米大統領候補のオバマ氏は9日、遊説中のバージニア州で「豚に口紅を塗っても豚は豚だ」とマケイン陣営をこき下ろした。「いくら変化を唱えても、ブッシュ路線の継承じゃないか?」「本の表紙を替えただけで、中身は何ら変わらない」と上品に言えば良いものだが……。下品な言い回しはインパクトが強い。
マケイン陣営も黙っていない。副大統領候補のペイリン・アラスカ州知事に対する中傷だ!と謝罪を求めた。でも、マケインだって、ヒラリーの医療保険改革案を「90年代に失敗した古い案と変わらない。豚に口紅だ!」と批判している。性差別発言というより「下品なことわざ」の一種だろう。
自民党の総裁選もなかなかの厚化粧だ。5人も立候補した。初めての女性候補もいる、都知事のジュニアもいる、歌人・与謝野鉄幹・晶子の孫も、吉田茂の孫もいる。「防衛オタク」と言われるエキスパート?も加わった。
そして、彼らの「口紅」はCHANGE。でも、本当に変わるんだろうか?
バラマキ派は自民党のお家芸。上げ潮派は小渕内閣の「成長なければ再建なし」の流れ。「上げ潮」という目新しいネーミングが用意されただけ。財政再建派は「財政再建なければ成長なし」。財務省の主張と変わらない。構造改革派は「改革なくして成長なし」の小泉流。中途半端で地方は疲弊した……。おおむね「失敗の口紅」である。
1年足らずで次々に退陣する日本の首相。シンガポールのストレーツ・タイムズは「自民党の議員たちは、必要とあれば党首を代えることにためらいがなく、首相が頻繁に代わることで国際的評価が悪くなるとは思わない」と皮肉っぽく書いた。世界のメディアの目には「恥を知らない政党のボロ隠し総裁選」に映る。ボロを隠すために口紅をこれでもか、これでもか、と塗りたくる。厚化粧の陰で、参院のドンは相変わらず官僚人事にすご腕をふるい、某宗教団体のドンは政局のキャスチングボートを握りご満悦? 陰の実力者は健在である。
イギリスのフィナンシャル・タイムズは「支持基盤が弱体化した現在、党首が代わったところで、自民党から新しいマニフェストは生まれない」と断定的に書いている。
世界は冷静に見ている。国民も「ボロ隠し」に気づいているのに、テレビだけが延々と総裁選垂れ流し放送。テレビは「豚の口紅」の共犯者になってしまった。(専門編集委員)
毎日新聞 2008年9月16日 東京夕刊