新聞記者が記事を捏造(ねつぞう)し、それが発覚したら、普通は記者生命を失うと思われる。
彼の場合は違った。英タイムズ紙の新人時代に専門家の発言をでっち上げてクビになるが、デーリー・テレグラフ紙に拾われ、欧州特派員、政治コラムニストに起用される。その後、保守党から国会議員に当選した彼は、今春、ロンドン市長になった。
北京五輪閉会式で大会旗を手渡され満足顔だったボリス・ジョンソンさん(44)だ。オックスフォード大出のインテリだが、失言放言やスキャンダルが絶えない。それでも、機知に富んだ文章、際どいユーモアのある痛快さが人気を集め、ジャーナリスト、コラムニストとして大成した。
若きジョンソンさんに才能を見いだし、もう一度チャンスをあげよう、とテレグラフ紙に雇った当時の編集長の賭けは吉と出たようだ。
大麻問題でロシア出身の3力士が解雇され、この話を思い出した。20歳の元若ノ鵬は「日本のみなさん、すいませんでした。まじめにやります。許してください」と復帰を求めたが、解雇されたら二度と戻れないのが日本相撲協会のルールだという。
大麻はもちろんよくないし厳しさで対処するのも一つのやり方だろう。けれど、もう一度チャンスをあげて育てた力士が、いつか横綱なんかに昇進して、テレビの解説者が「一時は大麻でどうなるかと心配されましたが、実に見事な横綱です」とか言うのを聞くのもきっといいはずだ。
角界に限らず、若者の過ちを温かく包み込む力の薄れが、世の中を生きづらくしている気がしてならない。
毎日新聞 2008年9月19日 0時03分
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