おぉきに。

気が向いたら読書感想を書き、ねこに癒され、ありがとうと言える日々を過ごしたい。

有栖川先生講演会「読む喜び、書く楽しみ」3

2014-01-27 03:32:44 | イベントレポ
(承前)それまでは割りと目立ってる方だったんですが。小学校の頃、新聞部で新聞必死に作ってました。公害問題とか、保健所にアポ取って取材しに行ったりテープ起こししたり、町の人にアンケートとったり、たわいもないことを質問してたんですけどそれでもそんな感じで。
ところが、中学生になって、人前に出るのが嫌になったんです。人嫌いというか不安定で、暗くなった。
環境が変わって馴染めないこともあったし、自分のことをしょうもないと思うようになって、自己嫌悪しました。

本は読むんです。文庫本を。それまでは子供向きのを読んでたんですが。文庫本を「これくらいなら読めるわ」と。
海外の推理小説を読み始めて、面白くてね。
一秒でも早く、家に帰って読みたかった。
だいたい、学校から帰るのって5時くらいですかね、で晩御飯がだいたい7時くらい、その6時7時のあいだ部屋に篭ってひたすら読む。
すると、小説家になりたい、という動機も変わってくるんです。小説家なら毎日会社に勤めなくてもいい、人に会わなくてもいい、書いて送ればいい。
だから小説家にならなければいけない、と思うように。
でなかったら、会社に勤めに出なければならない、そう考えただけでゾッとしました。どんどん重くなっていって。
対人関係に強くないのは別に珍しいことでもないんですけどね。

虚構の世界に現実逃避して、読んで書いて。フィクションには、こんなに良くできたものがある、胸のすくものがある、遠いところに連れて行ってくれる。逃避ですね。
書く方も真剣になりました。バリバリ書いてました。
ここに当時作った本があるんですが(これまたお宝物の、世界に一冊しかない先生の自家版が!)、手書きなんですが、二段組で146ページ、150~200枚ですね、現場の見取り図もあります。

そのおかげで、今があります。逃げ込んだ先がミステリで良かった。
推理小説は、書くことに癒しの作用があるんです。心理学的には箱庭療法ですね。
箱庭の中に様式美がある。こんな景色にして…と、混沌から秩序が回復するんです。鎮静効果があります。落ち着くんですね。
推理小説は独りよがりはしにくいんです。テクニカルな要素が多い。
堅牢な密室状態を作っても、これ解けるのか?と自分でツッこむ。
先行作品に似てるか?書いてて分かってしまうんですね。

詩を書くとアブなかったでしょうね。詩は、自分で書いたものを「すばらしい」と思える気がするんです。
推理小説は、まだまだでしたから。
警察機構のこともよく知らないし、ほかにも知らないことはたくさんあって、もっとがんばって技術を磨かないと。読まないとって。
自分を甘やかせないんです。
ファンタジーだったらアブなかったでしょうね(笑)
魔法の大陸とか出てきたり。
推理小説に魔法が出てこないのが大好きです。ミステリは魔法をぜったいに許さないですから。現実しか許さない。
どこまでいっても、人間は人間。現実は現実。クールなんです。
だから私、魔法が出てくるミステリは嫌いです。
幽霊は居てほしいですよ。私自身、幽霊が出てくるミステリ書いてますし(笑)
会いたい人がいるけど、会えない。
天才的な探偵はいいんです。現実は時として幻想を見せる。

15歳、中三のときに江戸川乱歩賞に応募しました。高校受験は?(笑)受験はクラスメイトに任せて、自分にはこれしかない、と。
360枚。
もちろん、子供の書いた冗談みたいなものですから、落ちました。
当時の〈幻影城〉の新人賞に応募したのが16歳で、短編でした。落ちましたけど。
高校・大学と、サークルに入って朗読したり書き続けて、21歳の時に、それまでに書いてたものを書き直して、〈小説推理〉に応募しました。
社会人になって、26歳のときに、江戸川乱歩賞に応募しました。そろそろ本気で書かないとやばいと。作家になりたい一心で。

ところで私、デビューがちょっと変わってまして、中学生くらいから、鮎川哲也先生の大ファンで、日本で一番好きな作家さんで、ファンレター書いて返事が届いてまた手紙書いて出して…と文通状態でした。
大学を出たときに、先生から「文庫の解説を書いてみないか」と言われたりして。
そこで、落選した乱歩賞に応募したものを読んでもらったんです。
すると先生が、ほかの編集の人に読んでもらおうと言ってくださって、いろんな編集さんに読んでもらって、四番目くらいに読んでくれた編集さんが、「この人に会って話がしたい」と言ってくれてデビューに繋がりました。

今年でデビューして……25年になります。
本が好きで、小説か好きで、文章が好きで、お話をつくるのが好き。
読むことと書くことが絡まったようになってます。
小学生のときは遊びみたいだったのが、中学生の不安定を支えてもらって、コツコツ頑張るしかない、と。諦めなければ目標はそこにあるから。
本を出すのは、その人の力ももちろんあるし、運というのもあります。運の要素に恵まれたんですね。振り返るとしみじみします。
小説、本というものに感謝しています。楽しい時間をすごしましたし。書いてみたい、好きだと思った対象(小説)が、自分を引っ張り出してくれた。
閉じこもって読んで書いてだけじゃなかったなと。
引きこもってたら書かないですよ。
小説というのは、誰かに読んでもらって完成するんです。
だから、人に会いたい。不安だし怖いけど、書けばこれを読んでもらえるから。
友達や、サークルの先輩後輩や、鮎川先生、そんな出会いがあったから。

図書館での講演ということで、図書館についても。
本を読むということを、悪く言う人はいないですよね。昔はあったらしいけど。隠れて本を読んだりとか。
読むことで見聞を広められる、経験させてくれる。
私は本に感謝しているし、救われました。
でも、本は万能じゃないんですよね。
自分と同じ考え方の本ばかり読んでいたのでは、考え方が狭くなる。
最近、そうして自分が小さくなっている人がいるように思います。
(値段が)高い本って買う気しないでしょう?図書館なら借りて読もうと思う。
この人の意見を聞いてみよう。
何か気づかせてくれるかもしれない。
予想がつくものばかり読まないほうがいいです。

作家が亡くなると、書店からその作家の本って消えるじゃないですか。
名作は残りますけど。
だいたい、好きな作家は?と聞いて答えるのって、生きてる作家ですよね。現役で、新作が読める作家。
私、いっとき、生きてる人のを読まなかったんです。
もういない人の本を読むのが醍醐味というか、すごいことだな、と。
この世に居ない人が書き残したいい本があるから、本を読む喜びが何割増しかになります。

良い本との出会いがありますように。


ここで一時間。続いて質疑応答です。もうちょっとですよー。


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。