。

 というわけで鳴り物入りで始まった超特大ミュージカル「預言者」。
 それでも、オレイニコフさんには悪いが、これにトーダルが出演しなかったら、マーサは見に行かなかったと思うよ。
 そうです、トーダル君がこの58人の出演者のうちの1人なのです!
 しかも、主役なのです!!!
 ただし、ダブルキャストのうちの1人なのです。
 すごいじゃないか、トーダル!!! あのオレイニコフの代役ですよ~
 やはり君こそスターだ! 世界に輝け!

 しかし、トーダルの話は後回しにする。(^^;)
 トーダル以外にもたくさんベラルーシ人の歌手やダンサーが出演している。国別で分けると、3カ国のうち、ベラルーシ人が一番多い。
 その理由についてオレイニコフは
「ベラルーシには才能のあるアーティストが多い。それなのにギャラはロシアに比べて少なくていい。」
と説明している。
 それって褒められているのか、けなされているのか・・・。

 2007年2月、オレイニコフはベラルーシ人の出演者を求めて、共和国会館(コンサートホール)を借り切って、オーディションを行った。
 そりゃもう、「我こそは。」と思った歌手やダンサーがどっと押し寄せたのでございます。
 ギャラはいいし、歴史に残るであろう作品に出たことになるし、海外公演にも行けるし、もしかするとこれをきっかけに世界的スターになれるかもしれないじゃん。
 ・・・と皆さん思われたようです。
 ベラルーシ映画「スルーツク公妃アナスタシヤ」で主役だったスベトラーナ・ゼレンコフスカヤまで受けに来たんだから、普通のオーディションではない。
 彼女は合格したが、その役は「娼婦」だった。そしてその後どういうわけか、降板している。
 やはり若手歌手のアレクセイ・フレストフもオーディションを受けて合格し、準主役である「老人」の青年時代を演じることになったが、やはりその後どういうわけか、降板している。
(どうしたんだろう、2人とも。)

 そんなに有名でなくても、ベラルーシ人の俳優やダンサーたちがオーディションを受け、合格した。中にはこのミュージカルに出るため所属劇団をやめてしまった人もいる。

 トーダルはこのオーディションには行かなかった。彼は基本的にベラルーシ語歌手で、3カ国合作とはいえ、ロシア語で上演されるミュージカルには関心はあっても、自分が出ようとは全く思っていなかったらしい。
 それがどうして出演することになったのか。しかも大役である。

ヒット1ダース2006

2007年09月06日 | ベラルーシ音楽全般
 この記事についてカテゴリーを「ベラルーシ音楽全般」にするか「トーダル」にするか迷ったのですが、前者のほうに入れることにしました。

 「ヒット1ダース」というのは、一言で言うとベラルーシにある音楽サイトです。ベラルーシ語音楽について、サイト上のMP3で視聴してもらい、期間を区切ってリスナーから投票してもらいます。
 バーチャル方式でヒットチャートを一般リスナーから決めてもらうわけです。
 そして過去1年分の結果を集計して、上位12曲に入った曲をCD「ベラルーシポップス・ヒット1ダース」にして販売しています。さらに30曲はMP3で、同じCDに収録されます。
 つまり1枚のCDで1年分42曲のヒット曲が聴けるわけです。

 最初に発売されたのがヒット1ダース2005で、2006年度版はまだ2枚目なのですが、このヒット1ダースシリーズを聴けば、ベラルーシ語音楽の歴史が分かるようになっています。
 「ヒット1ダース」のサイトはこちらです。

http://music.fromby.net/

(マーサもこのサイトの音楽ニュースをよくチェックしているのですが、全てベラルーシ語表記のみです。)

 さて、2005年にトーダルが発表した日本の歌をベラルーシ語でカバーしたCD「月と日」の収録曲のうち、ヒット1ダースでノミネートされた「村祭」は投票数を集め、同年秋では1位にランクインしました。

 ヒット1ダースで「村祭」が投票されていたときの経緯はHP「ベラルーシの部屋」過去ログ2005年10月と12月の「ベラルーシ語音楽ヒットチャートに『村祭』が!」をご覧下さい。
 日本からも投票を呼びかけたりして、楽しかったねえ。

http://belapakoi.s1.xrea.com/logs/2005/010.html


http://belapakoi.s1.xrea.com/logs/2005/012.html


 そして、2005年秋のヒット曲「村祭」はめでたくも「ヒット1ダース2006」に収録されることになったのです。
 CD12曲のほうではなくMP3のほうに収録されたのが、ちと残念ですが、でも30曲目のトリなのです!
 それに日本の歌が「ベラルーシポップス・ヒット1ダース 2006」に選ばれるなんて、もちろん史上初めてのことで、ベラルーシの音楽の歴史に足跡を永遠に残したことになりますよ。
 ばんざ~い!
 やった~!

 ・・・とただ喜ぶのはまだ早い。
 実はいろいろあったのです・・・。
 この「ベラルーシポップス・ヒット1ダース2006」を初めて手にしたときは、私も「村祭が入ってる! ばんざ~い! やった~!」
 と思いましたよ。
 しかし、その後、開けてよくよく見てびっくり。
 CDジャケットに各曲について詳しい説明が印刷されていますが、「村祭」の説明は日本語に訳すとこうなっていたのです。

<30.トーダル&WZ-オルキエストラ「村祭」(Z.バイツュシュケビッチ/民謡、A.カモツキー翻訳)> 

 解説すると・・・「Z.バイツュシュケビッチ」というのはトーダルの本名です。A.カモツキーというのは「月と日」収録曲の日本の歌の歌詞をロシア語からベラルーシ語に翻訳してくれた人です。 
 CD「月と日」については、こちらで詳しく紹介されているので参考にしてください。

http://belapakoi.s1.xrea.com/chiro/katudou/songs/index.html


 私が「ええっ?」と思ったのは、どこにもこれが「日本の歌」と表記されていないこと。
 ちなみにMP3の1曲目に収録されているアレクサンドラ&コンスタンチンの「アヒルはどこにいたの?」の説明はこうなっています。

<(民謡、アレクサンドラ&コンスタンチン編曲)>

 この曲はベラルーシ民謡です。(タイトルからしてそうだ。)
 つまり、ベラルーシ音楽界ではCDに曲の説明を表記するとき、ただ「民謡」とする場合は、全て「ベラルーシ民謡」である、という暗黙の了解があるのです。
 ベラルーシ民謡以外の民謡は「ロシア民謡」とか「ウクライナ民謡」とか表記するわけです。

 ということは「村祭」について単に「民謡」とだけ説明すると、このCDを買ったベラルーシ人で、「月と日」のことを知らない人は「村祭」のことをベラルーシ民謡だと思ってしまうのです。
 だのに、「A.カモツキー翻訳」ということはベラルーシ民謡をベラルーシ語からベラルーシ語へカモツキーが翻訳したのか? ということになり、さらに民謡なのにZ.バイツュシュケビッチを作曲者扱いにしているとはどういうことなのか? ということにもなるのです。

 要するにこの説明じゃ、CDを買った人は訳がよく分からなくなる、ということなのです。
 そして日本人のマーサからすれば「日本の歌」と書いていないのが、非常に不満。
 「ヒット1ダース」に文句を言おうかと思ったのですが、言ったところで、魔法のように全てのCDの説明が訂正されるわけではないし、新聞の「おわびと訂正」欄のようにはなりません。
 もうこのCDを買ってしまった人もいっぱいいるし・・・。

 で、あきらめようかと思ったのですが、3日経っても、不満が収まらなかったので、ヒット1ダースに「ヒット1ダース2006に対するクレーム」という件名のメールを送りました。
(生まれて初めてこんなメール送ったぞ。しかもロシア語で書いた。)
 ・・・『村祭』を収録してくれて、どうもありがとう。しかしこのような説明では、ベラルーシ人リスナーにとっても不可解だし、日本人の作者に対する尊敬の念だって、どこにも表現されてないじゃないですか。云々・・・といった内容の苦情のメールだったのですが、数時間後にはその返事が来ました。(早い・・・!)

 ヒット1ダースからの返答はこうでした。
「・・・あなたの言い分はもっともです。すみませんでした。もし、このCDの発売元であるウエストレコード社が再リリースする場合は、正しく印刷し直します。とりあえずこのCDの公式サイト上での説明は訂正しましたので、見てください。・・・」

 「ベラルーシポップス・ヒット1ダース2006」の公式サイトはこちらです。(ただしベラルーシ語表記のみ。) 

http://music.fromby.net/cd/premjer_2006.html


 このページをほとんどそのまま印刷してCDジャケットにしているのですが、このサイト上では「村祭」の説明はこのように訂正してあります。

<30.トーダル&WZ-オルキエストラ「村祭」(日本の歌、民謡/Z.バイツュシュケビッチ編曲、A.カモツキー、M.タツミ翻訳)>

 「日本の歌、民謡」というのが何だか変だけど、ずいぶん正しくなりましたね。
 おかげでだいぶ気持ちが晴れました。思い切って苦情メールを送ってよかった!
 ウエストレコード社が再リリースする可能性は、こういうシリーズものCDの場合は、非常に少ないので、期待してませんが、もしかすると将来訂正版「ベラルーシポップス・ヒット1ダース2006」が販売されるかもしれません。

 文句をいろいろ書いたけど、「ヒット1ダース2006」を聴けば、ベラルーシ音楽シーンのことがよく分かりますよ。
 「村祭」以外にもトーダルの2006年ヒット曲「道」も入っているし、パラーツとか、リャボンとかの常連が変わらずがんばっているのが分かるし、最近目立ってきたIQ48やTav.Mauzerも聴けるし、若手がぞくぞく登場しているのも興味深い・・・ということで、おすすめのCDではありますよ。
 ジャンルもアルバムタイトルはポップスとあるけど、ロックあり、バラードあり、ラップあり、民謡あり、とバラエティーに富んでいます。

 ちなみにこのCDをPCに入れると12人のミュージシャンの画像と紹介(紹介はベラルーシ語)を見ることができます。
 でもこの中に入ってるトーダルの画像は「道」の作詞者であるニャクリャーエウさんの詩中登場人物になりきったような格好で写っていて、めちゃくちゃ老けて見えるのでマーサは嫌いなのだ。
 それより、パラーツのリーダー、ハメンカさんの画像を見て、うほほ~い♪と思いましたよ。(彼のファンなのだよ。) 

(MP3のほう、うまくウインドウズ・メディア・プレイヤーで再生できなかった方は、iTunesで再生してみてください。)

 ちなみに、このCDジャケットにデザインされているモノは「缶切り」です。
 CDそのものには金属製の蓋が印刷されていて、この缶切りで、音楽の缶詰の蓋を開けよう!ということであるらしい。