「見て見て、全員いる」「麻生さーん!」。自民党総裁選の全国遊説初日となった11日午後4時。東京・渋谷ハチ公前は5000人を超える聴衆であふれかえった。
今回の総裁選で自民党は遊説日程を告げる異例の新聞広告を出した。党広報局は「お祭り騒ぎと批判されているので、真摯(しんし)に政策論議していると知ってほしかった」と説明する。だが支持者らは各候補の名前を書いたプラカードやのぼりをあちこちに掲げ、まるでアイドルのコンサート会場。女子中学生まで麻生太郎幹事長にカメラ付き携帯電話を向ける。
あの時と重なる。
小泉純一郎ブームが起きた01年の総裁選。時の人見たさに集まる有権者の熱は過去の選挙取材で感じたことがないものだった。それから7年。改革の名の下で格差が広がっても、世論調査のたびに「首相にふさわしい人」として小泉氏の名が挙がり続ける。
そこまで支持される理由はたった一人で「自民党をぶっ壊す」と言い放った豪快さにあったのだろう。それに比べ、今回は5人で1組。唯一の女性候補が「霞が関をぶっ壊す」と言ったところで、豪快さどころか二番せんじの印象ばかり強まるのだが……。
次の総選挙が初めての投票という男子大学生(21)がいた。「みんな麻生さんのキャラに引かれているだけなのかな。分かりやすく訴えているようだけど、なぜ伝わってくるものがないんだろう」
祭りの間、人は現実を忘れる。演説が終わった。人波に交じり去っていく大学生の脇を通り、周辺で寝泊まりするホームレスが戻ってきた。(生活報道センター)
毎日新聞 2008年9月17日 東京朝刊
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