ミケの雑記帳

グ~タラしたい毎日

ある日曜日 ~6年越しの想い~

2009年11月27日 19時43分20秒 | 物語
気付いたら好きになっていた。
高校の時は話すらまともにしたことなかったけど、大学で同じサークルに入ってすごく仲良くなった。
それこそ周りから「付き合ってんじゃないのか?」って言われるぐらい。
実際にはそんなことはなかったし、別に彼女にしたいとは思わなかった。
とにかく一緒にいるのが楽しかった。
だから大学を卒業しても連絡を取り合ってよく遊んだ。
色んな話をした。
お互いの近況、下らない話、仕事の話、悩みや恋愛事。
色んな所へ行った。
お互いの実家のある地元やナオのいる京都、他にも大阪や滋賀。
そしたら、いつの間にかナオが心の中にいた。
でも、異性としての意識はほとんどない。
告白した今ですら「こいつと男と女の関係なんて考えられん」とか思ってる。
今までの恋愛のように情熱的な感じはしない。
燃え上がる炎じゃなくて、熾火のように柔らかく暖かな火って感じ。
相手を強く求めてはなくて、ただただ一緒に居たいだけ。
一緒に居て幸せにしたい。
気付けば合う度にそう思うようになっていた。
とは言え、俺のこんな胸の内を上手く伝える術は持ち合わせてなくて、それでかなりぶっきら棒な告白になってしまった訳で・・・。
そして、それにナオも好きだと言ってくれた訳で・・・。

「え?お前俺のことずっと好きだったの?」
「うん、そだよ~」
酔いで緊張感があまり無い。
「ずっとって、・・・それじゃあ今まで言い寄ってきた男全員振ってたのって俺がいたから!?」
「そ~だよ~。こ~んなに思い続けてたのにぜ~んぜん気付いてくんないだも~ん。いい加減待ちくたびれそうだったよ~」
真剣な話の筈なのに、酔った口調だからこっちも真面目になりにくいぞ。
「なのにさ~、シノったらいろんな女の子と付き合うんだも~ん。いつも笑ってたけど心の中じゃあすっごく怒ってたんだからね~。怒り心頭ぉ~。プンプン!」
「いや、付き合ってもすぐ別れてたし。言うほど数付き合っちゃいないぞ。あと、プンプンはさすがにイタい」
付き合ったことあるのは3人。
しかもキス前でサヨナラされてるし。
最短記録は3日。
付き合うまでに費やした時間は1年。
さすがにショックすぎて、以後恋愛をやめたね。
「あ、そう言えば3日で別れたことあったよね?悪いけどあれは笑ったなぁ~。笑い過ぎて次の日筋肉痛だったもん。アッハッハッハッハ~」
「やめてくれ。アレは苦過ぎて思い出す度に死ぬほどヘコむ」
ちょっと気持ちがブルーになってきたわ。
「ンフフフフ。・・・あの後、誰とも付き合わないって言ってたよね?そんなにショックだったの?」
「いや、何かあれだけやってすぐに別れたもんだから、恋愛頑張るのが馬鹿らしくなってさ。皆でワイワイ楽しくやるのが一番だって思ってね」
「ふ~ん。じゃあ、あれからずっと恋してないのに、今回わたしを好きになっっちゃったと?」
「まぁ、そうだけど・・・。でも、恋ってのとはちょっと違う気がする。うまく言えないんだけど・・・」
「何それ?それって本当にわたしのこと好きって言えるのぉ?」
「いや、それはちゃんと、その、す、好きなのは確かだよ」
「本当にぃ?」
う~、告白した側なのに完全にペース握られてる。
「本当だって!ただ、男と女の関係っていうんじゃなくて、何つ~か、ただただずっと一緒に居れたらいいなっていうか・・・」
「ふぅ~ん」
くっ、何だこの変な状況。
いっそ振られた方が気が楽なんじゃないか?
「ま、これ以上いじめちゃかわいそうだね。さっきも言ったとおり、わたしもシノのこと好きだよ。ずっと前から」
「そうだ。ずっと前っていつからだよ?そんな素振り見せてなかっただろ?」
「気付かなかったでしょぉ。わたし演技派だから」
もし今も演技続けてるんだったら、相当俺遊ばれてる状態だな。
「はぁ。で、いつからか教えてくんないかな?全く分からないから」
「本当に教えて欲しい?」
「あぁ、知りたい」
ふっと、今まで酔った感じのナオの顔が真剣なものになった。
「ふ~。じゃあ思い切って言うね。途中でちゃちゃ入れずにちゃんと聞いてよ」
少し背筋を伸ばしちょっと遠くを見ながらナオは話し始めた。
「最初は・・・」

始まりは6年前だった。
高校3年の夏休み。
俺らが通ってた高校は2年と3年の間にはクラス替えが無い。
だから3年の時のクラス内の団結力なんかは自然と良くなる。
それは、一学期の終わりにクラスのリーダー的存在だった坂倉(♂)が提案したことだった。
「大学受験が本格化する前にさ、夏休みを利用して海に泊りがけで遊びに行かないか?」
夏休みとは言え、受験勉強には大事な時期。
クラス全員が参加、とはいかなかった。
それでも男女合わせて20人近くが集まった。
その中に俺とナオもいた。
それが最初の話。

「高校3年の夏に海行ったことあったよね?クラスの皆とさ」
「あぁ、憶えてるよ。結構楽しかったから。言いだしっぺの坂倉が風邪ひいて不参加だったのが一番面白かったなぁ」
「うん、あれは笑えた」
2人して思い出し笑い。
そして、海への一泊旅行であったことを少し話した。
晴れてよかったとか、海がキレイだったとか、水着を見る男共の視線がちょっといやらしかったとか・・・。
「あの時さ、わたし達と何人かで海見ながら夜明かししたよね?」
「おかげで帰り自転車こいでたら眠気でフラフラして電信柱にぶつかった」
ナオは一旦言葉を止めた。
俺の顔を一度見て、また視線を遠くへ戻し、意を決したような顔つきで話を再開した。
「同じ月を見て一緒に明かした夜を忘れない。今日と同じ星空を見る度に皆のことを思い出そう。そして、どれだけ年月が流れても同じ日の下で再び会おう」
いきなり何を言い出したのか分からなかった。
小説か何かからの抜粋だろうか?
「憶えてないの?シノが言ったんだよ、今の言葉」
言われて思い出した。
その当時あまり喋らなかった俺が海旅行に参加したもんだから、夜が明けた時に今の感想を言えって皆から言われて已む無く言った言葉だ。
自分でも何で格好つけて言ったのか分からない。
とりあえず皆が引いてた。
あまりにも恥ずかしくなって叫びながら海に飛び込んだんだ。
って、今思い出しても恥ずかしい言葉だぞ。
「お、憶えてたんだ。同窓会で話に上らなかったから忘れたか各々の記憶の中で処理してたのかと思ってたよ」
「忘れないよ!」
突然ナオは大きめの声を上げたからちょっとビックリした。
「わたしは忘れないよ。皆はどうか分からないけど、あの言葉にわたし感動したもん。それからだから、シノのことが気になりだしたのは」
ナオ曰く、普段口を開くことの少ない俺があんな小説みたいなことを言うとは思ってなかったらしく、すごく印象に残ってたらしい。
「とにかく、それが最初。それから会う度にシノの事が何か気になるようになってた。気付けば目で追ってた。多分、自分でも気付かないうちにシノに惹かれてたんだと思う」
「でも、その時はまだそこまで俺のこと思ってたわけじゃないだろ?」
「鈍感」
「はぁ?」
「だから、最初はただ気になるだけだったけど、自然と好きになってたの!恋は理屈じゃないんだからね!もう!」
ちょっと怒ってるような恥ずかしそうな顔をしてナオは言った。
「本当はバレンタイのチョコだって手渡ししたかったんだよ。でも、受験で忙しかったし、あの頃シノ全然学校来なかったし」
「いや、あの時期に学校行ったってしょうがないだろ?」
「それは、・・・そうなんだけどさ。それで、結局どこの大学行ったかも分からず仕舞いでさ。あぁ、わたしの恋は卒業とともに終わったんだなって思ってたの!でも、大学に入ってサークル見に行ったらシノがそこにいたの。何か驚きとうれしさで意識飛びそうになっちゃったよ」
はにかみながらナオは言う。
「運命ってあるんだなぁって思った。学問の神様も恋の神様もわたしに味方してくれたと思ったよね。でもさ~、シノはわたしのこと全然女として見てくれなかったよね。挙句には違う子とくっつくし。告白断り続けてたわたしは自分が馬鹿らしく思えたけど、編に意地になって、シノが告白してくるまで絶対誰とも付き合ってやるもんかって決めたの」
「えと、俺が告白しなきゃどうするつもりだったの?」
「還暦過ぎて孤独死」
俺ってあなたの人生左右するような存在なの?
「でも、もういいや。こうやってシノもわたしのこと好きになって告白してくれたしさ。全部水に流す。あ~、良かった。卒業しても連絡とって無理やり遊んでたのが無駄にならなかったよ。ねぇ?」
「俺に同意を求めるなよ」
ってか、どれだけ俺に固執してるんだよ。
もう、そういうところが可愛いんだよ。
「シノの方はどうなの?いつからわたしを好きになったの?」
「あれ?さっき知ってたって言わなかったか?」
「ん?あぁ、私が好きなんだから絶対シノもわたしを好きになるって決め付けてたからああいう風に言っただけ」
かなり熱烈な思い込みですな。
「俺は卒業してこっち戻ってきた後だよ。謀らずも、お前の卒業後の執念が実を結んだって感じだ」
「へぇ~。じゃあ、どうしてわたしを好きになった?」
「知らん。気付けば好きになってた。ってか、一緒にいて一番落ち着くだからだと思う」
「それは光栄なことだわ」
お互いに顔は合わせず遠くを眺めていた。
ここで互いの言葉がなくなり、沈黙が2人を包んだ。

しばらく静寂が続いた。
初夏とはいえ、夜が深まれば肌寒くなる。
ナオは薄着だ。
俺は上着をナオにかけた。
「ん、ありがと」
俯きかげんでお礼を言われた。
また沈黙が訪れる。
たまに走り抜けていく車の音。
吹き抜ける風。
周りのカップルの愛の囁き。
そして、俺達の息遣い。
・・・俺は心を決めて言う。
「なぁ」
「うん?」
「キスでもしないか?」
ナオは少し驚きの表情を見せたが、すぐにはにかむような笑顔になって言った。
「いいけど、・・・言い方が気に食わない」
「キスをさせて頂けませんか?」
「堅苦し過ぎ」
この雰囲気で冗談はもうやめておこう。
「キス、しよっか」
「・・・それなら合格」
お互い顔を見つめ合う。
少しずつ顔が近付く。
口と口あふれそうになって一度離れる。
「何か緊張しちゃうね」
「あぁ、そうだな」
仕切りなおし。
少しずつ顔を近付ける。
今度はナオは目を瞑った。
そして唇と唇が触れ合う。
数秒の口付け。
長いような一瞬のような。
お互い恥ずかしさでまともに顔が見れない。
「さ~むくなってきたしそろそろ帰るかぁ」
わざと明るく言う。
「う、うん。そだね。結構遅いし」
ぎこちなく立ち上がって車まで歩く。
ふいにナオが言った。
「ねぇ、手握っていいかな?」
「あ?あぁ、いいよ。ほい」
俺は手を差し出す。
ナオは俺の手をギュッと握る。
柔らかくて仄かに温かい手。
「ねぇ、今度はもっとちゃんとしようよ」
「ん、何を?」
「キス」
「ちゃんとって・・・。キスにちゃんととかってあるの?」
「あるよ。だからさ、これからも2人で練習して上手くなろっ」
「何かそれってエロくないか?」
「いいじゃん、エロくってもさ。わ、わたし達、もう付き合ってるんだから」
「ま、そだね」
そう、これからまた少しずつ近付いていけばいい。
今までがそうだったように。
ゆっくりでいい。
俺達のペースで歩いていこう。
そして、ナオの隣にずっといよう、そう握った手に誓った。

そんな、ある日曜日

終わり。


今日の天気 
 これでこの物語はおしまいです
 今まで読んでくださった方ありがとうです
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