稲盛和夫氏が新生JALの会長に就任する、という話を聞いて、わたしが最初に思ったのは、
「結局、稲盛さんを引っ張ってくるしかないんだなあ。」
ということだった。
稲盛和夫氏は、日本を代表する素晴らしい経営者の一人で、そこに何の不満があるわけではないが、もうすぐ御年78歳だ。
もちろん高齢でもご活躍なのは素晴らしいが、流石に引っ張りだしすぎじゃないか?
もっと若くて有能な経営のプロは他にいないのか?と思った。
けれど、今回のJALの再建のような難しい案件を引き受けられる能力があり、
この組織で人心掌握できるほどの年齢(60歳以上はマストだろう)と知名度がある人材が、
結局、稲盛さんしかいなかった、ということなのだろう。
今回は、まあいい。
しかし、この不況がいつまで続くのか分からないけど、
今後もこのような大規模な破綻or経営不振→再建話が増えていくことは十分に考えられる。
その際、先週議論になったような「株主価値を重視した」企業のガバナンスが増えてきた日本では、このように外部から経営者を招聘する、ということはますます増えてくるだろう。
その際、このような大企業の経営再建を担えるような、外部のプロの経営者って日本にどれだけいるんだろう?
と考えると、やはり首をひねってしまう。
翻って、アメリカのケースを考える。
大昔(1950年代とか)はこの国でも外部から経営者を招聘することは余り無いケースだったようだ。
が、1970年代から80年代にかけて、今の日本の失われた20年みたいな時期を経て、
環境が厳しくなり、株主の圧力が強まり、「株主価値経営」が当たり前になって状況が変わってきた。
企業の株主価値を向上するため、内部人事を無視して、外部から経営者が招聘されることが増えてきたのだ。
(何度も書くけど、その前の時代はアメリカでも株主の力はそこまで強くなかった)
経営のプロとして引っ張られてきたのは、有名大企業のCEO経験者(アイアコッカとか)、
有名コンサルティングファームのパートナーを経て経営経験を持つ人(ルー・ガースナーとか)。
最近はこれに加えて、シリアル・アントレプレナー(複数のベンチャー立ち上げ経験者)なども。
こうして、かの国には「経営者プール」なるものが出来上がっていった。
複数企業で経営の経験を積んできた、経営のプロが多くいて、大企業の経営に何かあったときは、そういった人が引っ張られてくるような仕組みが定着している。
思うに、日本でもこういうものが今後必要になってくるだろう。
「困ったときの稲盛頼み」ではなく、経営者候補が複数出てきて迷うくらいの状況になってくることが。
そのためには、(稲盛さんに比べれば)若手のCEO経験者が、ただ引退せずに、
もっとチャレンジングな再建問題に関与したり。
バイアウトファンドやコンサルタントなど、経営にある程度の知見を持つプロが、
ファンドとかの世界にとどまるんじゃなくて、大企業の副社長など経営職について実経験を積んだり。
もっと若手の起業家が、ただの金持ちになって満足するんじゃなくて、経営のプロとして専門知識も身につけるなど。
そして、そういった新たなチャレンジを受け入れるように、有能な若手経営者が活躍できるよう、許容度を高めるべく、日本の企業文化も少しずつ変わっていかないとね。
そうやって「プロの経営者集団」を作っていかないと、「困ったときの稲盛頼み」状況がいつまでも変わらないんじゃないか、と思った。
そろそろ搭乗時間らしいので行ってきます。
稲盛氏は報酬0円、破綻したAIGのCEOに招聘されたベンモシュ氏は年俸1,050万ドル(高額報酬が問題になっている中で報酬特別監督官が承認した金額でさえこの金額)ですからプロの経営者集団を作っていくなんて夢のまた夢ですね。
> これだって今の無能な経営者に退場してもらって、アメリカ人の優秀な経営者を年収2、3億円払って連れてこればそれで済む話なのです。
よりも、現実的な案ですね。
そういう志を持った人々が日本をそして世界の未来を切り開いてくれることを期待しています.Lilacさんもそういう人々の一人となることを応援しています.
どんなすごい人を連れてきても、山のような制約に引っ張られて失敗するように思えます。
あ、でも迫力のある外国人だったらみんな従順になるかも…絶対に日本語なんかしゃべらないタイプの人ならなお良し(涙)
このがんじがらめも、いずれは決壊するのでしょうが、リアルタイムで見ていると実にもどかしいものです。
本当は、5年後、10年後も現役で働くCEOが将来に向けての長期展望を持って経営に当たった方がずっといいと思うのですが、日本では、「残り3年、逃げ切り狙い」という感じの人たちが多くCEOをやっているようにみえます。
日本代表サッカーチームの監督に適任の日本人がなかなか見当たらないのと同じように、世界に通用するマネージメント能力を持つ日本人は少ないのかもしれません。でもって、イギリス人がソニーのCEOになったり、日産自動車でブラジル人CEOが大活躍したり。
イージー・ジェットとかバージンの40歳代のやり手の社員をヘッドハントしてきてJALのCEOにするとか、そういう人事ができればJALの再生も早く進むかも。年功序列が根強く残る日本の企業社会文化の中では無理な話ですね。
日本企業が「組織の暗黙知」や「現場主義」等を掲げ、自分の企業のことは自社の社員が一番解っている、という認識が変わっていかない限り、経営経験者の流動化はなかなか難しいでしょうね。
ボストンは生活費、特に家賃が高いらしいと聞いたので不安になってますー。今住んでいるダブリンも物価の高い都市なので(しかも大学も街の真ん中なんです)ここよりは安いといいなーと思ってたんですが;;;
わたしは実家の最寄りの国際空港が名古屋なのですがJALのコードシェア便でいつも帰ってたのにどんどん便が減って、去年はついに関空経由じゃないと帰れなくなってしまいました><
専攻が心理学なので、経済のことはよくわかりませんが再建するといいんですけど…
これからも更新楽しみにしてます!
早速どうも有難うございます。
永守さんは面白いですが難しかったでしょうね。
どなたかもご指摘されてるように、今回の主軸は「政治路線などの儲からないしがらみを切る」ことですから、ある程度そちらの世界にも発言力を持っていないとならない。
組織の問題であって、経営や戦略の問題じゃないので、ベンチャー型の人間にはちょっと厳しいでしょうね。
ご指摘の通り国交省天下りサイドなどが切れるかどうかは分かりませんけれども。
今回は半国営みたいな企業でしたが、今後も破綻・再生案件は出てくることでしょう。
そういう意味でも経営者プールを育成するのは大切かなと思っております。
>通りすがりさま
引用のブログはちゃんと読んでませんが、ソニーや日産のようなプロダクトならまだしも、今回の案件はどんなに敏腕でもアメリカ人経営者は役に立たないでしょうね。
>ウエノリさま
>世界に通用するマネージメント能力を持つ日本人は少ない
ちゃんと育てたい(育ちたい)ところですよね。
>イージー・ジェットとかバージンの40歳代のやり手の社員
上にも書いたんですが、今回はベンチャーのみの経験者、かつガイジンには難しいだろうな、と思いました。
ベンチャー精神を持ち、かつ大企業の論理(動き方・動かし方)も分かってる、という人が欲しい。
そう考えると、稲盛さんしか思いつかないんですよね・・・。
それが問題だと。
>Willyさま
>90年代後半以降の日本の組織は、有能な人材に十分な投資をしていないと思います
おっしゃるとおり。
失われた20年で、いろんな新規事業・新規市場案件が摘まれ、結果として昔のように子会社の社長として経験を積む、という機会が圧倒的に減ってますね。
>とおりすがりさま
とおりすがり、多すぎです(笑)
>日本企業が「組織の暗黙知」や「現場主義」等を掲げ、自分の企業のことは自社の社員が一番解ってい
これには良い部分もあるんですけどね。
こういう方向では悪化しますね。
アメリカのように株主が強くなって、株主が外部から経営者を無理やり連れてくることで市場が出来る、というのもひとつのモデルかもしれない、と思ったりしますね。
もちろん、アメリカでも外部からの経営者は失敗するケースの方が多いんですが。
>古都さま
近いですね。これからお会いすることもあるかもしれませんが、よろしくお願いします。