わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

説明責任=坂東賢治

2008-09-19 | Weblog

 米メディアは説明責任にうるさい。共和党初の女性副大統領候補になったペイリン・アラスカ州知事が初めてインタビューに応じたのは芸能誌的存在の「ピープル」誌。政治コメンテーターの間には「もっとメディアに会うべきだ」と不満の声があふれた。

 11日にABCテレビが主要メディア初のインタビューを放映した。先制攻撃を正当化した「ブッシュ・ドクトリン」を知らずに言葉に詰まるなど経験不足も露呈した。演説はふりつけができても、インタビューには本質がのぞく。

 それでも避けては通れない。パートナーの大統領候補、マケイン上院議員は「(ペイリン氏は)これから多くの人とインタビューする」と話している。投票まで約50日。インタビューは討論会と並んで真剣勝負の場になる。

 ウォーターゲート事件のスクープで知られるワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード編集局次長が新著「内なる戦争」を出した。イラクへの増派を決めるまでのブッシュ政権の混乱ぶりが描かれる。

 政権の内幕を暴くシリーズの第4弾。ブッシュ大統領も3時間近いインタビューに応じた。ホワイトハウスは政権の混乱を否定する長い反論を発表したが、本に引用された事実を否定してはいない。

 見解の相違はあってもメディアを忌避はしない。説明責任やメディアの役割について共通認識があるからだろう。

 01年9月の同時テロから7年。「監視国家化」など米国の変質も指摘される。しかし、メディアと政治が健全な緊張関係を保つ限り、歯止めがかかると考えるのは楽観的すぎるだろうか。(北米総局)




毎日新聞 2008年9月15日 東京朝刊


祭りのあと=磯崎由美

2008-09-19 | Weblog

 「見て見て、全員いる」「麻生さーん!」。自民党総裁選の全国遊説初日となった11日午後4時。東京・渋谷ハチ公前は5000人を超える聴衆であふれかえった。

 今回の総裁選で自民党は遊説日程を告げる異例の新聞広告を出した。党広報局は「お祭り騒ぎと批判されているので、真摯(しんし)に政策論議していると知ってほしかった」と説明する。だが支持者らは各候補の名前を書いたプラカードやのぼりをあちこちに掲げ、まるでアイドルのコンサート会場。女子中学生まで麻生太郎幹事長にカメラ付き携帯電話を向ける。

 あの時と重なる。

 小泉純一郎ブームが起きた01年の総裁選。時の人見たさに集まる有権者の熱は過去の選挙取材で感じたことがないものだった。それから7年。改革の名の下で格差が広がっても、世論調査のたびに「首相にふさわしい人」として小泉氏の名が挙がり続ける。

 そこまで支持される理由はたった一人で「自民党をぶっ壊す」と言い放った豪快さにあったのだろう。それに比べ、今回は5人で1組。唯一の女性候補が「霞が関をぶっ壊す」と言ったところで、豪快さどころか二番せんじの印象ばかり強まるのだが……。

 次の総選挙が初めての投票という男子大学生(21)がいた。「みんな麻生さんのキャラに引かれているだけなのかな。分かりやすく訴えているようだけど、なぜ伝わってくるものがないんだろう」

 祭りの間、人は現実を忘れる。演説が終わった。人波に交じり去っていく大学生の脇を通り、周辺で寝泊まりするホームレスが戻ってきた。(生活報道センター)




毎日新聞 2008年9月17日 東京朝刊