今日は米国で最近話題のオンラインの教育動画サイト Khan Academy をご紹介します。留学が出来ない環境の人でも、無料で、英語で小学校の算数から大学教育レベルのファイナンス、化学、生物、歴史、美術、GMAT対策まで、ありとあらゆる分野の教育を受けることが出来る優れたサイトである。
こんなサイトが、留学したくても家庭の事情で出来なかった高校生や大学生のときにあったら良かったのに、と本当に思った。もちろん留学で得られるのは英語で勉強することだけではなく、実際に多国籍の人々と触れ合って文化の違いを学び、そこでリーダーシップをとったり何かを成し遂げる大変さを学ぶこともあるが、近づくことは出来る。しかも無料で。これからグローバルに働こう、なんて思ってる高校生は、数学、化学、生物、世界史など世界共通の教科については、日本語に加えて英語でも、こういうサイトを補助教材として使って勉強するのが良いと思う。私は大学4年生で初めて海外に出たときから、それまで自分が習ってきたことが日本語であるために、全て理解していても通じず、苦労したことか。今の私が高校生に戻れるなら、このサイトで勉強したと思う。
英語で教育を受けたいと思っている人、または留学を目指している人もその対策に非常に使えるサイトだと思う。ファイナンスや経済学だけなら、MBA1年目で習う内容すら、全てカバーされている。TOEFLやTOEICのリスニングで扱うような学術的内容が多いから、そのままリスニング対策にも使えそうだ。
Khan Academyには、オンラインのドリルや学習状況を把握するためのソフトウェアなどがあり、実際の学校教育で補助教材として使うことを目的とした、サポートツールもいろいろある。高校や大学における授業でこれらを補助教材として活用したい、教育者の皆様にも非常にお薦めだ。
まずはこちらをご覧ください。最近は日本でも話題のTEDにて、Khan Adademy主催者のSalmon Khanが講演した映像で、このサイトの概要を解説している。
日本語字幕がついているTEDの映像はこちら→サルマン・カーン「ビデオによる教育の再発明」
バングラデッシュからの移民でシングルマザーの母を持ち、MIT、ハーバードMBAを卒業したKhan氏。ボストンのヘッジファンドでアナリストをしていたときに、従兄弟たちに家庭教師をすることになり、その補助教材として作った動画をYoutubeにアップし始めたのがKhan Academyの出発点だという。いまや米国では36もの学校が、この教材を公式に授業に取り入れて使っている。米国中が注目する教育NPOであり、GoogleやBill Gates財団などから合計1650万ドル(約13億円)もの寄付を受けている。
Online Learning, Personalized - New York Times (2011/12/4)
黒い画面に、Khan氏がいろんな色のペンを使って、授業をする。英語は比較的聞き取りやすく、説明が明快で非常に分かりやすい。もともとKhan氏が家庭教師の補助教材として始めただけあって、「優しいお兄ちゃんが教えてくれてる」感じがまた良い。
Khan氏のバックグラウンドから、数学、化学、生物、物理、統計学、コンピュータサイエンスなどの理系分野、ファイナンス、経済学などが非常に充実している。加えて、SAT(米国のセンター試験的なもの)やGMAT(MBA受験者必須)の対策などもある。最近は、外部の専門家を雇って、美術史などの新たな分野を次々に増やしているようだ。
とりあえず、私が見ていていくつかお勧めの動画をご紹介。どの授業も面白くてお薦めなので、実際に自分でサイトを訪れて選んでほしい
Khan Academyのサイト: http://www.khanacademy.org/
Youtubeの専用サイト: http://www.youtube.com/user/khanacademy
追記:Khan Academyのホームページ上の動画では字幕をつけることが出来ます。動画の左下でSubtilteを選びます。ものによっては日本語字幕もあります。
Finance (ファイナンス理論)
Introduction to Present Value (現在価値入門)
ファイナンスで最初にやる概念である「現在価値」の解説。MBAのファイナンスで最初の日にやる授業と内容が同じだ。今日100ドルもらうのと、1年後に110ドルもらうのと、どっちがいい?というファイナンスの根本的な問いから解説が始まる。もしドルが不安定な通貨で、来年には価値を失ってしまうようなものなら、絶対に今日100ドルもらうほうが得だろう、とか、安定して年金が入る生活をしていて投資は全く興味ないし、という人は今日100ドルもらっても使い道がなく、1年後に110ドルもらうほうが得だ、と思うだろう。このように、その人が感じるリスクによって、現在価値というものは違ってしまうのだが、それを分かりやすく英語で解説してくれている
このIntroduction to Present Valueをパート4まで見ると、Discounted Cash Flow法という、企業価値を計算するときに使われる一般的な手法まで理解できるようになっている。
追記: 英語字幕のあるバージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/introduction-to-present-value?playlist=Finance
Renting vs. Buying a Home (家を借りるのと買うのはどちらが得か)
世の中には、ローンを組んで家を買うほうが得だ、という人が多い。しかし、ファイナンス理論をやったことがある人は常にこういう。
「どんな場合でも、家は買うより借りるほうが得である」。
何故、借りるほうが得なのか、をファイナンスのリスクの考え方を活用しつつ分かりやすく解説する10分間のビデオ。
まあ、実際には家を買うのは、持ち家を持って安心したいとか、所有欲とか、そういうのにDriveされるわけで、ファイナンスの理論だけじゃ常に語れないんだけどね。
追記: 英語字幕のあるバージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/renting-vs--buying-a-home?playlist=Finance
Current Economics (現代経済学)
Economics of Cupcake Factory (カップケーキ工場の経済学)
ミクロ経済学の基本的な概念を、カップケーキ工場のケースを使って理解するもの。3回コース。MBAのミクロ経済学の授業もこのくらいのレベルから始まる。もちろんMBAなどでは、授業中に学生が生の面白い事例を紹介したりして、それらについて考えるから面白くなるのであって、全然違うけれども、そこに至るまでのミクロ経済学の基礎を勉強するなら、この教材は最適だと思う。
追記: 英語字幕バージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/economics-of-a-cupcake-factory?playlist=Current+Economics
Inflation and Deflation 3: Obama Stimulus Plan (インフレとデフレ3: オバマの経済高揚策)
2009年にオバマ大統領が就任した際に行われた、Stimulus Planはどのような効果をもたらすのかをマクロ経済学を活用して解説している
追記: 英語字幕バージョンはこちら。動画左下でSubtitleを選べます。→http://www.khanacademy.org/video/inflation---deflation-3--obama-stimulus-plan?playlist=Current+Economics
Venture Capital and Capital Market(ベンチャーキャピタルと資本市場)
Raising Money for Start-up(スタートアップのための資金調達)
こんなの、MBAでも履修しなければやらないだろう。米国でベンチャーをやりたいと思っている人たちのために、資金調達の仕方の基本を解説する。このシリーズには、IPOの仕方、ベンチャーキャピタルの投資の考え方、そして倒産の仕方まで解説がある。企業に興味がある人にはお薦め。
Biology (生物)
Parts of a Cell (細胞の組織)
たしか、私は高校の生物の最初の授業で、細胞の組織の名前をやったのを覚えている。教科書に、細胞の拡大図が載っていて、ゴルジ体とか、リボソームとか、何をやっているんだか良くわからない組織の名前を覚えさせられたものだ。
このビデオでは、細胞膜(Cellular Membrane)から始まり、細胞膜の中にDNAが出来て、その周りに核(Nucleus)が出来て・・・と生物の進化に合わせて説明してくれる。そして、DNAの周りに核があるのは真核生物(Eukariyotes)で、ないのは原核生物(Prokariyotes)だよ、と教えてくれる。ゴルジ体やリボソームなんかが、細胞の中でどんな役割を果たしてるのかも説明してくれる。こんな授業、高校一年のときに受けたかった。米国だと、大学1,2年レベル。約20分間の授業。
追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/parts-of-a-cell?playlist=Biology
DNA
DNAの解説。DNAの化学的性質、どうやってたんぱく質に転写されるか、たんぱく質が作られることで遺伝子が発現することなどを約30分の授業でカバーしてしまう。米国でも日本でも大学3年くらいのレベルだと思われる。
これ見てると、日本語でチミン、シトシンなどと習ってたDNAの塩基が、米語ではダイミン、サイドジン、などと発音するのが正しいんだと分かり、ちょっとショック。
追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/dna?playlist=Biology
Chemistry (化学)
Introduction to the Atom (原子入門)
化学の授業の最初にやる、原子とは何か、という話。そもそも原子とはどういうもので、どのような仕組みになっていて、どんな種類の原子があるのかを解説する授業。日本なら高校1年レベル、米国なら大学1年レベルでもやる。
追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択。何故か韓国語、中国語があるのに、日本語がない!→http://www.khanacademy.org/video/introduction-to-the-atom?playlist=Chemistry
Cosmology and Astronomy (宇宙論)
Big Bang Introduction (ビッグバン理論入門)
宇宙がひとつの特異点が不安定になり、爆発することで始まったという、ビッグバン理論の解説。数学出身のKhan氏だけあって、解説がやたら数学よりだ。Newtonみたいな科学雑誌のビジュアルから、ビッグバン理論に入った私から見ると、ああそういう解説の仕方もあるんだとちょっと感心したので紹介。
追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択。→ http://www.khanacademy.org/video/big-bang-introduction?playlist=Cosmology+and+Astronomy
Hubble Image of Galaxy(銀河のハッブル望遠鏡像)
おそらく、Khan氏がNASAのハッブル望遠鏡の像をみて、相当感動して作ったんじゃないかと思われる動画。写真の細かいところを拡大しても、たくさん銀河系があり、いったいこの宇宙にはどのくらい大量の銀河系が存在するんだろうと気が遠くなる。
追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/hubble-image-of-galaxies?playlist=Cosmology+and+Astronomy
History (歴史)
US History Overview 1: Jamestown and Civil War(アメリカ史1:ジェームズタウンから南北戦争)
私は歴史が好きで、高校では理系なのに世界史も勉強していたほどだったが、海外に行くようになって、外人と歴史の話をしたくても、単語が分からないから話せない、というつらい思いをたくさんしてきた。前にも書いたが、エカテリーナ女帝とかエンリケ王子とかが普通に通じなくて悲しい思いをしたこともある。だから、米国に留学したときから、何とか歴史の授業を履修しようとしていて、結局いい授業がなくて出来なかったのだが、こういう教材があれば、別に授業を受ける必要もなさそうだ。非常に面白い。
追記: 英語字幕が選べるバージョン。左下でSubtitleを選択→http://www.khanacademy.org/video/us-history-overview-1--jamestown-to-the-civil-war?playlist=History
Khan Academyのビデオ教材は、2011年12月現在で2,700本もある。だから実際にサイトを訪れて、自分が興味のある授業を選んで勉強するのが非常に良いと思う。どなたかもTwitterでつぶやいてくださったが、あくまでも英語は、何か新しいことを勉強するための手段に過ぎない。手段として英語を活用しているうちに、本当に英語力というものがついてくるようになるものだと思う。