ひろふみのブログ☆

囲碁棋士大橋拓文のオフィシャルブログです。

Master解説会のお知らせ

2017-01-16 10:33:07 | コンピューター囲碁

みなさん おはようございます。

一昨日、昨日と棋聖戦第1局が行われ河野臨挑戦者が先勝しました。

そこで話題になった手がありましたね。

(黒)井山裕太棋聖 vs (白)河野臨九段

1図 白1のブツカリ

これは今までの人間の常識では悪いとされていて、斬新すぎる新手か!とTwitterなどで話題でしたが

実はMasterがこの前打っていましたね。

2図 (白)Master vs (黒)古力九段

昨日は研究会に行ってみんなと検討しましたが、そこでは

「河野先生もMasterの意図が分かってない

と豪語するツワモノもいました。

というのは、その碁ではMasterはすぐに白3とハネており、

その時に黒△の位置が悪いから白1が良い手、という訳です。

1図上辺に何も黒石がないときのブツカリはさすがにどうなのという意見が多数でしたね。

私はといえば、数年前からコンピューター囲碁を見ていて、

実はコンピューター囲碁はプロに3、4子の時代からこのような場所はブツカリます

見慣れすぎててブツカリが斬新とは全く思わなかったという(汗)

そもそもコンピューター囲碁は部分感覚はなく、全体を常に優先するので、

人間でいう部分定石の場合は、多くの場合先手を取り大場へ先行します。

3子ぐらいの時代は、「こういう手打ってるからまだまだですね。」なんて暢気に言ってましたが

Masterが打ったらみんな真似する、みたいな。やはり実績は偉大なのか。

何はともあれ、コンピューター囲碁を観戦するときのポイントは

定石うんぬんは取り合えず置いておいて、全体がどうなってるかを見る事です。

たとえば白石勇一六段も取り上げていたこの場面。

3図 黒2のノゾキ! (黒2で黒A白Bの交換の後、黒2とノゾいた碁もあります。)

この時に「白1と一間に受けたら黒2とノゾきが良い手」と丸暗記してしまうとひどい目に合うでしょう。

注目すべきは左下の△の配置です。

4図 黒1カケが絶好

二十数手後の進行ですが、黒1カケが絶好点です。

白△と白2からの左辺の石が凝り形と言っているようです。

恐らくMasterの内部では黒AやBと打つ必要はなく、

黒1とカケられれば、だいたい黒優勢と判断しているのでしょう。

そして黒1に回る公算が高いと見切って3図黒2のノゾキを打ってるはずです。

このような右下一帯が模様の碁になれば

左上△のノゾキもシチョウアタリなどで働く可能性もあり、利かしかもしれません。

さて、そこでお知らせです。

1月22日、29日(日)13時~15時 日本棋院でMasterの解説会を行います。

解説は王銘琬九段マイケル・レドモンド九段の三人です。

参加費は無料!新聞の号外みたいなイメージですね

会場の広さにも限りがありますので、早めの来場をおススメします。

では最後におまけの図を一つ。

5図 極論すれば、白A黒BとなってMasterは形勢有利と喜んでるかもしれません。

私見ですが白1とこちらの位を優先するのが良いのではないでしょうか?

↑こんな感じの意見を解説会ではしゃべる予定です。

常識が破壊されるかもしれませんがぜひいらして下さいm(_ _)m

 

 

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Masterの正体

2017-01-08 23:50:12 | コンピューター囲碁

皆さんすでにご存知だと思いますが、年末年始囲碁界を賑わせた

Masterの正体はAlphaGoの進化バージョンでした。

結局「東洋囲碁」で30連勝「野狐囲碁」で30連勝

合わせて60連勝無敗、しかも相手のほとんどが世界のトップ棋士という前代未聞の記録です。

その後、ディープマインドのCEOデミス・ハサビス氏はコメントを発表。

この60局は非公式の公開テストで、また今年中に公式のイベントをするそうです。

一体これ以上の驚きがどこにあるのかという感じですが

そこは楽しみに待つよりしょうがないですね。

持ち時間を長くすることは間違いないと思いますが、トップ棋士の相談碁や打ち込み制も考えられるでしょう。

この60局はほとんど1手30秒の早碁でした。人間はもうちょっと考えればミスを減らすことが出来るでしょう。

もっともAlphaGoも更に正確になると思いますので、時間を長くした方が人間に有利!とは言い切れません。

いくつかのインタビューも受けました。

こちらはJcastの記事です。

勝率は60分の1以下で、この60局の中で優勢になった局面は無かったと思われます。

そう考えると大きく見積もっても勝率は1%でしょう。

 1月22日と29日は日本棋院でMaster=AlphaGoの解説会を行います。時間は午後1時から、詳細は追ってまた告知します。

また碁ワールドで連載中の「IGOサイエンス」でも3月号(2月中旬発売)から詳しく解説する運びとなっています。

今回のMasterの驚くべきところは、従来の囲碁AIの弱点と言われていたところが、ものの見事に解決しています。

例えば、死活、攻め合い、正確さが必要な長手順の読み、左右両側から絡めるような複雑な手順、コウなどです。

コウの場合はコウ材作りまでやってるように見えました。

それに加えて・・・

従来の囲碁AIは人間の棋譜から学習しており、部分的な新手は少なめでしたが、

Masterは独創的な手を序盤から繰り出しています。

このようにいくつか書き出してみると、2016年のAlphaGoからも格段の進歩ですね。

何かもう一つブレイクスルーがあったのではないでしょうか?

私の予想としては人間の棋譜学習の次の段階で、AlphaGo自身の強化学習がかなり成功したのではないかと思っています。

せっかくなので一つだけMasterの手を紹介しましょう。

1図 黒がMasterです。白10まで何気ない布石です。ここで人間はほとんどの場合Aと打ってきました。

しかしMasterは多くの場合手抜きするようです。人間の棋譜学習の延長でここを手抜きするようになるのでしょうか?

2図 続いて下辺に布陣します。黒3、5も好きな打ち方のようです。

そして白8を待って黒9、11が得意です。1図6、8、10が低位置なのでさほど攻めは厳しくないということでしょうか。

何局か見ましたが、右上隅が一段落する頃には黒が優勢になっているのが不思議です。

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Master翻訳

2017-01-04 20:43:07 | コンピューター囲碁

昨日はMasterの嵐と題して、その猛威を観賞しましたが、

手を拱いているだけではあれなので、人間なりに囲碁AIの手を翻訳してみたいと思います。

まずは柯潔九段との碁です。

Master(白)vs潜伏〔柯潔九段〕(黒)

1図 ここで柯潔九段は黒1と打ちましたが、実はこの手は中国AI刑天との対局で実験済みでしたね。

悪くない感触があったのでMaster戦でも採用したのでしょう。刑天は白Aと打ちましたが、Masterは白2。

2図 その後は白4、6と縦横無尽のサバキです。

では朴廷桓九段との碁を見てみましょう。

Master(白)vs  maker〔朴廷桓九段〕(黒)

3図 以前の記事でも紹介しましたが、やはり白1。

AlphaGoの自己対戦では白Aの碁が紹介されています。

その対局では4図 続いてこのような進行でした。

5図 実戦ではこのようになりました。雰囲気は似ていますが

  4図白11よりも5図白7の方が石が中央に向かって躍動していて好ましいかもしれません。

MasterはAlphaGoという噂がありますが・・・4図の自己対戦は2016年2月末の棋譜です。

柯潔九段の1図黒1など中国流周辺はAlphaGo登場以来また改めて研究されるようになった背景があります。

しかしもしMasterがAlphaGoの進化系だったとしたら・・・10ヶ月前の棋譜の研究で対抗するのは厳しいですね

3図の時点で狭い小目周辺に入るのは人間には気づきにくいですが、その辺りが地になるかどうかが勝率と密接な関係があるのでしょう。

他にMasterがよく打つ形も紹介します。

6図 黒2までは人間の定石にありますが、Masterは白3からもりもり隅を地にします。

李世ドル九段の碁で白3を見たように記憶していますが、他に採用した人間はほとんどいませんでした。

7図 このような配石でも白3と打ちました。黒は6と単に切った碁もありました。

8図 普通の定石はこれ(白7でAもある)ですが、Zenもこれは打たないですね。白5で他の手を打つことが多かったはずです。

よくよく見れば白5は白△とサカレ形です。

普段、サカレ形はいけないと教えているのに、これに疑問を持たなかった自分が不思議ですね。言われてみれば確かに白5は良くなさそうです。

6図~8図ではどれもサカレ形風になってしまいますが、6、7図は白の先手なのが大きいですね。

もう一つだけ、面白いと思った場面を。

9図 なんでもないことですが、黒1の小ゲイマジマリがプチニュースでした。

それまでは黒A、もしくはBを打ってからAが多く、違う配石でも大ゲイマがほとんどで小ゲイマは少なかったのです。

しかしよく考えてみると、100万局単位で自己対戦するコンピューターにとって

「3局連続で2間にしまったから2間が良いと思ってる」なんて理屈は通用しません。

3万局ぐらい連続だったら信憑性が出てきますが・・・・

同じ局面でも違う手を打つことは多々ありますので、盲信しないで見ることが大切です。

しかし、方向性だけは掴んだ方が良いというのが現時点での私の考えです。

例えば1図、3図のような中国流の局面では小目から上辺にかけてがメインの戦場と認識しているんだな、とか9図でも小目近辺が大事なのかな

という感じです。

昨日の対局でMasterは50連勝。50連勝で正体を明かすかと思いきや

今日も普通に対局しています。

これは100までやるつもりでしょうか?

まだまだ目が離せませんね。

 

 

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謹賀新年&囲碁AI

2017-01-02 15:55:55 | コンピューター囲碁

皆様、明けましておめでとうございます。

本年もどうぞよろしくお願いいたします。

さて早速ですが、最近になり各インターネット囲碁サイトに次々と超絶囲碁AIが現れていますね。

さすがにこれはリサーチしないといけない!ということで新年一発目から囲碁AIブログです。

まずはYahooニュースのトップにもなった「GodMoves」

KGSに11月29日、12月1日だけ現れて3局の棋譜があります。

正体不明でAIという確証はありませんが、1局を通しての消費時間が7分弱

Zenに3戦3勝しています。

そして何よりその棋譜が斬新。

全てGodMovesの黒番でした。

1図 1局目、横向きに中国流を構えたことからAlphaGoではという噂になりました。乱戦の末、黒が勝ち。

2図 2局目 1手目天元から!しかしその後は普通に進行。黒9の肩ツキにZenも白16とお返しの肩ツキ。

囲碁AIは肩ツキが大好きです。結果は黒の圧勝。中国流より1手目天元の方があっさり勝ったように見えたのが不思議です。

3図 3局目 ナナなんと黒1、3の天元1間ジマリ しかも黒15から白16ツケに手抜きで黒17と裏からツメ

4図 (白1~黒24、通算18~41)

続いて当然白1ですが、自然な流れで下辺が黒地っぽくなりました。

そして大好きな肩ツキ黒18。黒24のリズムもよく天元1間ジマリも良い位置で黒好調です。

結果これも黒の完勝。ちなみにZenは趙治勲名誉名人と打ったバージョンとほぼ一緒でKGSでは約9割の勝率を記録しています。

置き碁やコミなしの先も含んでの勝率9割ですから、互先では滅多に負けていませんでした。

GodMovesはAIなのか

消費時間や肩ツキが好きなところはAIのようですが、天元1間ジマリを囲碁AIがやるかどうかは疑問という意見もあり

私見では最初の数手だけは人間の意志が入ってると思いましたが、結局のところ未だに正体不明です。

しかしこれは2016年大晦日から2017年の元旦囲碁AI祭りの序章にすぎませんでした。

最近ネット囲碁サイトでは中国発の野狐囲碁が盛んですが、そこにも囲碁AIがいます。

世界最大のゲーム会社テンセントが開発したもので「絶芸」「刑天」という二つが確認されています。

「絶芸」は11月29日夜の対局を最後に現れていません。これを書いていて気づきましたが

絶芸が消えた日とGodMovesが出現した日が一緒ですね

一見すると時間が一緒のようにも見えましたが、アジアの時間とGMTなので出現時間はかぶってないはずです。

現在は12月27日に現れた「刑天」がよく対局しています。

刑天と絶芸が違うソフトなのか、同じソフトをアップグレードしたものかは分かりません。

序盤のパターンは非常によく似ていますが、テンセントが開発している囲碁AIは複数あるとの情報もあります。

野狐囲碁のIDはハンドルネームの下に実名が書いてあり、世界のトッププレーヤーは名前バレしてる状態で刑天と対局しています。

観戦者数は毎局2000人超です。

世界のトッププレイヤーが束になって襲い掛かっていますが、刑天は20局打って勝率は8割です。

5図 刑天(黒)vs潜伏〔柯潔九段〕(白)

黒1から3が人間には気がつきにくいかと思いましたが、よく見ると棋理に適っています。

地を気にして右辺に目がいってしまいますが

まず弱い石を繋げて中央のラインを作るのが良いのですね。なるほど。

そして黒3と打ち俄かに中央が黒っぽいです。続いて

6図 白4と反発しましたが、黒23までいつの間にか攻勢に立っています。結果は黒の勝ちでした。

この全体感覚が非常に勉強になります。

一方でどういう碁のときに刑天が負けてるかというと

7図 刑天(黒)vs潜伏〔柯潔九段〕(白) 白Aと打ったところです。白△と黒□の攻め合いはどうなってるのでしょうか?

8図 ご覧のように白の1手勝ちです。

この碁は99%白の勝ちでしたが、回線が切れてしまって黒の勝ち

柯潔九段もネットで悔しがっていたとか。しかし内容は白の圧勝でしたね

この他にも柯潔九段は刑天に勝っており、全局的な乱戦から死活の勝負にしてるのが特徴です。

もともと囲碁を打つ囲碁ソフト(詰碁用ではない囲碁AIのこと)は死活が苦手と言われています。

ですが、最近は学習が急ピッチで進んでおり、その弱点も隠れていました。

しかしやはり、序盤に比べて相対的には少し弱く、全局的な戦いに持ち込めれば、人間にもチャンスがありそうです。

尚、「刑天」とは古代中国の神の名だそうです。

前置きが長くなりましたがここからが本題です(笑)

最初に少し触れたZenですが、KGSから東洋囲碁に引越しDEEPZENとして対局しています。

100局以上打ち、勝率は約9割。

これは1年前から考えれば驚異の進歩ですが、それが霞むほどの打ち手が突如として東洋囲碁に現れました。

その名は「Master」東洋囲碁で30連勝を記録し元日からは野狐で打っていますが、世界チャンピオン経験者に5連勝。

未だに負けなしです

出てきた当初は韓国のAIという説がありましたが

野狐で世界チャンピオン経験者にしかつかない金の冠マークがあることからAlphaGoとも噂されています。

では少し打ち方を見てみましょう。

9図~12図 Master黒番の布石です。

9図 黒番の場合、この布石は非常に多いです。白4の小目に対しては見た限りでは黒5の大ゲイマジマリですね。

黒21、23のスピーディーな手法も頷けます。

10図 白4が星の場合は黒5の2間高ジマリ。そして大好きな肩ツキ黒7!これも複数局打たれています。

11図 現在(1月2日日本時間15時半)進行中の碁も似たパターン。黒29といきなり三々に入るのも好きなようです。

12図 同じくすぐ三々に入った例。なるほど、星に接する両辺がほぼ等価の場合は三々に入るのか、打たれてみれば理に適っている・・・

13図 白番の布石も見てみましょう。肩ツキが好きなのは知ってましたが、ここまで大好きとは・・

白10、16、20と3回打ちましたね。

14図 ツケの運用も目立ちます。白18。同じような例がいくつかありますので他も紹介します。

15図 なんと大ゲイマジマリにツケ。しかし実はこの様な手は、私は囲碁クエスト13路でAyaZにたくさん打たれています。

凝り形に導くようにすぐツケる手がAIは得意ですね。13路と19路では少し性質が違うかとも思ってましたが、これを見ると真理は近いのか・・・

16図 AlphaGoの自己対戦で有名な白1のツケと雰囲気が似ていますね。実は全く同じ局面が現れ、Masterはどう打ったかと言うと・・・

17図 Masterは白1と入り、道策を彷彿とさせる打ち回しです。

大分長くなりましたが、2017年早々囲碁AIから目が離せない展開です。

囲碁AIは寝ないで打てるので追いかけるのが大変ですが、全力でリサーチしようと思います。

リアルタイム情報はツイッターの方が速いのでそちらもよろしくお願いします。

それでは今日はこの辺で。また会いましょう

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