わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

ご注意!「豚に口紅」

2008-09-20 | Weblog

 米大統領候補のオバマ氏は9日、遊説中のバージニア州で「豚に口紅を塗っても豚は豚だ」とマケイン陣営をこき下ろした。「いくら変化を唱えても、ブッシュ路線の継承じゃないか?」「本の表紙を替えただけで、中身は何ら変わらない」と上品に言えば良いものだが……。下品な言い回しはインパクトが強い。

 マケイン陣営も黙っていない。副大統領候補のペイリン・アラスカ州知事に対する中傷だ!と謝罪を求めた。でも、マケインだって、ヒラリーの医療保険改革案を「90年代に失敗した古い案と変わらない。豚に口紅だ!」と批判している。性差別発言というより「下品なことわざ」の一種だろう。

 自民党の総裁選もなかなかの厚化粧だ。5人も立候補した。初めての女性候補もいる、都知事のジュニアもいる、歌人・与謝野鉄幹・晶子の孫も、吉田茂の孫もいる。「防衛オタク」と言われるエキスパート?も加わった。

 そして、彼らの「口紅」はCHANGE。でも、本当に変わるんだろうか?

 バラマキ派は自民党のお家芸。上げ潮派は小渕内閣の「成長なければ再建なし」の流れ。「上げ潮」という目新しいネーミングが用意されただけ。財政再建派は「財政再建なければ成長なし」。財務省の主張と変わらない。構造改革派は「改革なくして成長なし」の小泉流。中途半端で地方は疲弊した……。おおむね「失敗の口紅」である。

 1年足らずで次々に退陣する日本の首相。シンガポールのストレーツ・タイムズは「自民党の議員たちは、必要とあれば党首を代えることにためらいがなく、首相が頻繁に代わることで国際的評価が悪くなるとは思わない」と皮肉っぽく書いた。世界のメディアの目には「恥を知らない政党のボロ隠し総裁選」に映る。ボロを隠すために口紅をこれでもか、これでもか、と塗りたくる。厚化粧の陰で、参院のドンは相変わらず官僚人事にすご腕をふるい、某宗教団体のドンは政局のキャスチングボートを握りご満悦? 陰の実力者は健在である。

 イギリスのフィナンシャル・タイムズは「支持基盤が弱体化した現在、党首が代わったところで、自民党から新しいマニフェストは生まれない」と断定的に書いている。

 世界は冷静に見ている。国民も「ボロ隠し」に気づいているのに、テレビだけが延々と総裁選垂れ流し放送。テレビは「豚の口紅」の共犯者になってしまった。(専門編集委員)





毎日新聞 2008年9月16日 東京夕刊

ゲノム情報爆発=青野由利(論説室)

2008-09-20 | Weblog

 血液一滴で、あなたの出身地をあててみせましょう。そんな占いのような話が現実になるかもしれない。

 先月、欧米の研究チームが相次いで公表した成果は驚きだった。欧州の数千人を遺伝子の個人差に応じてクラス分けすると、地理上の出身地と見事に結びついた。どの国のどのあたりの出身なのか、だまっていても遺伝子が語るということらしい。

 ヒトゲノム計画が終了して5年。一時期、ゲノム科学は停滞気味に見えたが、こうした研究を見るにつけ風向きが変わったと感じる。研究を後押ししているのは遺伝子解析装置の進化だ。

 10年以上かかったヒトゲノム計画に比べると、解読速度は100倍以上になった。DNAの二重らせん構造の発見者であるワトソン博士の全ゲノムが解読・公開されたのも技術が進んだからこそだ。

 日本でも特定の人の全ゲノム解読計画が進み始めた。産業技術総合研究所と沖縄県は1人分の全ゲノムの解読を近く開始したいという。病気の原因遺伝子の解明をめざし、個人ゲノムの解読を構想している研究チームもある。

 そこで気になるのは、膨大な遺伝子情報とどう付き合っていくかだ。すみずみまで解読した個人ゲノムのプライバシーは果たして従来の匿名化で守れるのか。血縁者に影響が及ばないか。改めて考えてみる必要がある。

 遺伝子から出身地を占うことはアジアでも日本国内でも原理的には可能だろう。ルーツ探しは楽しそうだが、犯罪捜査などに無制限に使えるとなるとどうか。新ゲノム時代に無関心ではいられない。






毎日新聞 2008年9月20日 0時01分

ちょっと物言い=福本容子(経済部)

2008-09-20 | Weblog

 新聞記者が記事を捏造(ねつぞう)し、それが発覚したら、普通は記者生命を失うと思われる。

 彼の場合は違った。英タイムズ紙の新人時代に専門家の発言をでっち上げてクビになるが、デーリー・テレグラフ紙に拾われ、欧州特派員、政治コラムニストに起用される。その後、保守党から国会議員に当選した彼は、今春、ロンドン市長になった。

 北京五輪閉会式で大会旗を手渡され満足顔だったボリス・ジョンソンさん(44)だ。オックスフォード大出のインテリだが、失言放言やスキャンダルが絶えない。それでも、機知に富んだ文章、際どいユーモアのある痛快さが人気を集め、ジャーナリスト、コラムニストとして大成した。

 若きジョンソンさんに才能を見いだし、もう一度チャンスをあげよう、とテレグラフ紙に雇った当時の編集長の賭けは吉と出たようだ。

 大麻問題でロシア出身の3力士が解雇され、この話を思い出した。20歳の元若ノ鵬は「日本のみなさん、すいませんでした。まじめにやります。許してください」と復帰を求めたが、解雇されたら二度と戻れないのが日本相撲協会のルールだという。

 大麻はもちろんよくないし厳しさで対処するのも一つのやり方だろう。けれど、もう一度チャンスをあげて育てた力士が、いつか横綱なんかに昇進して、テレビの解説者が「一時は大麻でどうなるかと心配されましたが、実に見事な横綱です」とか言うのを聞くのもきっといいはずだ。

 角界に限らず、若者の過ちを温かく包み込む力の薄れが、世の中を生きづらくしている気がしてならない。




毎日新聞 2008年9月19日 0時03分