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OECD学力調査結果(PISA)に見る「学力低下」の原因は・・・

2005年10月10日 | 「学び」を考える
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 上杉賢士・市川洋子著『プロジェクト・ベース学習で育つ子どもたち―日米18人の学びの履歴』(学事出版)は、児童生徒を中心にすえた学びの実現をめざす者にとって、きわめて示唆的であり、感動的でもある。たっぷりと時間をかけて学習者自らが立てた課題に取り組むプロジェクト・ベース学習を取り入れることは、現在の多くの日本の学校ではむずかしい。しかし、この本を通じて、少なくとも、子どもにとっての学力とは何か、学ぶことは何かを問い直し、その理念を何らかの形で私たちの日常の教育活動に反映させていくことは可能ではないか。そんな思いから、ここでは、この本の直接のテーマではないが、PISAの結果をどう受け止めるかを論じた部分(p.73-p.77)を取り上げ、私見をまじえて要約させていただき、「学力向上」の方向性を考えるよりどころとしたい。
プロジェクト・ベース学習で育つ子どもたち―日米18人の学びの履歴

学事出版

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 OECDが加盟41カ国・地域の15歳を対象として2003年に実施した「国際学習到達度調査(PISA)」の結果、2000年に実施された前回調査に比べて、わが国の子どもたちは「科学的リテラシー」は2位を維持したものの、「読解力」は8位から12位へ、「数学的リテラシー」も1位から6位へとランクを下げた。この結果を受けて、かねてからの学力低下論争が再燃し、読解力で連続して優れた成績を収めたフィンランドに倣って図書館や読書活動の推進をめぐる論議が盛んになっている。しかし、順位だけに目を奪われて、真に問われている問題を見失ってはならない。調査内容と結果を分析した『生きるための知識と技能2 OECD生徒の学習到達度調査(PISA)2003年調査国際結果報告書』(国立教育政策研究所編、ぎょうせい、2004)の「はしがき」によると、この調査は「単なる国の順位付けを目指すものでも、それぞれの国の生徒が学校カリキュラムを通して知識を単にどれだけ獲得したかを測定しようとするものでも」なく、「将来生活していくうえで必要とされる知識や技能が、義務教育終了段階でどの程度身についているか」を測定する目的で行なわれたと明記されている。
 私たちは、児童生徒を中心にすえた学びの実現に向けて、PISA(2003)の結果をどのように受け止めればよいのか。調査で取り上げられた3つの概念は、次のように定義されている。(2003年の調査では問題解決能力も取り上げられている。)

読解力:自らの目標を達成し、効果的に社会に貢献するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」
数学的リテラシー:数学が世界で果す役割を理解し、さまざまな生活場面で数学的根拠に基づき判断を行い、数学にたずさわる能力
科学的リテラシー:自然界の変化について理解し、意思決定するために、科学的知識を応用し、課題を明確にし、証拠に基づく結論を導き出す能力
 
 読解力を例にとると、わが国の教育は「書かれたテキストを読んで理解する」ことに終始していて、「自らの目標を達成し、効果的に社会に貢献」するために「(書かれたテキストを)利用し、熟考する力」を育てることは、これまであまり重視されてこなかった。出題の意図と、わが国の「読解力」の概念とは異なっているのであるから、その弱点があらわになった調査結果は妥当とはいえないか。
 じつは、2000年の調査でも、書かれたテキストをもとにして自分の判断や意見を求める論述問題にわが国の無解答の数(47.7%)はOECD全体の平均(35.8%)より、はるかに多かった(上記『生きるための知識と技能』2000年度調査報告による)。しかし、日本の教育界は、その結果にたいして、これといった抜本的な手は打たなかった。それにたいして、フィンランドの教育省は徹底的な結果分析を行い、プロジェクト型の教育方法を取り入れた授業改善に取り組んだことが『フィンランドに学ぶ教育と学力』(明石書店)に記されている。とはいえ、わが国でも、1998年に現行学習指導要領を改訂し、「生きる力」すなわち「自分で課題を発見し、自ら考え、自ら問題を解決していく資質や能力」を重視する教育が提唱され、2002年からは小中高校を通じて「総合的な学習の時間」が行なわれている。しかし、その新しい理念に現場の教師が戸惑い、週5日制やゆとり教育に反対する「学力低下論争」にゆれて、新教育課程が軌道に乗らず、十分な成果を上げないうちに、2000年から2003年にかけてのPISAの結果がでた。奇しくも、学力調査とともに行なわれた「学校質問紙」への回答では、「改革に対する教職員の抵抗」があると答えた学校の数が42%、13か国中2位であった。「教師が生徒に対して厳格すぎること」は1位、「生徒の潜在能力を十分引き出すような指導がなされていないこと」と「生徒と教師の人間関係が乏しいこと」は3位であった。そのほか、数学の授業で「先生は生徒一人一人の勉強に関心を持っている」、「先生は、生徒が分かるまで何度でも教えてくれる」など5項目の平均値は13か国中最低、教師と生徒の関係を示す「多くの先生は生徒の満足度に関心がある」「先生は助けが必要なときに助けてくれる」など5項目の平均値も最低。「仕事に役立つことを教えてくれた」と学校を肯定的に評価する生徒は59パーセントで、参加国平均89パーセントを大きく下回った。
 学習者中心の学びを通して世界や自然にたいする理解を深め、意思決定ができ、社会に貢献する市民を育てる教育を実現するという視点からこのデータを見るかぎり、日本の教育は、けっして恵まれた教育環境にあるとはいえない。
 私は、わが国特有の劣悪な教育環境の1つとして、メディアセンターとしての再生を果せないまま低迷している学校図書館の整備の立ち遅れがあることも指摘しておきたい。学習者を中心においたプロジェクト型の学びを推進するには、多様な情報源を利用して情報を収集、活用できること、なかでも、じゅうぶんな文献調査とその指導を行なうことができる環境の整備が不可欠である。

 プロジェクト型の学びで成果を上げている学校の1つに、大阪府立松原高校がある。しかし、残念ながら、以下の報告にも、メディアセンターとしての学校図書館の姿、生徒に対するアドバイザー、教師のコンサルタントとしての司書教諭の姿は見えてこない。

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