ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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「総合的な学習の時間」から考える「本物の学び」

2014年12月10日 | 「学び」を考える

 

(久しく学校現場を離れていると学校教育をめぐる昨今の状況が気になって仕方がありません。言わずもがなの議論ですが、老人の繰り言とご容赦ください)

「総合学習は私たちの本気を引き出してくれた」
 もう一か月も前のことだが、11月12日付け毎日新聞朝刊に掲載された「記者の目:総合学習のいま」の冒頭に目を見張った。今春から公立小学校の教壇に立つ女性教諭のことばである。小学校での「総合的な学習の時間」で自らの引っ込み思案を克服した経験をもつ彼女は、そのときに体験した「感動、達成感、生きた学び」を「今の子供にも伝えたい」と教師になったという。
 記事はつづいて、2014年度の全国学力テストの分析結果を取り上げている。総合学習で「自ら課題を立てて情報を集めて整理し、発表する」、いわゆる探究型学習に「取り組んだ」小学6年児童は、国語B問題(応用)の平均正答率が62・4%で、「取り組まなかった」児童の43・7%にくらべて約19ポイントの差がついた。算数Bも19ポイント差、中学3年の国語B、数学Bでも11〜13ポイントの差があった。この結果は、(総合学習によって学力が向上したとはいえないまでも)探究型学習を遂行する能力と全国学力テストのB問題が求めている学力との間に高い相関があることを示している。
(注:全国学力テストのA問題は主として基本的な知識・技能を問い、B問題では「知識・技能等を実生活の様々な場面に活用する力や,様々な課題解決のための構想を立て,実践し,評価・改善する力など」が問われる)
 記事はさらに、東京大学が16年度の文学部の入学者選抜から導入する推薦入試の応募要件に「総合学習の成果物の提出」を例示したことにも触れて、総合学習が、これからの学校教育で期待されるツールであるとしている。
 これまで「ゆとり教育」批判の中で学力低下の一因とされることが多かった「総合的な学習の時間」だが、その成果と意義に着目するこの記事に大いに励まされた。
 学びの結果として学力テストの点数が向上し大学入試に役立つのは悦ばしいことだ。だが、その一方で結果や成果ばかりに目を奪われて学び本来の目的を見失ってはいけないと思う。「総合的な学習の時間」は、上辺だけのおざなりな実践が批判の的になってきたことも事実だ。ただ子どもたちが体験し、調べて発表すれば、おのずから「生きる力」がつくのではない。子どもたちが学ぶ意味を実感できてこそ、強いインパクトをもって知識や技能を身につけることができるし、もっと学びたいという意欲も生まれる。そのために欠かせないものは何か。子どもたちが「感動、達成感、生きた学び」といった実感をともなって人間的に成長していく「本物の学び」(authentic learning)を経験するために、教師は指導にあたって何を大切にすればいいか。自分の教師経験を振り返ってみると、以下の3点に集約できそうだ。

「関わる」 まず、自分の身の回りの出来事にしっかりと触れる。社会生活や自然の営みのなかで起こっていることを自分との関わりにおいてとらえる。そこで気づいたこと、驚いたこと、不思議に思ったこと、矛盾を感じたこと、疑問をもったことなどが学びの原動力となる。自然に触れて、その神秘や不思議に目を見張る感性のことをレイチェル・カーソンは「センス・オブ・ワンダー」と呼んだが、自らの感受性を高めて環境から発せられる情報を感知し、ことばにならない感覚や感情を受けとめることがあらゆる学びの出発点となるだろう。

「考える」 自分がすでにもっている知識や手に入れることのできる情報を総動員して考える。結論や成果を急がず、広い視野に立って多様な観点から問題を掘り下げる。「よりよく問題を解決する」には、自己中心的・集団中心的な思考におちいらないことが大切だ。自分や自分の所属する集団の価値観や利害を守ることを最優先にしてものごとを考えない。そのためには対話が必要だ。対話は、ただ話し合うことではないし、説得や自己主張の応酬でもない。相手の話をよく聞いて自分の考えを深める。他者ばかりでなく自分を相手に対話することも必要だ。本を読み、自然や物に触れても、それらを相手に対話することができるだろう。対話をとおして自分の思考過程を省みながら、より良い方向に導いていくこともできる。クリティカル・シンキング(critical thinking)と呼ばれる、この思考法については、私が師事したリチャード・ポール(Richard Paul)とリンダ・エルダー(Linda Elder)による「思考の枠組み」が参考になる。(ちなみに、私が最初にクリティカル・シンキングに触れたのは、20世紀初頭にアルフレッド・コージブスキーが開発した「一般意味論」であり、今も多大な恩恵を受けている)

「超える・破る」 学習過程のあらゆる局面に立ちはだかる壁を打ち破り、乗り越える。身をもって関わることや深く考えることへの「抵抗感」。既成の概念や常識、自己中心的な考えへの「囚われ」。能力、気力、体力の「限界」。制度や社会慣習、人間関係などから来る「プレッシャーやストレス」など、さまざまな「行き詰まり」や「挫折」を乗り越えて局面を打開し、道を切り開くには、学び合う仲間と助言や励ましをあたえてくれる指導者の存在がこの上ない助けになる。現実社会の複雑な問題を解決するには、多様な個性と役割をもった人たちが参加して集団としてのパフォーマンスを向上させることが必要だ。他者と協力して壁を乗り越える経験を個人の資質や能力の向上に役立てることもできる。こうして学校の中に、失敗を許容しながらお互いの学びを支え合って壁を克服する「文化」を育んでいくことが、生涯にわたる学びの基盤を形成していくことになるだろう。

 子どもたちが日々の生活の中で身をもって感じとった疑問や問題を自分の力で考え抜き、さまざまな壁を乗り越えて、新たな気づきや発見をもたらし、新たな知識の構築や創造にいたる。そのためには、まず手もちの知識や技能を総動員して課題に立ち向かうことが大切だ。安易に誰かに解を求め、検索に走ることは、考えることを停止させ、学びを疎外することになりかねない。教師は、子どもの学びに寄り添って、その活動を見守り、子どもの話をよく聞いて、どの段階で、どのような介入をすべきかを判断しなくてはならない。そして、子どもたちが自ら行き詰まりを打開できるように、ただ励ますだけでなく、別の観点を提示し、良質な情報源につなぎ、対話を促すことが必要だ。
 では、子どもたちに「本物の学び」を促す「総合的な学習の時間」をつくるために学校は、どのような体制をとるべきか。カリキュラムにどのように位置づけて、どのような指導をおこなうか、教師の力量をどのように担保し、準備と実施にどれほどの時間と労力をかけるか、教科や職種を超えた教職員間の同僚性の構築と協働をどのように進めるか・・・課題は多いが、教師自身の能力開発が鍵になることは間違いないだろう。

次回は「総合的な学習の時間」における学校図書館の働きについて考えたい。

 

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3 コメント

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多分初めてのコメントです (tsuguo-kodera)
2015-01-16 06:02:03
 ぼけ老人ですので、物忘れがひどく、何回かアクセスしたはずですが、今までコメントはしなかったはずです。非常勤ですので、図書館は別世界なのです。
 私は総合と学びあいと生きる力を担当している先生や教頭に高校でアドバイスをしている者です。
 完璧に同感です。図書館は会社で情報技術センターを担当した時、無責任な管理職長としてかかわっただけです。
 とても管理人様の総合に対して得るところがありました。今後ともよろしくお願いいたします。
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コメント、ありがとうございます。 (足立正治)
2015-01-16 08:51:20
励みになります。高校の総合、学び合い、生きる力について先生方に助言をなさっているそうですが、今後とも、現場の実践についてお気づきの点などをお聞かせいただければありがたいです。
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教材の絵本はおくれます (tsuguo-kodera)
2015-01-16 12:45:13
 こちらのサイトは私の要求条件で指導員を担当している方と一緒に作成しています。決して怪しいサイトではありません。むしろ怪しさを醸し出して変なアクセスを少なくしているのです。
 そこの真ん中の最下段の当たりに今年度作成した教材の案がたくさんあります。いまそのプレゼン資料を絵本化しています。日本語英語中国語で。完成したのはまだ一つですが、続々作りたいと思っています。
 未来の絵本も低下は決まっています。これも1冊100円ですが、はじめての部外者の関心と言えますので、送り先が分かればsuzuki指導員から無償で送ります。私が彼に送料を含め支払っておきます。
 ぜひ、そのサイトで依頼してください。実名と思えるハンドル名の管理人様は少数派ですので嬉しくなりました。サイトだけでも助言の内容は分かると思います。
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