〈第三項〉論で読む近代小説  ◆田中実の文学講座◆

近代小説の読みに革命を起こす〈第三項〉論とは?
あなたの世界像が壊れます!

村上春樹の「地下二階」から近代小説・童話に向けて

2020-09-11 14:08:19 | 日記
村上春樹が自分の小説を解説する際、彼はどう解説・説明しているか、
これを前回論じました。
敢えて、復習をします。我慢してお読みくださると嬉しいです。
実は、すぐに中学の教材『高瀬舟』の読みの肝、
〈近代小説〉の「構造分析」を具体的にお見せしたいのですが、自分でも我慢しています。

作者である村上の中には自分の意識の下に無意識が隠れている、
これをえぐり出していくのみでは足りない、
えぐり出された無意識の領域の外部、虚空まで抱え込んでいたのです。
村上文学はその虚空=「void」を、
作中の主人公にして視点人物に抱え込ませていたのです。
だから主人公は「壁抜け」だの、月が二つある世界だのを行き来してしまう、
これが描かれることを言いました。
あまんきみこの童話も同様です。
そして実は、そこに近代小説の神髄があるのです。
しかし、それがなぜか大変に分かりにくいし、捉えにくい。
いや、当然です。

それはなぜかと言えば、そこには世界観の転換、
座標軸の転換、時空・次元を超える表現の飛躍が隠れているからです。
それは読者共同体の世界観の常識に反しているのですから、分かりにくいのは当然です。
しかし、そに〈近代小説・童話〉の魅力の源泉が隠れています。
そこに読むことの秘密の鍵である〈読み〉の秘鑰(ひやく)があります。
その秘密の扉を少しづつ、開けていきましょう。
何年もかかるかと思われますが。世界観認識の転換が要求されています。
実は、それは「ポストモダン」、「ポスト真実」と呼ばれている
二十世紀後半から世紀末の世界観の転換の問題でもありました。


読みの問題、「読むことを読む」を問題にしましょう。そこには具体的には何が待っているか。
先に述べた例で、まず、言っておきます。
あまんきみこの童話『おにたのぼうし』なら、女の子の家は極めて貧しく、
女の子は結果的におにたを自殺に追い込んで、
おにたが変身した黒い豆を「おにはそと」と豆まきをします。
お母さんのためですが、おにたを自殺に追い込んだことなど、当人は全く知りません。
おにたの女の子への知られざる愛、その献身の悲しさ、その深さ、
犠牲の大きすぎるその愛を読み取ることがこの童話の言い知れない魅力です。
女の子の母への愛は結果としておにたに対しての無自覚の罪を作っています。

当人は知らなくても罪は生まれます。それがどう働くかは、ここには書かれていません。
あまんきみこの童話は無意識の罪を雄弁に語っています。
ここには世界観の転換はなくても理解できます。
しかし、ポイントは互いが相手とは、すべて、自分が捉えた相手でしかない、
このすれ違いに劇・ドラマが生まれています。
相手は自分の捉えた相手でしかない、相手そのものは捉えられません。

『白いぼうし』なら、松井さんや幼稚園児のたけお君、
彼ら人間たちはチョウである女の子を白いぼうしの中の地獄の檻(おり)に閉じ込め、
苦しめていたことを全く知りません。
人間たちはチョウを採っては楽しんでいます。
人間たちはその罪を全く自覚していません。

車を運転している松井さんはたけお君に魔法を掛けて、一人遊んでいました。
ところが〈語り手〉はその松井さんに魔法を掛けでいるのです。
チョウである女の子が仲間からの「よかったね」、「よかったよ」の喜びの声を
人間の松井さんに聴かせたのです。
実は、奇跡のごとく、〈語り手〉はチョウを採って遊ぶ人間の罪を救済していた、
だから、松井さんにチョウの声が聴こえたのです。

何故そんな魔法、マジックが可能になったのか、
それが『白いぼうし』のお話の醍醐味です。
詳しくは来年明治図書から出版される予定の出版物に書きました。
これはその予告編、宣伝広告でもあります。

しかし、肝心なことは語っておきます。
〈近代小説〉を読む要諦、ポイント、です。
『白いぼうし』に限らないこと、お話とは、語られた出来事なのです。
語られた出来事の中のお話、松井さんとチョウである女の子とは、
互いに相手は自分たちの捉えた相手でしかない、〈第三項〉である、
そこには、自分の意識を超える無意識をえぐり取って相手を捉えたとしても、
相変わらず、相手は自分の捉えた相手でしかありません。
こうしたことを抱えて、〈語り〉が現象しているのです。
〈語り〉には背理が伴います。
〈語り〉には背理を孕みます。

何故「背理」なのか。
自身が無意識までえぐり出して捉えた対象の相手でも、
所詮、相手は自分の姿に応じて現れた相手・外界でしかないからです。
この背理と格闘して初めて〈近代小説・童話〉の領域・本領が現れます。
またこれから時空を転換させて、神髄の地平が現れます。


先月に続いて今月も、以下の通り、甲府での文学講座で話をします。

テーマ    あまんきみこ童話から森鷗外『高瀬舟』を読む
講師      田中 実(都留文科大学名誉教授)
日時      2020年9月19日(土)午後2時から午後3時半
会場      山梨県立文学館
参加方法    会場での参加またはリモート参加
参加申込の締切 2020年9月18日(金)22時まで
参加費     会場参加の方は1000円

参加をご希望の方は、お名前、所属、参加方法を記入のうえ、
下記のアドレスに申し込んでください。
申し込まれた方には折り返し返信します。
dai3kou.bungaku.kyouiku@gmail.com  (担当 望月)

田中実文学講座は、10月17日(土)にも開催します。

主催   朴木(ほおのき)の会